内省的・自意識過剰表現者の金字塔
青春という名のラーメン。
斉藤さんを初めて見たのはCMだったかポスターだったか、雑誌だったか定かではありませんが、なんとなく漫研(漫画研究会)の女子と同じ匂いを感じたのは確かです。
自意識過剰な引っ込み思案というか、とても内向的な醒めた瞳の裏に煮えたぎる情念というか、賢くて早熟なのに実体験が追いつかないアンバランスさをシミュレーションで隠そうとする時の努力というか。
いずれにしても、ひどく内省的で妄想家の質であることを、ワタシは勝手に確信していました。
と書くと引いてしまってるように思われるのですが、ワタシはすぐさま惹かれ、その確信犯的な魅力のトリコになっていました。
それはもちろん松本隆+筒美京平のゴールデンコンビによる85年のレコードデビュー曲「卒業」の効果もあったのは確かで、太田裕美を彷彿とさせるちょっとハスキーなファルセットに衝撃を覚えたのが最大の要因なんですけど。ユーミンのブレーンになる武部聡志さんのアレンジも素晴らしかったですしね。
同類であろう銀色夏生がファーストアルバムに書いた「AXIA~かなしいことり」は、その当時から20年以上愛聴しておりますし、翌年のNHKの朝ドラ「はね駒」も毎日見るほど好きでした。
デビューから数年の斉藤さんは、時折、常軌を逸した表情をのぞかせていたものの、それもまた性格の一途さだとか、才能を持てあます若き表現者独特の不安定さとかいう理由で片づけることができました。何より、その歌が素晴らしかったもので。
「情熱」なんてその思いの重さにクラクラするほど好きだし、ふんわり浮揚しているようで突き放すような歌い方に磨きがかかった「砂の城」なんかも大好き。
丁寧に作られたアルバムにも名作が多いです。
とまたまた前置きばかりが長くなってしまいましたが、シンガーとしての斉藤さんの実績を鑑みるベストでは、やっと納得のいくものという感じのシングル完全収録「 「斉藤由貴」SINGLESコンプリート 」が発売されます。
今回のベストには歌を再開後の曲も一部含まれるのだとか。
92年の例の一件あたりから、異端な見られ方が顕著な斉藤さんですが、やはり表現者としての才能には脱帽です。
アルバムでは、ひとつひとつがテーマ性に優れ独立した物語になっていますから、斉藤さんが持つ人々をトリコにする魔性の魅力を味わうにはシングルの軌跡を聴くのが一番ではないかと思います。
そういう意味では、ぼくらのBOXを持っている人にもオススメです。
何食わぬ処女のようで、その実、百戦錬磨の玄人女。甚だ不適切な表現ではありますが、そういう感じこそがワタシが愛してやまない斉藤さんなのです。
なお、このシリーズの80年代ものとしては、「 「堀ちえみ」SINGLESコンプリート 」「「 「岩崎良美」SINGLESコンプリート 」「 「石川ひとみ」SINGLESコンプリート 」のポニキャン3人娘をはじめ、「「 「おニャン子クラブ」SINGLESコンプリート 」を筆頭にしたおニャン子系、「 「西田ひかる」SINGLESコンプリート 」「 「BaBe」SINGLESコンプリート 」「 「森尾由美」SINGLESコンプリート 」などがラインナップ。
7、8月に分けてリリースされます。
(2007.5.25)