名シリーズ第23弾は、90年代のベスト選集！

　2008年リリースの「歌姫～オリジナル女性ヴォーカリスト～」（ こちらで紹介）から始まった、ソニーミュージックの名曲コンピ盤「歌姫」シリーズ。
 
　この企画は、当時累計300万枚を突破する大ヒットを記録していた德永英明さんの女性ヴォーカルカバー「VOCALIST」シリーズにヒントを得て、そのオリジナルバージョンを集めるというコンセプトで始まったものですが、そのスタート時、大御所のピンチヒッターとして急きょライナーを担当させていただいたというご縁もあり、個人的にも思い入れのあるシリーズとなっております。
 
　最初は単発のニッチ企画だったわけですが、収録曲は1970～80年代の誰もが認める名曲ぞろいでしたし、德永さんとの相乗効果もあったようでロングセラーを記録。
　続編として「歌姫～センチメンタル女性ヴォーカリスト～」（ こちらで紹介）や「歌姫～アンフォゲッタブル女性ヴォーカリスト～」（ こちらで紹介）が企画され、総集編の「歌姫～BEST女性ヴォーカリスト～」（ こちらで紹介）など、続々と追加されていたのでした。
 
　ちょうど巻き起こっていた昭和歌謡ブームの後押しもあってか、CDショップのみならず、生協など別チャネルでのセールスも大きく伸びたそうで、ほかにも沖縄編、スピンオフ、ノンストップミックス、アニメ編などなど、干支が一回りする間に年代やジャンルも幅広くなり、通販ものも含め数多のタイトルが出ております。
　中でも選りすぐりのベスト選集は軒並み大ヒットし、「歌姫～BEST J-POP 1st Stage～」（オリコン最高49位）、「歌姫～SUPER BEST女性ヴォーカリスト～」（51位、 こちらで紹介）、「歌姫クロニクル～1968-1984～」（76位、 こちらで紹介）、「歌姫クロニクル～1985-2000～」（83位）、「歌姫～バラード・ベスト～」（42位、 こちらで紹介）、「歌姫～ドライヴィン・ベスト～」（53位）、「歌姫～パーティー・ベスト non-stop mix～」（80位）は、いずれもオリコンTOP100入りを果たしています。
 
　そして来週には、シリーズとしては３年ぶりとなる第22弾「 歌姫～BEST90's～」が発売されるとのこと。文字通り90年代にヒットした、選りすぐりの女性ヴォーカル曲がCD2枚に32曲もセレクトされています。
 
　90年代というと、まだテレビをはじめとしたマスメディアの威力が絶大で、流行は右へならえという様相を呈し、CMソングやトレンディドラマの主題歌といったタイアップによる大量オンエアがヒットの必須条件というセオリーがまかり通っていました。
　一方で、全国津々浦々にカラオケBOXができ、小学生から高齢者まで、誰もがカラオケを嗜むようになったのも影響が大きかったように思います。
　新曲をいち早く覚えようとしたり、レパートリーを1曲でも増やそうとしたり、みんなカラオケで歌うためにこぞってCDシングルを買って、ミリオン、ダブルミリオンのメガヒットが続出した時代でもあったんですよね。
 
　それは、このCDの収録曲のほとんどがタイアップ付きということからも分かるでしょう。
　まずドラマ主題歌や挿入歌では、辛島美登里「サイレント・イヴ」から、GAO「サヨナラ」、久松史奈「天使の休息」、国武万里「ポケベルが鳴らなくて」、松田聖子「大切なあなた」、NOKKO「人魚」、岡本真夜「TOMORROW」、古内東子「誰より好きなのに」、今井美樹「PRIDE」、福山雅治プロデュースの松本英子「Squall」までがずらり。
　その最高峰といえるのがオープニングを飾るドリカムの「LOVE LOVE LOVE」で、ダブルミリオンを記録。90年代のみならず、今日までの女性ヴォーカルで最も売れたシングルとなっています。
 
　一方、CMソングでは、スキー＆スノボブームを背景にした広瀬香美「ロマンスの神様」やZOO「Choo Choo TRAIN」のほか、奥田民生プロデュースのPUFFY「アジアの純真」、Chara「やさしい気持ち」と、かなり個性的なアーティストが目立ちます。
　また、カラオケによって名曲度が浸透してヒットしたものでは、沢田知可子「会いたい」、元気印の永井真理子のバラード「ZUTTO」が収録されています。
 
　ブームという点では、空前のバンドブーム。このCDは女性ヴォーカルですから、ガールズバンドの最高峰・プリンセス プリンセス「ジュリアン」、紅一点ヴォーカルのLINDBERG「BELIEVE IN LOVE」というナンバー。
　そして、ヒットチャートを独壇場にした小室ファミリー。ここでは篠原涼子 with t.komuro「恋しさと せつなさと 心強さと」、globe「Feel Like dance」、華原朋美「I BELIEVE」、鈴木あみ「BE TOGETHER」を収録。「BE TOGETHER」は小室さんのTMネットワークのカバーだったというのも一興ですよね。
　小室さんといえば新興レコード会社・エイベックスを根城にしましたが、そこからは相川七瀬「夢見る少女じゃいられない」、Every Little Thing「Dear My Friend」。
 
　もう一つの主流となったビーイング系は収録されていませんが、80年代最後にレコ大にも輝いたアイドルデュオ・Winkの「咲き誇れ愛しさよ」はその象徴。大黒摩季＋織田哲郎というビーイング系作家によるナンバーとなっています。
 
　イメチェンしたWinkのみならず、アイドルのカタチや定義も一気に変わった90年代ですが、その代表格といえるのが個性的なメッセージソングを武器にマルチな活躍を見せた森高千里。「気分爽快」はビールのCMソングでしたが、20歳を超えていようがアイドルでいられるようになったのは、ママドル・松田聖子の功績でしょう。
　そういえば聖子の場合、90年代はシンガー・ソングライターへとシフトしましたが、聖子と同様、アイドルからシンガー･ソングライターとなった山口由子のドラマ挿入歌「believe」も収録されています。
 
　また、90年代後半は、沖縄アクターズスクール出身のダンスアイドルが大活躍しましたが、ここでは知念理奈「Wing」、SPEED「ALL MY TRUE LOVE」をチョイス。
　2000年代になると、アイドルはグループが中心となっていきますが、モーニング娘。「LOVEマシーン」がターニングポイントでしたね。
 
　そして90年代終盤の特徴としては、女性R&B系シンガーの台頭が挙げられますが、ここには、小柳ゆき「あなたのキスを数えましょう～You were mine～」が収められています。
 
　というように、90年代の名曲というだけでなく、ヒットの傾向や時代の志向さえもおさらいできそうな選曲。令和も２年半を過ぎ、ナツメロ名曲ブームも昭和から平成へ、食傷気味の70～80年代からどんどん下がってきている今。90年代の再評価のタイミングではないかと思っています。