淳子のオリジナルLP全19枚、悲願の完全紙ジャケ復刻!
ヒロリンと同じく91年、“YOUNG POPS FOR YOUNG ADULT”と題したビクターの2in One定番コレクション「そよ風の天使+わたしの青い鳥」から始まった淳子のアルバム復刻。
「淳子と花物語+三色すみれ」「16才の感情+スプーン一杯の幸せ」が発売されたものの、Q盤ブームが来ても定番COLLECTIONになることはなく、ビクターの復刻はストップしていました。
10年以上を経て世紀が変わった2002年。VIVIDが後を受ける形で、新曲を含んでいた2枚組ベスト「ベストコレクション’75」「ベストコレクション’76」と、オリジナル「わたしの素顔」「青春前期」「熱い心の招待状」「LOVE 淳子が禁断の木の実を食べた」を復刻。オリジナルアルバムはトータルで10枚目までこぎつけることができたのです。
しかし、コレが予想以上に売れなかったようで、結局後は続かず…。
ビクター純正(淳子のカラーテレビ・ビクター純白ではないよ)でない点や、コストの関係と思われる紙ジャケの仕様やチープな歌詞カードに難を示す方も多かった模様です。
翌年にはソニーが百恵ちゃんのプレミアムで大成功を収め、ようやくビクターも奮起。シングル完全収録、歌唱映像がたっぷり詰まった限定1万セット、夢のBOXを発売したのです。
これで一気に!とファンの胸は高鳴っていたと思います。しかし、売り切るのに時間がかかったみたいで、これまた後は続かなかったのですね。
まあ、淳子の人気のピークを追うのなら、確かにCD化済みの10枚が妥当なんでしょうが、表現者としての淳子の真価を堪能するのなら、やはりこれ以降ですよね。
そういうワケで、ワタシは名作の数々がレコードやテープしか聴けない状況にかなり気落ちしておりました。いや、そう思ったのはきっとワタシだけではありますまい。
と、歴史のおさらいが長くなりましたが、ヒロリンの大成功の賜物で、淳ぺーも今回ようやく紙ジャケ復刻!ま さに悲願という感じでとてもウレシイことですが、やはりCD化済みの10枚よりも、初CD化となる9枚を真っ先に聴きたい。
コレはファンの皆さんも同様ではないかと思っております。とは言え、一斉ではないそうなので、初期ものを聴きつつ待つといたしましょうか。
CDのリリースは3ヵ月連続、19枚を3期にわたってとのことですが、ウチでは再発となる10タイトルと初CD化の9枚というように、大きく2つに分けてご紹介しましょう。
ちょうど淳子の大まかな分かれ目とリンクしてたりしますしね。
まず、トップバッターはエンジェルハットの白さがまぶしい草創期、ぎこちない初々しさが何とも言えないデビューアルバム「 そよ風の天使+9(紙ジャケット仕様) 」です。
全曲を阿久悠+中村泰士の先生コンビが書き下ろした、当時としては驚きのオリジナル。桜田淳子がいかに期待されている逸材であったかが分かりますね。
当初から女優としての才能を評価されていた淳子らしく朗読あり、この時代でも古めかしい童謡・唱歌路線あり、ビクターのお家芸ともいえる和風ポップスあり、スタ誕で歌った牧葉ユミ風あり、天真爛漫なロリータ性に満ちた桜田淳子の埋蔵量と可能性を探るファーストです。
その後もずっと大切に歌われた「涙はたいせつに」の生真面目なひたむきさこそ、淳子の神髄でしょうね。
奇をてらうことなく、素材そのもので勝負する。コレこそが百恵ちゃんには全うできなかった部分であり、淳子の正統性の証明と言えましょう。
この流れはセカンドの わたしの青い鳥+8(紙ジャケット仕様) 」にも反映され、ここでは阿久さんが演劇少女の持ち味に着目し創った朗読「淳子の花物語」が秀逸。後に初のトップテン入りシングル「花物語」に発展したのは有名なお話です。
山上路夫+森田公一のゴールデンコンビも顔をのぞかせ、天地真理直系路線を歩むその後を予感させる節もありますね。全体的に見てこの品行方正さと乙女チック加減は、あの頃理想のミドルティーンという感じがします。
話はそれますが、ワタシが淳子を愛してやまないのは、その恐るべき素質。演技という範疇を超え、本気で自らを天使だと信じ、夢や希望、そよ風などおよそ実体のないモノを嘘偽りなく体現してみせる、という才能。今考えると、あの頃ワタシが惹かれたのは確かにこの部分でありました。やはり天才です、桜田淳子って。
そしてトップ10ヒットやレコ大最優秀新人賞で自信をつけたサードの「 淳子と花物語+10(紙ジャケット仕様) 」とフォース「 三色すみれ+10(紙ジャケット仕様) 」は、オリジナルにカバーをはさんだ当時のアイドルらしい構成。
