才能燦めくボーカリスト、よみがえる金井夕子のすべて!
ああ、ついに実現してしまいました! 「 金井夕子 アナログアルバム復刻CD-BOX 」。
「Feeling Lady」「invitation」「チャイナ ローズ」「e’cran」の4枚がついにCDで聴けるのですね。そしてきっと未収録シングルもボーナストラックで。
と、ちょっと興奮気味ですが、ワタシにとってホント待ちに待った復刻なのです。
87年、初ベストのCD「プレイバック・シリーズ」を予約して発売日に買ったんですけど、ホントにあの時のよろこびがよみがえった感じがします。
それからはアルバム復刻をキャニオンのアンケートハガキなんかの隅っこに、ことある事「金井夕子のLP、CD化希望」と書いて送ってたものでした。
あれから20年。もちろん玄人の方やマニアの皆さんにも非常にウケがよかった夕子ちゃんですから、脈々と続いた再評価が21世紀になって「 MYこれ!クション 金井夕子ベスト 」に、そして今回とつながったのでしょうね。
繰り言ですが、皆さんが当時ちゃんと支持してくださってたらどんなによかったことだろう…と思われて、いつも残念な気持ちになったりして。
ご存じ「スタ誕」出身ですが、何度も挑戦したという夕子ちゃん。
ワタシは、やっと合格した決戦大会で見た時、あのアルトのしっとりした美声(ホント百恵ちゃんっぽかった)と落ち着いたたたずまいにドキンときて(顔も意外に好きだった)、デビューが決まった頃には応援を誓ったものです。
基本が判官びいきですから、もう真子ちゃんには大勢のファンがついてるし、渡辺真知子は意味合いが違うし、ということで、78年に声援を送る新人を金井夕子に決めたのでした。
そして出来上がったのは、ルックスや歌唱力を鑑み、NMの流れを意識した「パステル ラヴ」。これをデビュー曲に選んだのは大正解でしたよね。キャラとこの歌のマッチングと傑作ぶりに、多くの人が売れそうな予感を胸に抱いたと思います。
忘れもしないデビュー日の78年6月25日の昼下がり。「TVジョッキー 日曜大行進」で、今は亡き土居まさるさんに「デビュー日にこの番組に出たコは、みんな売れるんだよ」と言われ、はにかみながら頷いた夕子ちゃんを思い出します。
「スタ誕」のみならず「紅白歌のベストテン」などお膝元の日本テレビを中心に露出も多かったワリに、スマッシュヒットの域を出ないセールスでしたが、今も歌い継がれる名曲となっていますね。
続く「ジャストフィーリング」も爽やかな小品で大好きでした。コレは自己最高セールスを記録、「スタ誕」ではまるで課題曲にように数多の少女が歌っていましたっけ。ただ、新人の当たり年だったこともあり、賞レースも今一歩のところで届かず。
名曲だけど地味すぎた第3弾「午前0時のヒロイン」が敗因となって、彼女の性格のように奥に引っ込んでしまうんですね。
亜美ちゃんから筒美先生にシフトして、「ラスト ワルツ インブルー」「オリエンタル ムーン」「スリランカ慕情」とエキゾチックなAOR歌謡を繰り広げましたが、ルックスも洗練されてくことはなく、NMとアイドル歌謡のニッチからもこぼれてゆく…みたいな印象でした。
NMの匂いはするものの、中原理恵みたいに個性派とまではいかず、かといって太田裕美みたいにアイドルっぽい一面も出せない、という感じ。ワタシはそういうとこが好きだったのだけど。
キャニオンはかなりプッシュしてくれてて、ラジオスポットとかもガンガン入れてくれてはいたのですが…。亜美ちゃんも責任を感じてか、自分の事務所に引き取ったなんて話もあったように記憶してます。
結局、華のなさというのが命取りになったようですが、金井夕子に欠けていた華をプラスして、この路線を引き継ぐのがキャニオン直系、80年の岩崎良美でした。そしてヨシリンを後追いしつつ、追い越して完成させてしまったのが81年からの聖子だとワタシは思ってます。
金井夕子-ヨシリンの、一般にはとても難解だった連立方程式。それを一発で解く公式を導き出し、サルでも分かるほど単純明快にしちゃった聖子。
それは、70年代後半から続いてきたNMとアイドルの関係性についての見事な立証でありました。もちろん時代や受け手の変遷という要素も絡んでいますけど。
一方、夕子ちゃんはマニアックにな我が道を進みます。細野さんのご寵愛を受け、YMOファミリーも総力を結集していくのですが、時代よりも進んでしまったせいで業界人は大絶賛したものの、大衆は…という結果に終わったのです。改名したり、バックコーラスやソングライティングをしたり、日テレの番組で幼児向けの歌を歌ったり。近年と言っても5、6年前のNHK-BSの特番で、現在のお姿を拝見しましたが、仕事を持つごくフツーのお母さんといった様子でした。現役時代より明るい雰囲気にホッとしたものです。
さて、肝心のアルバムですが、いずれも名盤、名唱、ハズレなしのクオリティ。
ファーストの「Feeling Lady」は尾崎亜美をはじめ、丸山圭子、庄野真代という女性NM勢による競演。一般的な夕子ちゃんのイメージ通り、さわやかな世界を繰り広げています。
セカンドの「invitation」は松本隆+筒美京平のゴールデンコンビが半分、松任谷マンタさんが半分という構成で、ちょっと大人っぽいAOR歌謡がたっぷり。筒美フリークも必携のアイテムです。
そしてサードはYMOチルドレンのコレクターズ・アイテム「チャイナローズ」。
と言っても、亜美ちゃんや筒美作品も入ってバラエティーに富んでいます。テクノ的要素もそんなに前面に出ていないし、初期の夕子ちゃんが好きだという人も、さほど抵抗がないと思います。ヨシリンの「月の浜辺」の原曲も入っていますしね。
そしてラストは各誌で絶賛されてた「e’cran」。
ジャケもスゴかったし、シングル「可愛い女と呼ばないで」でを歌う姿は強烈でしたが、亜美ちゃん作品も入っていますし、テクノ・シティ・ポップスという趣の名盤です。
糸井さん作詩のシングルB面曲「ハートブレーカーのために」は改詩して「走れウサギ」して収録、後に同じく細野さんの愛したコシミハルがカバーしています。
というアルバム完全復刻、コストパフォーマンスは抜群だし、買わないワケにはいかないでしょう!仕様は先に出てる木之内みどり、岡田奈々を参考に。コンパクトでリーズナブル、気軽に扱えて聴きやすいというのも魅力です。
このスタイル、持ち駒が少ないポニキャンだからできると言えばそれまでだけど、紙ジャケで出すのは踏み切れないクラスのアーティストにはぴったりだと思うので、ポニキャン以外でもぜひ追随していただきたいと思っています。
(2007.7.5)