スタ誕ビクターアイドル、黄金の阿久詞集!
阿久さんがお亡くなりになって半年。昨年秋からの追悼盤には枚挙にいとまがありませんが、ここに来て、スタ誕出身、ビクターの愛弟子たちに書いた作品集が発売されることになりました。
昨年末の森進一と同じラインの感じがしますが、ご本人もきっと天国でお喜びになりそうな3タイトル。基本阿久さんの詞ばかりを歌ってきたメンツですし、CD化の進んだ皆さんなので、何を今さらの王道シングル曲ベストとなってしまっていますが、今回は阿久さんの追悼ですから。
いま一度、阿久さんが彼女たちに書いた詞をしみじみ噛みしめてみることにしましょうか。
まずは、阿久さんが最も愛した桜田淳子の「 阿久悠作品集 」。
73年のデビュー「天使も夢みる」から77年の「気まぐれヴィーナス」、79年の「サンタモニカの風」まで、誰もが知ってるヒット曲のみ16曲の予定です。
阿久さんが亡くなった月にスタートした淳子の紙ジャケ復刻盤リリースは、「最高の教え子のことをよろしく頼むよ」という遺言のようでした。
先生というか育ての親というか、年端もいかぬ淳子を教え導き、保護者を自認していらした阿久さんは、清廉潔白な淳子に何かしらの嫌疑がかかるようなことがあれば、すべて自分の責任だというようなことを常々おっしゃっていました。いろんなことがあった時も、自分を責めながら、淳子の正義だけはずっと信じてらしたような気がします。
そういう意味では、生涯、淳子の虜であったために、彼女に書いた詞は愛情が度を超し、淳子にベッタリとまとわりついてるようなものもあります。けれど、そんな風に冷静さを欠く阿久さんの詞って、逆に貴重だと思いませんか。そして、あの阿久さんをそうさせた淳子の魅力こそ、もっと丹念に検証すべきではありませんか。紙ジャケのセールスが振るわないし、ライブBOXもつまずいているような気がするから、ついそう言いたくなってしまうのですが…。
なお、ワタシが最も好きな阿久さんの淳子は、総括的な「青春の一番長い日」という詞です。
次は優等生のヒロリン、「 阿久悠作品集 」です。
75年の新人は黒木真由美一本で行くはずだった阿久さんが、岩崎宏美に導かれた有名なエピソードはご存じですよね。最初、黒木さんを応援していたワタシは口惜しく感じたこともありますが、ヒロリンの一連の作品を読み比べると、これも運命だったと思わざるを得ません。
ちょっぴりチープな学園ソングも、文部省&PTA推薦みたいなヒロリンのキャラにピッタリでしたが、だからこそ、日本全国の小中高生を驚かせ、あれほどの大ヒットになったのだと思います。お疑いの皆さんは、ぜひ林寛子のカバーによる「ロマンス」をお聴きください。
さて、阿久さんのヒロリンの最高峰は、やはり「思秋期」でしょう。ワタシは「熱帯魚」の片面だった「夏のたまり場」で生まれて初めて、季節がもたらす寂寥感というようなものを心から実感したのですが、その後に来た「思秋期」で本当に衝撃を受けました。そういうこともあって、「夏のたまり場」と「思秋期」のセットは一生好きでいると思います。
なお、選曲は「二重唱」から「シンデレラ・ハネムーン」、ヤマトの「銀河伝説」と来て、ヒロリンの再出発を祝う「未完の肖像」まで16曲の予定。独立問題でスルーされた「未完の肖像」ですが、アダルトなディスコ歌謡の筒美サウンドに負けず劣らず、詞にはすごい含蓄があって、驚くほど名作だと思っています。
そして、トータルでも阿久さん最大のメガヒットとなったデュオ、ピンク・レディー「 阿久悠作品集 」。
ワタシが阿久さんの作品の中で最も聴き、最も口ずさんだものと言えば、やはり彼女たちの歌でした。マイベストはむろん収録されるはずのない「夢中がいちばん美しい」と「パパイヤ軍団」なのですが、後になってビックリするぐらい感銘を受けた詞はたくさんあります。
例えばメジャーどころで言えば「モンスター」。阿久さん一流の社会風刺と言いますか、見た目では分からない人間の怖さと言いますか、根底には心眼を大切に生きることが説かれているような気がして、魑魅魍魎な毎日を生き抜くための現代にこそ必要な応援歌ではないかと思っております。
あとは「ミラクル伝説 ジパング」。当初から21世紀の黙示録でしたが、それが恐ろしいほど当たっていたことに愕然とします。人間、最後に残るのは、愛することと信じること。この二つだけは失うことなく歩いてゆけば、きっと黄金の国は心の中によみがえり、生きる力が湧いてくる…。そんな風に解釈できるこの詞を、2001年にしみじみ実感したこともありました。
そういえば阿久さんの詞には21世紀には「愛」が当たり前になって、辞書から消えると言ってたのもあったな、などと思い、ワタシはハッとします。今、愛がないのが当たり前になってしまって、愛という言葉すら消えかかっている時代かもしれない、なんて。
今だからこそ、受け取るめられる阿久さんからのメッセージ。美しい誤解かもしれないけれど、時代を創造した阿久さんなら未来を予言することくらいお茶の子さいさいだったかも。
いい機会ですし、もう一度聴き返し、読み返して、阿久さんの遺言を反芻してみませんか?
なお、コロムビアからは、特撮ものからアニメ、ピンポンパン、ドラマ、CMソングまで、テレビなどのメディア上で輝いた阿久さんの作品集「 阿久ちゃんねる~阿久悠作詞のTVテーマ・CMソング集 」が、エイベックスからは観月ありさやSPEEDの面々らによるリアレンジトリビュート盤「 VISION FACTORY 」が発売となるそうです。
(2008.2.18)