ナツメロ喫茶店／オススメ復刻盤293

　今はなき東芝音工、東芝EMIですが、このレコード会社の歌謡曲ラインって、流行歌と言えども上質の音楽というか、歌唱力重視のアーティストが多かった印象がありますよね。それは和製ポップスや青春歌謡から始まって60年代に大成功を収めたせいだと思うんですが、70年代に入っても黛ジュン、奥村チヨ、小川知子、由紀さおりら一世代ビッグネームを抱えていましたし、70年代のヤングポップスに乗り遅れてしまってた感があります。オトナのレーベルというイメージが強かったですし、ヤングアイドルとして売り出された小林麻美や山口いづみにしても、ＣＢＳ・ソニーの南沙織や天地真理、ビクターの麻丘めぐみとは何だか毛色が違ってた。岡崎友紀も違う位置づけでしたしね。逆に、エキスプレスレーベルのフォークなんかは群を抜いてカッコよかったんですけど。

　で、70年代も後半になると大場クーミンみたいな人も出てきますが、核というか社風みたいなものは変わっていなくて、80年代も貫かれるのです。それを如実に証明するのが「東芝タレント・スカウト・キャラバン」。第1回の優勝者は石坂智子、第2回は川島恵、そして第3回が桑田靖子という流れです。みんな声質も歌唱力もズバ抜けてスバラシイんですけど、ヤングアイドルという範疇ではかなりムリがある人たちばかり。聖子、奈保子、よしえ、花の82年組らに囲まれると、どうしても見劣りしてしまっていました。そんな中でも「歌では負けないわよ！」みたいな闘志があればもうちょっと違う展開があったのかもしれないけど、石坂さんは場違いを自覚し萎縮してた様子に見えたし、メグは人が良すぎて先を譲っちゃうみたいな雰囲気でした。ホント、桑田靖子以外は悲しいぐらい控えめに見えたのです。みんな歌唱力はサイコーなんだから、高田みづえほど気が強かったら歌謡曲歌手として高い支持を受けたのではないか？なんて、ずっと残念に思っているワタシでした。

　と、前置きが長くなりましたが、今回のEMIミュージック・ジャパンの紙ジャケ復刻にこの三人も入っているんですね。ネグリジェ風のジャケに萎える石坂さんのファースト「 デジタル・レディー(紙ジャケット仕様) 」も名盤だし、桑田さんのセカンド「 ときめき(紙ジャケット仕様) 」もイイのですが、ここでは、単独では初のCDリリースとなるメグこと川島恵のファーストアルバム「 サンシャイン・ガール(紙ジャケット仕様) 」をプッシュしましょう。

　まずNHKレッツヤン・サンデーズのメンバーとしてお茶の間の認知度を高め、82年に満を持してレコードデビューしたメグ。阿久悠＋大野克夫＋船山基紀のゴールデントリオによる「ミスター不思議」がヘビロテされたものの、不発に終わってしまうんです。そりゃ、あの歌、なんだか古くさかったんですもん…。ミドルティーンだったワタシは、第2弾の「ザ・サンシャイン・ボーイズ」にハマりましたけど、阿久さんはもうティーンの心には寄り添えないことを確信したりしてました。で、このアルバムはその2枚のシングルを含むファーストアルバム。メグのボーカルはカラリと明るくて、柑橘系の爽やかさと、嫌味のないパンチ力が最高だと思いますが、ここではそれが際立っていますね。阿久さんの意向からか、大竹しのぶのカバー「握手」が入っていたり、ゴールデントリオがメインで、正直、テーマもサウンドも当時ですら古い感じでした。それを相殺しようとしてるのが、寺尾聰で名を上げた有川正沙子さんと、作曲家として大成しようとしてた林哲司さんのコンビ。メグ自体が流行りの女の子じゃなかったんで、デビュー曲にこういうナウい作家を起用したなら、82年組を勝ち抜いていけたのかも…。とまあ、こういう繰り言を言わせるほどの逸材だったんですね。

　ほかには、初代金八にもかかわらず歌手デビューが遅かったフックン夫人・つちやかおりのカバーメインの「 哀愁のオリエント急行(紙ジャケット仕様) 」、トーラスの販売元は東芝だったからEMI復刻が純正っぽい早見優のファースト久々のCD化「 AND I LOVE YOU(紙ジャケット仕様) 」、薬師丸ひろ子のセカンド「 夢十話(紙ジャケット仕様) 」などの名盤系から、サリナバチタ「 初恋神話(紙ジャケット仕様) 」 、相川恵里「 黄色い麒麟(紙ジャケット仕様) 」のロッテ系、川島なお美「 シャワーのあとで(紙ジャケット仕様) 」もラインアップ。翔んだライバルの辻沢杏子「 杏子...ストーリー(紙ジャケット仕様) 」や、ヘレン笹野「 ロマンティック・サマー(紙ジャケット仕様) 」なんて、アイドル・ミラクルバイブルでベストは出たけど、東芝だったからこそ復刻されるタイトルですね。

　という今回のある意味心配な感じもするラインナップ。あなたならどれとどれを選びますか？

（2008.6.6）