テーマ別セレクトの2枚組オールタイムベスト！

　本来ならば、今年は自身最後となる全国ツアー「中島みゆきラストツアー 結果オーライ」を遂行し、デビューからちょうど45年となる活動に一つの区切りをつけるはずだった中島みゆきサン。
　それがコロナ禍の影響を受け、2月末以降の公演は延期となり、最終的には全てが中止を余儀なくされました。
 
　個人的には中止が決まった大阪公演に出掛ける予定でしたので、敢行宣言から土壇場での中止告知に非常に口惜しい思いをしたことでしたが、その後の状況を思えば、あの時の政府判断に従った決断は誠に正しかったと言わざるを得ません。
　ファン自体も年齢を重ねておりますし、「地上の星」のヒット以降は高齢者が目立って増えた観客はもとより、みゆきサン自身が高齢者なワケですしね。
 
　その代わりといってはナンですが、ソーシャルディスタンスのもとで映画館の大スクリーンを使った上映会は大盛況。「中島みゆき 夜会VOL.20『リトル・トーキョー』-劇場版-」「中島みゆき 劇場版 LIVEセレクション」が全国で上映されたほか、「中島みゆきコンサート劇場版 特別上映会」が大阪と広島で開かれるなど、ファンの溜飲を下げたといいます。
　加えて、「時代」が主題歌となった映画「記憶屋 -あなたを忘れない-」が評判を呼んだり、「糸」をベースにした映画「糸」が160万人超える動員を記録するなど、コロナ禍だからこそのみゆきサンの底力にまた注目が集まったように思います。
 
　音源的にも、1月にはニューアルバム「 CONTRALTO(CD) 」がリリースされ、サブスクも解禁。不安が募るステイホーム期間中にみゆきサンを聴く人は多かったようで、ショップでは新譜・旧譜のキャンペーンや、ツアーグッズ＆CD・映像ソフトの販売キャンペーンが行われるなどセールスは好調。コアなファンの中には特典目当てに重ね買いする方々も多かったようです。
 
　というように、令和２年はみゆきサンにとっていろんな意味でさまざまな動きがあった年となっておりますが、この１年を有終の美で締めくくるといわんばかりに、2枚組ベストアルバム（DVD付きの初回盤「 ここにいるよ ［2CD+DVD］＜初回盤＞」、通常盤「 ここにいるよ＜通常盤＞」）のリリースが発表されました！
 
　みゆきサンのベストというと、LPではさっぱりだったものの、ポニーのテープでは80年代末くらいまでは切り口やスケールの違ったさまざまな企画ベストが発売されたものでした。CD時代となって以降もいろんなベストが出てきましたが、複数組となるのは「Singles」「Singles II」というシングル集以外では、今回が初めて。
　オールタイムベストと呼ぶにふさわしく、1975年のデビュー曲「アザミ嬢のララバイ」から2017年のシングル「慕情」まで長いオールタイムキャリアの中から、２枚のディスクそれぞれにテーマを設け、13曲ずつ計26曲を収録。タイトルは、安達祐実主演のドラマ「家なき子」主題歌「空と君のあいだに」の歌詞から引用されております。
 
　内訳としては１枚目は“生きる勇気を鼓舞するエール”を感じる「エール盤」で、90年代の「空と君のあいだに」「旅人のうた」というミリオンヒット主題歌をはじめ、2001年に社会現象を巻き起こした超ロングセラー「地上の星」といったオリコン1位獲得曲や、ポプコン・世界歌謡祭グランプリの「時代」、元はアルバム曲だった「糸」「ファイト！」など、歌い継がれるスタンダードソングがずらり。
　TOKIOに書いた「宙船（そらふね）」やももいろクローバーＺに書いた「泣いてもいいんだよ」のセルフカバーに加え、今年サントリー・ボスのCMに起用された「ホームにて」や、「ひまわり“SUNWARD”」「負けんもんね」「空がある限り」などアルバムからもチョイスされています。
 
　一方、2枚目は“心に寄り添うエール”を感じる「寄り添い盤」で、圧倒的にシングル曲がほとんど。といってもトップ10ヒットとなったのはオリコン1位獲得曲「悪女」と、ドラマ「やすらぎの郷」主題歌「慕情」ぐらいですが、みゆきサンの場合、発売時の順位はそれほどでなくとも知名度が高い人気曲ばかりなのでビギナーも安心です。
　デビュー曲の「アザミ嬢のララバイ」もそうですし、「あした」「with」「誕生」「最後の女神」「たかが愛」「愛だけを残せ」というラインアップを見ればうなずけることでしょう。
　アルバムからは「タクシードライバー」「泣きたい夜に」といった初期の作品や、安田祥子・由紀さおり姉妹に書いた「帰省」のセルフカバーも名曲ですが、寄り添い歌ということでいえば「風の笛」の右に出る曲はないでしょう。 こちらでも書きましたが、弱者に寄り添うという観点ではピカイチではないかと思っています。
 
　こうして聴くと、怒気に満ちたがなり声も、慈しみ深いささやき声も、十一面観音菩薩にも似た中島みゆきという存在から発せられたエール。やがて心が奮い立つという意味では、どちらも同一線上のナンバーという感じもします。
 
　なお、初回盤の特典DVDには「中島みゆきTOUR 2010」から「Nobody is Right」を収録。対立が深まっているという今の時代にぴったりな感じですが、偽善の踏み絵のごとくどちらサイドから見ても都合の良い解釈が成立する点が、さすがみゆきサンらしい示唆に富んだナンバーではないかと思っております。
　初回盤、通常盤とも、70年代からおなじみのTAMJINこと田村仁さんが撮影した写真が満載、90ページ超の2冊のブックレットが付属。さらに初回盤には多くのライブ写真と歌詞を掲載した8ページの特別ブックレットが付くそうです。
 
　ちなみに Amazon ではメガジャケ、 セブンネットショッピングではマルチケース、 楽天ブックスではICカードステッカーと、ショップ別の特典も用意されているとか。こりゃコアなファンが制覇して、確実に売れそうですネ。
 
　いずれにしてもテーマ的に、初期の象徴であったネクラ女の縁起の悪いふられうたや、ブルースやカントリーをベースにした女ロッカーのはすっぱなサウンドなど、黎明期に支持された唯一無二のエッセンスは割愛されておりますが、今回は70年代から2010年代までの４つのディケイドを縦断した初めての大ボリューム。
 
　熱心なみゆきファンからすれば物足りないかもしれませんが、手軽に、でも少しは奥深くみゆきサンの世界観を実感するにはうってつけといえるのが今回のオールタイムベスト。これをきっかけにして、これまでのオリジナルアルバム（ こちらで紹介）へと進む人が増えるといいですよね。
　みゆきサンからのエールに心を揺さぶられて、魂のおぢばがえり体験のごとく、悩みや苦しみから解放されるとともに、明日を歩いていく力を手に入れる…かつての私たちがそうであったように、今、生きづらさを感じている一人でも多くの人の元に届けばいいなと心から思っています。