冬の厳しさの意味を知る、四季詞集・完結編
さあ、いよいよ完結となります。「 青春期〜阿久悠作詞集<春> 」「 恋夏期〜阿久悠作詞集<夏> 」「 思秋期〜阿久悠作詞集<秋> 」と一年間続いてきた阿久さんのシーズンコンピ。
最後を締めくくるのはコレ、「 感冬期〜阿久悠作詞集<冬> 」です。このコーナーでもずっと紹介してきましたので、ラストとなるとなんだか感慨深いのですが、阿久さんの遺した詞の数々は、これからもきっと聴き続けると思いますし、心に残り続けるはずですから、ただじっと耳を傾けることにしましょう。
収録予定曲としては、ジュリーの78年の賞レース参加曲にして孤高のハードボイルド「LOVE(抱きしめたい)」 (暑い時期から歌ってましたし、秋のイメージが強いけど…)、ライターを使ったアクションによる波紋で社会問題にもなったヒデキの「ブーツをぬいで朝食を」、カッコよさったらないCharの「逆光線」など、男性陣のインパクトが大です。
一方女性陣も、都はるみによる76年のレコード大賞受賞曲「北の宿から」、エンジェルハットで淳子に敗れた石川さゆりをスターに押し上げた「津軽海峡・冬景色」など、名作がドーンと構えていて、冬はやはりド演歌でという感じがします。
アイドルだって、阿久さんが偏愛したらしい大竹しのぶのほのぼのした「みかん」はあるものの、中核をなすのは駆け落ちソングにして伊藤咲子初のベストテンヒット「木枯しの二人 」ですから、その世界はなんともハードです。
また、意外な作曲家とコンビを組んでいる曲が目立つのも本作の特長ではないでしょうか。アダモの作曲が話題を呼んだ森進一「甘ったれ」もスゴイですが、この括りのナンバー1は、何と言っても中島みゆきとのコンビによる日吉ミミ「世迷い言」。TBS水曜劇場のドラマ「ムー一族」の劇中歌としておなじみですよね。これは鬼才・久世光彦さんの回文好きから始まったものだそうですけど、いつの時代も“ヨノナカバカナノヨ”という真理。初めは笑いながら聴いていても、やがてあの時代より真実味を帯びてきている現代社会にゾッとしたりして…。
あらためて聴いて驚きますが、こういう警鐘めいたフレーズが多いのも阿久さんならではだと思います。
通して振り返ると、秋もそうでしたが、阿久さんの描く冬には厳しさを覚えるほど寂しさに満ちたものが多いようです。清水ゆっこに書いた「ほたる坂」で語られたように、冬のはじめは心細くなるせいでしょうか。
なんとなく、枯れ葉をよけながら粉雪の道を歩く、手編みのマフラーをした猫背の女の子。彼女は笑顔もなくうつむいているみたい…なんていうイメージに引っ張られそうなのですが、収録曲に関係なくワタシが好きだった冬ナンバーを思い出していたら、真っ先に浮かんだのは全然別のイメージでした。
それは、森昌子の明るい素朴さが全面に出た「恋ひとつ雪景色」。確か井上忠夫(大輔)さん作曲で、マコのデビュー5周年記念曲だったと思うのですが、ホントに大好きでしたね。
窓一面に広がる雪景色に、ぽつんと見える赤いカクマキ。そのコントラストにハッとさせられながら純情可憐に綴られた詞、人情味あふれるメロディーライン、いかにも下町っ子だったマコのひたむきな歌声。すべてが足跡一つない無垢な雪景色のよう。ワタシはなぜだかあざやかに覚えているんですが、世間には全く忘れられているようで、とても残念に思っています。
むろんマコのキャラクターもあるけれど、こういう阿久さんの良心が書かせたような詞はスタ誕出身の女の子に多いなあと実感。それはきっと、阿久さんの親心なのでしょうね。情愛に満ちているからこその無愛想。心底心配しているからこその厳粛さ。あの頃は全く理解できなかった阿久さんの情ですが、今なら少しは分かるような気がします。
そんなことをつらつらと考えながら、天地の真理ちゃんもカバーしたフォー・クローバース「冬物語」を聴いていたら、阿久さんの厳しい冬の理由が見えたような気がしました。
寒さに凍え、行方も知らぬ旅が続いても、すれ違う夢に逢えなくてうつむいて生きてしまったとしても、冬の後には必ず春がやってくる。よろこびに満ちた春の足音が近づいてくる。その幸せを幸せだと感じられるのは、きっと厳寒の辛さを経験したからこそなのでしょう。
阿久さんの歌詞は、やっぱり一筋縄ではいかないみたい。今一度じっくり詠んで、歌って、阿久さん一流の歌い言葉をあらためてかみしめてみましょうか。
(2008.12.1)