幻の「サウスポー」収録!永遠の阿久作品、ウラBOX!
夢は砕けて夢と知り、愛は破れて愛と知り、時は流れて時と知り、友は別れて友と知り…(阿久悠/人間万葉歌ー序文より)。
1周忌を迎えた2008年8月は、まさに阿久さんの夏でした。特番にドラマ、トリビュート盤や淳子のライブボックス、MAKOちゃんの紙ジャケ復刻などなど、あらためてその偉業を振り返るメディアの多かったこと。かつて発売されたボックスや作品集も活発な動きを見せたといいますから、阿久さんの名作の数々を思い出し、口ずさんだ皆さんも多かったことでしょう。かく言うワタシもその1人で、理屈ではなくカラダに染み付いた阿久さんの詞の数々を実感したことでした。
そして今、2005年に出た40周年記念ボックスの続編として、この5枚組「 続・人間万葉歌~阿久悠 作詞集 」のリリースが発表されました。97年に出た14枚組「 移りゆく時代 唇に詩~阿久悠 大全集~ 」がご本人の意思が最も色濃く表れた集大成ボックスとするなら、このシリーズは阿久さんの私家版という趣。2005年の第1弾「 人間万葉歌~阿久悠作詞集 」は大ヒット中心の王道で、コアな歌謡曲ファンにとってはどうしても物足りない選曲になってしまっていましたが、今回はウラ版といいますか、大ヒットの陰で目立たなくなってしまったヒット曲や、知る人ぞ知る隠れた名曲、そしてカバーやトリビュートもいっぱいの、まさに我々向けのカルトな作品集となっています。
前回はカテゴリー別に分類し、それぞれのディスクには映画をこよなく愛し、映画を詠むよう詞を書いた阿久さんらしいサブタイトルが付けられておりましたが、それは今回も同じ。4枚のディスクに「愛と追憶の日々」「大人は判ってくれない」「冒険者たち」「誰が為に鐘は鳴る」という阿久さんの大好きだった映画のタイトルが冠せられています。最後の5枚目は特別盤「続・人間万葉歌 ~阿久悠トリビュート」として、新録音を含めむカバー集。本当の意味での追悼集と言える仕上がりです。可能な限り自選集に近づけるというテーマや、ビートルズの青盤、赤盤に見立てているというのもうなずけますね。
で、気になる収録曲は、新沼の謙ちゃんの「おもいで岬」を筆頭に、ヒロリンの「私たち」、ジュリーの「あなたに今夜はワインをふりかけ」、浅井慎平の「湘南哀歌」、八代亜紀の「花束(ブーケ)」などなど、個人的に大好きな曲もたくさん入っておりますが、イチバンの目玉はやっぱりピンク・レディーの「サウスポー」お蔵入りバージョンの収録でしょう。
ちょっと説明しておきますと、あれは忘れもしない1978年。「UFO」に続く新曲は「サウスポー」と発表され、月刊明星では先駆けて振り付けの募集がなされていました。もちろんワタシも応募して、当時の子どもたちと同じく3月5日のレコード発売を楽しみにしていたものです。でも、発売は25日に延期…。たいそうガッカリしたというか、ひどくショックを受けたとともに、空白の20日間がヒジョーに長かったことを今でもハッキリ覚えています。
結局はレコーディングを終えたものの今ひとつの仕上がりで、急遽作り直したのが延期の理由だそうなんですが、お蔵入りとなったバージョンは20年以上経った後、阿久さんと酒井さんのドキュメント番組で一部オンエアされるまで耳にすることはありませんでした。出来はともかくとしても2年前、PLのボックスに入るかと期待していたんですがそれも叶わず、すっかりあきらめていたところにこのニュースが飛び込んできたんです。執念深い自分に辟易としながら、天国の阿久さんにあらためて手を合わせたことは言うまでもありません。
そして、もう1つの目玉は研ナオコの「うわさの男」。アン・ルイスのカバーの方が先にCD化(「 君の唇に色あせぬ言葉を〜阿久 悠 作詞集 1978 」)されちゃったし、東宝時代の音源は封印されているのではと勝手にあきらめておりましたので、手放しでうれしい。友人に録ってもらったテープをずーっと愛聴してきましたしね。そんなのワタシだけかもしれませんが…。
またDISC5も、つじあやの「渚のシンドバット」や、キリンジ「もしもピアノが弾けたなら」、クレイジーケンバンド「あの鐘を鳴らすのはあなた」といった新しいバージョンから、デューク・エイセスの「恋のダイヤル6700」など興味津々のカバーまで、とても楽しめそう。もちろん読みごたえたっぷりの解説や名曲秘話の入ったブックレットも楽しみです。
阿久さんが亡くなったことによって、かつてないほど阿久さんの数々の詞が耳に入ってきたこの1年。
子どもの頃、スタ誕での少女なぶりに本気で反感を抱いたのは事実ですし、正直、苦手なものも多いし、どれほどヒットしようが、どれほど世間が名曲扱いしようが、全然好きになれなかったり、ちゃんと聴いてこなかった作品も格段に多いワタシですが、いかに無意識の阿久チルドレンであったか、いかに血中阿久さん濃度が高かったかを痛感し、驚愕し、恐怖を覚えてしまった1年でした。
ICチップを埋め込まれたかのごとく脳裏の奥底に刻まれ、勝手に口から飛び出してくるような詞の数々。歌い言葉になることで初めて、正しく成立するかのような名作たち。なぜそこまでしてワタシの中に入ってしまっているのか、阿久さんの遺した詞をいま一度ちゃんと味わって、その謎を解いてみようかと思っています。でも、聴き手に挑んでくる阿久作品ですから、発売に備えてまずは体力づくりをしなくっちゃ。
という感じなので、阿久さんシーズンコンピシリーズの秋編「 思秋期~阿久悠 作詞集 <秋> 」はまた追って紹介しますね。
(2008.8.28)