光り輝く淳子の才能!真価発揮のライブBOX
あれは07年の8月。淳子ファン悲願の紙ジャケ復刻盤のリリース開始は、その月にお亡くなりになった阿久悠さんが最期に「最高の教え子のことをよろしく頼むよ」と言い遺したかのようなタイミングでした。しかし、売れ行きが今一つだった…。
それは誰もが予見していたことかもしれないけれど、ワタシはせっかく企画されたライブBOXが頓挫しやしないか、気が気ではありませんでした。だって、いくら淳子が優れたエンターティナーであったとしても、普通に考えて、ライブ盤——しかもボックスとなると、オリジナル復刻盤より売り上げが見込めないのは当たり前のことですから。
天国の阿久さんに祈るような気持ちで実現を待ちましたが、あれから1年。ちょうど1周忌となる8月にやっと願いはかなうのです。
そう、桜田淳子のLIVE BOX「 桜田淳子BOX〜スーパー・ライブ・コレクション 」が、DVD付きでついに降臨するのです。コレはまぎれもなく、ビクターの大英断。たとえ勝算がなくとも発売に踏み切ってくださったことに、限りない感謝と惜しみない拍手を送りたいと思います。
これにご賛同いただける皆さんは、ぜひ予約という態度で示していただければ幸いです。
と、いきなりオーバーな書き出しになってしまいましたが、それもとっても淳子的でしょう?
さて、悲願のライブボックスは、74年から80年までにリリースしたライブ盤全7タイトルを8枚に完全収録し、前回の紙ジャケ復刻で漏れた映画サントラ「白い少女のバラード」(プラスB面カラオケセレクト)をプラスしたCD9枚。
そして79年のNHKビッグショーの模様を収めたDVDを付けた全10枚組。むろんオリジナルLP紙ジャケコレクションと同様、紙ジャケ完全復刻となっております。
淳子のライブコレクションはトップアイドルとして精進を続け、エンターティナーへと成長を遂げる軌跡を綴った貴重な資料にして、70年代の若手アイドルが誰一人として到達することができなかった世界。
ステージの上でこそ最も光り輝いた桜田淳子というシンガーの歩みを、つぶさに記録したというだけでなく、その才能と実力の疑う余地のない証拠ととらえることも可能ではないでしょうか。
まずは、74年12月リリースの「16才のリサイタル」。これは10月に渋谷公会堂で行われた第1回リサイタルの実況録音盤です。
日テレ出身らしく司会が徳光さんというのも一興。初めて聴いたら陳腐かもしれないけど、当時の歌手興業って司会とセットは当たり前。ワンマンショーが珍しいからそういう名詞があったのですしね。で、バックを務めるのは、おなじみダン池田とニューブリードの面々。アレンジはほぼ全曲が服部克久さんと、淳子のリサイタルは一流ミュージシャンのサポートのもと華やかにスタートしたのでありました。
歌は「花占い」から始まるという凄さ。もちろんこれは当時の最新ヒットだからなのですが、今となっては驚くほど象徴的ですよね。常に昨日の自分を超えることを目標にしていた淳子は、「太陽のとびら」「トップ・オブ・ザ・ワールド」「天使のささやき」などソウルやスタンダードを含む洋楽にもチャレンジ。国際的な活躍やものまねも披露するなど、生真面目で楽しいリサイタルの模様がしっかり収録されています。
特筆すべきは、ひたむきなアルバム曲「涙はたいせつに」。確かCD-4盤も出ていたように思いますが(このLP、レコード店で帯違いのをたくさん見た記憶があります)、曲目に違いがあったかは定かでありませんが、カセット版も含めもし違いがあったら、きっとボーナストラックとして収録されることでしょう。
続く75年12月発売の「ビバ!セブンティーン/桜田淳子リサイタル2」は、10月に東京文京公会堂で開かれた「17才のリサイタル」を収録したもの。
“淳子、17才の愛と歌と青春!そのすべてをひたむきに歌いこむライブ!! ”というオビのコピー通り、荒削りだけど体当たりの、まさしく淳子的なライブです。第1回と同じバックを従え、60年代の洋楽曲や「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」といったヒット曲にも挑戦。何を歌っても、すべて淳子節なのが素晴らしいですね。
