風街の少年少女たちが詩う、60の物語
完全限定で即完売、当初予定になかった通常盤まで発売されるもすぐに完売となった松本隆作詞活動30周年記念BOX「 松本隆/風街図鑑 」からはや8年。
松本さん久々の作品集が、自ら主宰する風待レコードとユニバーサルのコラボにてリリースされることになりました。
それが松本隆WORKSコンピレーションの2タイトル、男性ボーカル編の「 松本隆WORKSコンピレーション「風街少年」 」、女性ボーカル編の「 松本隆WORKSコンピレーション「風街少女」 」です。
それぞれ2枚組で30曲、計60曲が収録される今回の企画は、前回の自選集とは趣を異にする他選集。
スピッツの草野マサムネをはじめ、リリー・フランキー、おぎやはぎ、「ハチミツとクローバー」で知られる漫画家の羽海野チカら、松本フリークの著名人12名が、2000曲以上の松本作品からお気に入りを選んだものなのだとか。
収録曲はまだ正式に発表されていませんが、どちらも新旧ひっくるめた個性的な選曲となる模様。
例えば「風街少年」には、はっぴいえんどの「風をあつめて」寺尾聰「ルビーの指環」、桑名正博「セクシャル バイオレットNo.1」、イモ欽トリオ「ハイスクール ララバイ」というナンバー1ヒットをはじめ原田真二「タイム・トラベル」、YMO「君に、胸キュン。」、大滝詠一「雨のウェンズディ」などのヒット曲から、小坂忠「しらけちまうぜ」、オリジナル・ラヴ「夜行性」といった隠れた名曲まで。
一方「風街少女」は、胸キュン名曲のオンパレード。
松本さんの詩世界表現の第一人者・太田裕美による「木綿のハンカチーフ」を筆頭に、高田みづえ「パープル・シャドウ」、小泉今日子「魔女」、斉藤由貴「卒業」、本田美奈子「Temptation(誘惑)」、中山美穂「JINGI・愛してもらいます」、中森明菜「二人静」、中谷美紀「いばらの冠」、松たか子「Clover」などアイドル系、松本ディーバたちが時代を超えて揃い踏み。
矢野顕子がピアノを務め、後年カバーもしたアグネス・チャン「想い出の散歩道」、松本さんが愛した最高の楽器・松田聖子の「蒼いフォトグラフ」など、いわゆる代表曲ではないセレクションも。
どちらも前回のBOX発売以降の曲も含まれていて、現役として活動し続けている感じがあってファンとしてもウレシイですね。
アグネスをきっかけに子どもの頃から松本さんの詩に触れ、感性を圧倒されてきたワタシですが、ホント恐れ入ることばかりでした。
優れたストーリー性はもちろん、センスの光る小物づかい、比喩が見事な情景や心理描写…その腕前のスゴイこと。
中でもワタシがずっと感服してきたのは、独自の美しく鋭い語感とリズム、そしてそれにふさわしい言葉の選び方です。
時にはさらさら流れるように、時にはビートを刻むように、インパクトの強い言葉をあえて選ばず、それぞれの言葉を立たせすぎることもなく。だからこそ、流して聴いている者にも物語がしっかり分かるのですね。
まるで読み聞かせのように、理解を伴って胸にしみこんでゆく歌たち。これは松本さんのお家芸だし、歌詩を物語へと昇華したパイオニアと呼べるでしょうね。
もちろん筒美先生をはじめとするメロディーメーカーの手腕もスゴイですが、詩先の場合メロを呼び起こしてしまう力が松本さんの詩にはあるような気がする。逸話の残る「木綿のハンカチーフ」しかり。
ただ、聴いたり歌ったりすることよりも、歌詩カードを読んで鑑賞する方がより胸を打つことが多いような気がします。そういう意味でも、このへんが阿久さんとは好対照ではないかと思い続けております。
あと、ロック出身の東京っ子という出自が関係していたのでしょうが、いわゆる歌謡曲的な流行歌ではない、文学的な(注・あくまで的)匂いが漂っているところと、お洒落な雰囲気もとても好きでした。ヤングな大衆文化を軸に大衆よりは一歩先ゆくトレンディーさというか、そういうオシャレな響きが松本さんにはありましたし、それも憧れの対象になったものです。
価値観の多様化という名の下に他人への興味や感動がなくなってしまった今の時代では考えられませんが…。
という松本隆WORKSコンピ、前回のBOXと重複する部分もありますが、選者の思い入れがどんなものなのかも気になるし、アートワークも凝る松本さんならではのオシャレなパッケージになりそうだし(ジャケットは羽海野チカの書き下ろし)、ついつい手が伸びてしまいそうですね。
(2007.9.18)