前者ではビクターの先輩・麻丘めぐみ「芽ばえ」やアイドルの先駆けであった南沙織「17才」など一世代上のヤングポップスに「ワンワン・ワルツ」といったオールデイズを、後者では目標としていた天地真理「ひとりじゃないの」をはじめ、麻丘めぐみ「森を駆ける恋人たち」なども背伸びして歌ってます。
この中でワタシがオススメするのは、やっぱし舶来カバーズでも紹介しました「シング」ですねえ。鼻をふくらませて歌う淳子に大きな好感を持っていたのです。
ところで、淳子はイラストと詩が得意でしたけど、もうこの時点で本人作詩の歌が収録されているのに改めて驚き。ホント、冷静に考えてもスゴい。ある意味エポックメーキングですよね。
74年初夏には、森田公一さんを起用した初めてのポップなシングル「黄色いリボン」で明るさを全開。イメージとぴったりフィットして、やっと人気と売り上げがバランスよくなってきた淳子、ついにあの問題作をリリースします。
そう、明星募集歌「花占い」の原型を含む組曲のタイトル作をはじめ、セブンティーン募集詩入選作を中心に集めた恐怖(?!)の朗読アルバム「 16才の感情+9(紙ジャケット仕様) 」。
当時の中高生を等身大で表現した朗読や歌は、いま聴くと大変オーバーで失礼ながら笑ってしまいますけど、この生真面目に感情を込めた読み方は当時のお手本とされてた世界ですし、ワタシも確かに感動してた…。後年開花する女優としての天賦の才能がのぞいていますね。
そして、落合恵子原作の初主演映画と同名の「 スプーン一杯の幸せ+6(紙ジャケット仕様) 」。コレも企画ものの雰囲気が漂いますが、サントラではなくれっきとしたオリジナルアルバム。レモンちゃんと阿久さんの淳子観を比べてみるのも一興ですね。
そんでもって、75年。どっちつかずの暗さになってった百恵ちゃんを、大きく引き離した淳子の全盛期です。しかし、ご用心。明るく元気な夏娘のイメージが強い淳子なのに、ナレーション全開の2作「 わたしの素顔+9(紙ジャケット仕様) 」(ココまでの7タイトルが今回の第1期リリース)と「 青春前期(8th)+α(紙ジャケット仕様) 」には、底抜けの明るさは見られないのです。
おセンチというか、かげりが目立つのは世相のせいもありましょうが、淳子の精神状態の影響も大いにあったのではないかと思います。
思い出すのは、明星で篠山紀信だけが切り撮ったあの表情。このへんがコアな淳子ファンに支持されたところかもしれないけど。テレビの歌番組やシングルだけ追ってきた方たちは意外に思われることでしょうね。個人的にはこのへんはスルーしたい感じです。
結局、そのかげりはシングル初の哀愁マイナー「もう一度だけふり向いて」(名曲ですね)にいくんですけど、コレを含む「 熱い心の招待状(9th)+α(紙ジャケット仕様) 」は、実験作にして初期淳子の最高傑作と呼びたい仕上がり。
ジャケットとはうらはら、ポップチューンやフュージョン系のディスコ、歌謡ボッサ、フォーク歌謡などバラエティに富んでいて、いま聴いても結構新鮮です。
特にこのアルバムのコンセプトであった水谷公生ら若い作家陣と先端の音づくりが、ビクターの高音質と相まって不思議な感覚を醸し出しています。
逆にこの次の、「気まぐれヴィーナス」などモンローをめざした「 ラブ・淳子が禁断の木の実を食べた 」は、なんだかトロピカルに弾け過ぎちゃってる淳子がちょっと不気味な感じもしたりして…。
あの頃はピンク・レディーが普通だったから少々のことでは違和感など感しませんでしたが、改めて阿久さんの詩を読むと、絶句。
そういう意味では、穂口さんによるヒロリン風のしっとりとしたナンバーの方がしっくりきますし、次のステップへの予兆とも言えましょう。
というのがCD化済み、再発となる10タイトル。
既発売分も結構音質が良かったので、既にCDでお持ちの皆さんは迷うところでしょうか? しかし期待したいのは、+αのボーナストラック。ビクターの場合、70年代半ばまではベストに新録を入れるのが常套手段でしたので、シングル曲以外にもそのへんがボーナストラックとして完全収録されると、購買意欲は一気に高まりますね。まだ正式発表にはなっておりませんが、ヒロリンに準じて構成されることを祈ります。
VIVID復刻済みのベストコレクション収録曲はともかく、グランド・デラックスで披露したカバー「しあわせの一番星」「友達よ泣くんじゃない」「恋人たちの港」「学生街の喫茶店」なんかが初CD化となりますように! CDで「個人授業」を百恵ちゃんと聴き比べる、という楽しみ方もできますしね(「初恋時代」は淳子に軍配を上げたワタシです…)。もちろん阿久悠、筒美京平、吉田正らの企画盤のカバーも!
(この項後編へつづく)
(2007.6.30)
*本文中に挙げた楽曲をはじめ、各ディスクにすべてボーナストラックが収録されます。