優れた合唱曲として知られる「遙かな友に」や、リサイタル用に書かれたと思われるオリジナル「心のページに」の感動的なこと。確かに芝居がかってはいますし、心ない人たちは既にこの頃から「わざとらしい」と非難していましたが、そんなことない!あの子は一生懸命なだけ!と淳子をかばいたくなってしまいますね。
76年9月の「青春讃歌/桜田淳子リサイタル3」は、7月に東京は中野サンプラザからスタートした全国縦断リサイタル初日を収録した堂々の2枚組。名実ともにトップアイドルの座に上り詰めた時期の自信に満ちた淳子の世界です。
“青春…って、悲しかったり、うれしかったりするバカ正直な季節……きいて下さい!のってる淳子を”というコピーの素晴らしいこと。ワタシ、淳子のLPの帯コピーって、ホントにお見事だと思っていますが、コレは特に好きなフレーズです。
中身は1枚目がバカラックやビートルズなどの洋楽カバーをたっぷりと。2枚目が「夏にご用心」「ねえ!気がついてよ」といった最新ヒット曲やフォークヒットなどでまとめられています。自作詩の「かあさん」も披露。限りある収録時間、見どころが全部収録されているわけではないし、七変化の衣装が見られないのがホントに残念ですが、お客さんを楽しませることに徹し、サプライズたっぷりのショーにしようという意気込みが感じられます。バックは今城嘉信とザ・コンソレーション。
そして77年11月に出た「淳子リサイタル4 〜ラブ・トゥゲザー〜」。9月に東京・芝の郵便貯金ホールで開いた同名リサイタルを収録の2枚組。
帯には “「淳子の19年間」をあなたに洗いざらいおしえまショー!心で歌い、心で応援されて!心のふれあいをつくった、素晴らしいステージになれたと信じています。”と記されていますが、まさにその通り!アイドルとして駆け抜けた4年半をまるで総括しているような充実ぶりなのです。洋邦のカバーにリサイタル用のオリジナル、自身の新旧ヒット曲をうまく織り込んでショーアップされたステージは、エンターティナー・淳子の独壇場。スタジオ録音では聴きづらくなってきたあの声も、一切気にならないほど魅力的。その後の成長を予感させる仕上がりとなっていますね。
等身大、素顔の淳子ストーリーも散りばめられ、「悲しきサルッコちゃん」「30年後のゆれてる私」などコミカルな要素もふんだん。ステージ進行とか、本格ミュージカルっぽい流れとか、映像で見たくなること請け合いのライブです。
ところで、こういう華のあるステージを見せるため、淳子が努力に努力を重ねてきたことは今さら言うまでもありませんが、エンターティナーの素質として忘れてはならない大きな要素がファッションセンスだと思います。
スレンダーでスタイル抜群だったこともありますが、淳子の洋服ってミドルティーンの頃から多くの女の子に注目されていました(74年の紅白の3ショットを見よ)。田舎出のコだから必死に頑張ってるんだよなんていうイヤな陰口があったのも知ってはいますが、この頃の淳子は私服も常にカッコよかったですし、雑誌とかのベスト・ドレッサー特集では必ず名前が挙がっていたように記憶してます。
天性の美貌はさておき、こういう自己演出とか、人前での変身の面白さを自覚し、それを積極的に見せていた女の子だからこそ、そこに努力で身につけた実力が加われば鬼に金棒。同世代の歌手が束になってもかなわなかったのは当たり前だと思います。
事実、百恵ちゃんをはじめ同世代の女の子たちはみな、淳子にはかなわないと思っていたワケですしね。
78年11月発売の「LIVE!淳子リサイタル5」。コレも東京・芝の郵便貯金ホールで、9月に収録されています。前年暮れから「しあわせ芝居」のヒットで新境地を切り開いた淳子の脂は乗り切って、ある意味最高潮を迎えたことをひしひしと感じます。
セールス的にも全盛期を過ぎたため1枚ものとなっていて、オリジナルは中島みゆき提供の2曲だけなのが残念ではありますが、最新ディスコの要素も散りばめ、フィーバーする淳子の汗が輝いて見えるようにエネルギッシュです。
淳子のステージには欠かせなくなった今城嘉信とザ・コンソレーションとの息もぴったり。プロ同士の心を合わせたステージングこそライブの醍醐味ですね。
