阿久さんの四季詞集・青い春編
阿久さんの追悼はまだまだ続く…。ということで、シーズンコンピ「 青春期〜阿久悠作詞集<春> 」の登場です。
青春期、恋夏期、思秋期、そして感冬期。というのは、ヒロリンでおなじみ、阿久さんの四季の名表現ですが、その思いを映したようなシリーズになることを願わずにいられない好企画となっています。
日本人として四季の移り変わりとそれに寄り添って生きる人を愛でた感のある阿久さんですが、このコンピには、各歌手に書いた春の歌、というより生き生きとした青春謳歌が詰まっています。収録曲はまだ正式に発表されていませんが、大ヒット曲あり、隠れた名曲ありという構成になるようです。
阿久さんが描く青春歌といえば、やはりアイドルです。ワタシの場合、阿久さんの書いたアイドルものって当時はなんだか違和感を覚えることもありましたが、後になって、そのハマリ具合を実感して驚いたことが多々あります。
桜田淳子のナンバー1ヒット「はじめての出来事」にしても、設定や歌自体キライな部類だったんですが(同時期の百恵ちゃんの「冬の色」はスゴイ好きでした)、あの生硬な淳子にぴったりですよね。
大好きだったけど、単に阿久さんの願望じゃね?なんて思ってた石野真子の「苺になるな野いちごよ」も、後年、苺になったら輝きを失ってしまうMAKOちゃんへの警鐘だったんだとひとりごちたこともありましたっけ。
いずれにしても、75年の春は岩崎宏美「二重唱/月見草」、77年はピンク・レディー「カルメン’77」、78年は「狼なんか怖くない」…なんて、やっぱり阿久さんの手がけた歌を聴くと、それぞれの春の空気を思い出したりします。(76年だけは松本隆さん。春の遠足のバスでみんなで「木綿のハンカチーフ」を合唱しましたっけ)
そんな阿久さんの四季の名曲でオススメするのは、釜田質店さんのムッシュかまやつ「青春挽歌」。昭和のバンカラ精神の中に、魂に響く浪漫が感じられる絶品です。それを焼き直した新沼謙治の「おもいで岬」も大好きですね。こうして振り返ると、ホント名作が多く、ぜひBOXで詞をゆっくり鑑賞するのをオススメします。
手書き縦書きにこだわった阿久さん。ホームページも縦書きなのは有名ですが、ワタシはその理由の一つに挙げた阿久さんのユーモアに膝を打ったものです。横書きは首を振って否定しながら読むけれど、縦書きはうんうんと頷きながら読める、なんて素晴らしい解釈でしょう。折に触れ公開されてきた、手書きの原稿も素敵でしたよね。
阿久さんが紡いだ詞(ことば)は、世に大きな影響を与え、牽引し、時代を創出していったことは疑いようのない事実ですが、阿久さんご自身は晩年、いろんな意味でとても後悔しているというようなことをあちこちで語ってらっしゃいました。前にも書いたように思いますが、その思いを意訳すれば、既存の体制を打破し、新しく心地の良い価値観を見つけては提唱し、褒めそやし、啓蒙していく…みたいなことをしてきた結果が、今日の日本の荒廃であった、というような。
けれど、それは阿久さんの責任ではなく、やっぱり受け手である我々の問題ですよね。だって、阿久さんがマーケティング的な視点を大切に作品作りをしていても、その核は虚ではなく実だったのですから。真意をくみ取れず、大衆の力を下げたのは、人のせいではなく自分のせいだと思うのです。
世間を見回してみても、自分に都合のいいこと以外は受け入れない、なんていう光景が多いし、良識はおろか人間の良心すらなくなってしまうような世の中になっていますけど、もう一度、そのへんを考えてみたいものですね。
と、話がそれましたが、この作品集は、そういった真の日本人の心を取り戻すのに、とても大きな力のあるコンピではないかと思っています。そして、恋夏期、思秋期、そして感冬期と続くのを楽しみにしながら。
(2008.3.1)