久世さんの向田スペシャルを彩った美しきメロディー集
TBSの名演出家だった久世光彦さんと、放送作家から直木賞作家となった向田邦子さんは、ワタシが勝手に恩人と崇拝しているお二人です。それは手がけられた作品はもちろん、生き方を含め規範にしたいこともありますが、小林亜星さん主演の「寺内貫太郎一家」など一連の名作ドラマによって、情緒というものを、その言葉すら知らなかった幼少時に初めて実感させていただいたからなのですが、81年に向田さんが亡くなった後も、久世さんは向田邦子新春スペシャルと題したシリーズを制作なさっていました。
一連のシリーズは、向田さんのエッセイをもとに昭和の家庭と世相を丁寧に描き出したもので、戦時色やシリーズの中心となった田中裕子のせいもあってか翳りが目立ち、ホームドラマというより大人のための艶っぽいムードが濃い感じがしました。ワタシは田中裕子の演技にはあまり惹かれないので、さほど思い入れがないのですが、石貫さんこと小林亜星さんが手がけた冒頭のテーマ曲「過ぎ去りし日々」と、黒柳徹子さんのナレーションは理屈抜きに大好きでした。あの弾むようなピアノにかぶさる、トットちゃんの輪郭がハッキリした誠実な語り。これが映像と相まって実に視聴覚に心地よくって、ビデオを繰り返し見たものでした。
2006年には久世さんも逝ってしまいましたが、お二人が遺された名作はずっと支持され続け、CSの再放送やらDVD(初期の「 向田邦子X久世光彦スペシャルドラマ傑作選(昭和57年~昭和62年)BOX
で、ここに来てその、向田邦子原作、久世光彦演出、小林亜星音楽による新春スペシャルシリーズの名曲を集めたCD「 向田邦子TVドラマ・サウンドトラック集
しかも、最新デジタルリマスタリングの上、「眠る盃」「男どき女どき」「思い出トランプ」「隣の神様」「麗子の足」「華燭」といった収録シリーズ作品の詳細なデータや解説などブックレットも充実しているようですから、これはぜひとも入手しておきたい必携盤です。
昭和の、いや、かつての日本人の大半が持っていた品格や矜恃も感じられるこのサントラ。亜星さんならではの日本人の琴線に触れる流麗なメロディーは、心を鎮めるBGMとしても最適。もちろん向田作品の読書のお伴にもオススメいたしますぞ。
(2008.7.8)