続く79年12月発売の「淳子スーパー・ライブ リサイタル6」は、恒例のリサイタルのライブ盤 としてはラスト。“ようこそ淳子の舞台(ステージ)へ これからのひとときが、あなたにとって楽しい時でありますよう、 舞台から祈りを込めて歌います。”とあるように、このアルバムの淳子はとってもエレガントです。もう洗練と言っていいほどの流れでしょうか。
EW&Fの「セプテンバー」を皮切りに、ディスコあり、バラードあり、ヒット曲ありの構成ですが、歌がとか、声がとか、そんなことはもうどうでもよくなるほど美しい。ステージでの所作というか、美しい立ち居振る舞いが見えずとも手に取るように分かるんですよね。
淳子の真実と善行、そして美しさを感じるまことに正統なコンサートと言えるでしょう。後半のディスコヒッツ&淳子ヒットメドレーは圧巻のひとことです。
そして、ラストのライブ盤にして最高傑作と言える出来なのがコレ。80年7月リリースの「私小説」です。5月に銀座・博品館劇場で行われた“桜田淳子らいぶ”の実況録音盤。
タイトルや“素顔の淳子の心を語り、そして歌います!!”というコピーの通り、背伸びせず、リラックスして楽しめるコンサートです。小劇場ならではの雰囲気と相まって、観客は淳子の部屋に訪れたゲスト。レコードを聴いている人でさえ、彼女と会話しているような錯覚を覚えてしまうことでしょう。幕が下りた後は、震えるような余韻と、静かな感動に包まれること請け合いです。
大舞台もいいけれど、小さなハコなら神々しいまでの魅力となりますね。目を閉じて聴いていると、照明なんかいらないほど光り輝く淳子が見えるようです。選曲も、ジャニス・イアンのしっとりしたバラードをメインに、洋邦のスタンダード、ユーミンや大滝詠一作のお気に入りソングまで、どれもが淳子の心を映し出したようなものばかり。いいえ、歌というよりも、絶妙の間をもって繰り広げられる一人芝居なのかも。
さて、当時の最新シングル「美しい夏」は百恵ちゃんらしき人が出てくると話題になった歌ですが、それを歌った後、「秋桜」を披露する心憎さ。若き日に“悩みを打ち明け合った涼しい目をしたあの人”の歌が、淳子ならではの解釈で味わえるのです。
しかし、淳子の表現力ってスゴイ。若き円熟と申しますか、ベテランの域に達するほど貫禄たっぷりなのに、可憐で初々しく、いじらしい。ペーソスとユーモアにあふれたミュージカルスターか、ナチュラルなのに手が届かない高嶺のアクトレス・シンガーか。そんな風に思わせる、上品で華麗な風情なのです。淳子ファンならずとも、エンタテインメントがお好きな御仁なら、絶対気に入りそう。自称名盤数々あれど、コレこそ聴くに価する名盤ですぞ。
天才が努力を重ねればどうなるか、その実証と言ってもいいほどの仕上がりだとワタシは心から思っております。
ここまできたら「アニーよ銃をとれ」とか、歌手・桜田淳子の総括であった10周年ライブの音源だとか、レコード化されていない作品を聴きたいという強欲さが首をもたげてくるんですけど、今回はあくまでも商品化された淳子のライブということですし、出ることだけでも奇跡みたいだし、ただ感謝しましょう。
と言いつつ、レコード化で思い出したのは、淳子がお兄さんと慕いサンミュージック入りを決めるきっかけとなったモリケンこと森田健作とのショー。淳子の出演した回がLPになっていたような…。まだリサイタルを開くほどではなかった初期の淳子の歌声を聴いたような気がしますので、もし、そういうのもかき集めることができたなら、最初で最後のライブボックスがさらに価値あるものになりますね。そうなると淳子ファンの皆さんは、もう思い残すことがないかも。
ともあれ、日本の歌謡史上に大きな足跡を残す、この歴史的財産を、この機会にぜひ。あ、オリジナルアルバムの紙ジャケ復刻(こちらとこちらで紹介)もアンコールプレスされ絶賛発売中。
さらに03年に出た淳子初のBOX「 桜田淳子 BOX -そよ風の天使-アンコールプレス盤 」(シングル完全収録+歌番組の歌唱映像DVD付き)も完全受注生産でアンコールプレスされるとか。前回買い逃した方やコンプしてないという方は、今回こそお早めにネ!淳子のお願い!
(2008.5.27)