ビクター専属作詩家・佐伯孝夫を歌う名盤復刻!
創立時の日本ビクター蓄音器から、戦時中の日本音響を経た戦後の日本ビクター、ワタシたちには最もなじみの深いビクター音楽産業、そして現在のビクターエンタテインメントへ。日本の邦楽を牽引してきた日本ビクターも最初のソフト発売から80年を数えるそうで、記念リリースが相次ぐようでございます。
大型企画が目白押しで、ニッパー君とともに10年ごとに80年の軌跡を振り返る「The Victor Recordings」シリーズ全8タイトルをはじめ、ビクターを代表する専属作曲家でいらした吉田正先生の企画ものなどが続々発売。80年間のごく一部ではありますが、めぐみタン、淳子、ヒロリン、PL、MAKOちゃん、井上望らビクターのレコードとともに育ち、キョンキョン、荻野目ちゃんなどのうたに胸を熱くしながら青春時代を過ごしたワタシなどは、流行歌というジャンルだけとっても時代に大きな影響を与えた功績を前にすると、頭を深く垂れて聴き入るほかございません。
むろん70年代以前は、当時のコトなど知るよしもないのですが、シベリアに抑留されていた大叔父や、ニューギニア戦線の少年通信兵だった叔父らが涙したという吉田メロディーには、大好きなものがたくさんあります。
と言いつつ、うたというものをこよなく愛するワタシはどうしても詩を重視してしまう傾向にありますんで、同じビクター専属作家でも佐伯孝夫先生の作品に惹かれてしまいます。子どもの頃から読んでいた歌集などに記された数々の詩—戦前の「鈴懸の小径」や「森の小径」など、暗唱するとこの上なく美しく感じ、やがて心がたうたうような詩—に胸を打たれてきたのですね。後に、かの西条八十のお弟子さんということを知って、膝を打ったこともあります。
ということで、今回新たに企画された記念タイトルではありませんが、まさにビクターの流行歌名盤・貴重盤と呼べる復刻ラインナップの中から、佐良直美が佐伯先生を歌った好盤「 鈴懸の径 」をご紹介しましょう。
アナログ盤のA面は「鈴懸の径」「森の小径」「白樺の小径」やアメリカ民謡の「峠のわが家」など、灰田勝彦作品を中心にした戦前のもの。B面は吉田先生とのコンビによる「有楽町で逢いましょう」「再会」「寒い朝」「いつでも夢を」など、いわゆる流行歌としてのムード歌謡系、青春歌謡系の作品をチョイス。サブタイトルに“優しい詩集”とある通り、優しい視点からの作品を集めた模様ですが、やはり今となっては聴かれることが少なくなったけれど、日本語という言葉の響きの美しさをことさら実感できるA面曲をオススメしたいです。
通して聴いたら、昭和を代表する作詩家の、本物であり一流の詩というものが堪能できることでしょう。そして、先生が綴られた詩を通して、日本ってこんなに美しい心や文化を孕んでいたことを実感できるはず。もちろん、それは名ボーカリスト・佐良直美が歌うことで余計に言葉が引き立つからにほかならないと思います。
うーむ、さすが佐良兄貴(!?)と言うべき一枚。ビジュアル面では、スターの証しであり紅白の司会を思わせるブレザー姿や、佐伯先生とのツーショットにも注目です。
なお、ここ数年、ボチボチCD化が進む直さんではありますが、相当な実績がある人ですし、やっぱりファンの皆さんがちゃんと満足できるベストを切望したいものですよね。
ほかにも昭和40年代のソフトロック系や洋楽カバー、50年代の小椋桂作品など、あらためて聴いてみたい名唱がいっぱいあります。というか、佐良ファンとか歌謡マニアにはそっちの方が先決だと思うので、また次にも期待したいものです。もちろんビクターの80年に祝賀と感謝の思いをこめて。
(2008.8.1)