世界でヒット中の名曲、オリジナル盤に忠実に復刻！

　ユーザーの希望に応えてCDを復刻するシステムといえば、ご存じソニーミュージックの オーダーメイドファクトリー 。そのアナログ版といえば、先ごろ１周年を迎えた GREAT TRACKS Order Made Vinyl（グレイト・トラックス オーダーメイド・ヴァイナル） ですが、今月、そのポニーキャニオン版といえる POP（パッケージ・オーダー・プロジェクト）がひっそりと立ち上がっています。
 
　そろそろ本格的に始動するようで、いま話題沸騰中の松原みきのデビューシングル「 真夜中のドア―Stay With Me／そうして私が ＜7インチ アナログ＞」とファーストアルバム「 POCKET PARK ＜アナログ・180g重量盤＞」が復刻候補のラインアップに挙がりました！
 
　今や空前のシティポップスブーム。1970年代から90年代にかけての日本のシティポップスへの人気は、クラブシーンで長く続く和モノ再発掘や、世界的な流行を背景にした国内での再評価はもとより、日本の若者の間で広がっている“昭和ポップス”の流行など、その勢いはとどまることを知りませんが、火を付けたのが大貫妙子さんだとすれば、現在脚光を浴びているのが79年11月デビューの松原みきさん。ご本人が生きていらしたらさぞかしお喜びだったことでしょう。
 
　三浦徳子作詞、林哲司作編曲によるデビュー曲「真夜中のドア—stay with me」は、数多のアーティストに歌い継がれておりますが、発売当時から名曲と誉れ高いナンバー。
　オリコン28位と順位こそスマッシュヒットですが、ロングセラーを記録。ラジオではヘビロテされ、数多くテレビの歌番組にも出演。お茶の間にも広く知られるヒット曲になりましたが、人気番組「スター誕生！」では多くの出場者が課題曲に選んでいたほどでしたから、浸透度合いが分かるでしょう。
 
　また、ヤマハ出身でシンガー・ソングライターから作・編曲家に転身した林さんにとっても同時期の竹内まりや「September」と並び称される出世作で、みきちゃんのグルービーな歌唱やジャズ・フュージョンのエッセンスとともに、当時のミュージックシーンに一石を投じる新しいポップスという評価を得たのは確かです。
 
　それが今年、40年の時を超え、世界のサブスクで大人気となり、インドネシアのYouTuberによるカバーに後押しされ、Apple MusicにおけるJ-Popチャートでは12カ国で１位を獲得。47カ国でトップ10入りを果たすなど、ここに来て大きなニュースとなっています。
　キャロル・ ベイヤ―・セイガーの「恋をしましょう」にヒントを得たようなアレンジに象徴されるように、洋楽の真似をすることから始まった日本のシティポップスが、巡り巡って世界的に評価されるなんて、当時の洋楽ファンからバカにされたことを覚えている世代にとっては隔世の感がありますよね。当時は邦楽を格下に見ていた音楽雑誌さえ特集する時代になったことを思うと感慨深いモノがあります。
　でも、換骨奪胎はいにしえから続く日本人のお家芸といいますか、まさに和魂洋才の面目躍如という気もします。思えば林さんは、その第一人者である筒美京平先生に目をかけられていた人物ですので、すべてがうなずけますよね。
 
　余談ですが、これを機に林さんが初期（75年）に筒美作品のアレンジを手がけた南沙織の「 ひとねむり 」や天地真理の「 レイン・ステイション 」なども聴く人が増えることを願っております。特に後者は驚くほど時代を感じさせない、メロウで洗練されたシティポップスですのでね。同時期の林アレンジとしては、松本隆＋ユーミンコンビの処女作である太田裕美「 袋小路 」「 ひぐらし 」もオススメです。
 
　さて、そんな「真夜中のドア—stay with me」ですが、昨今のアナログ盤人気を背景にオリジナルのアナログ盤の中古価格が急騰し、2018年には12インチシングルとして限定発売されたほど。
　今回は、キャニオン・レコードのSEE・SAWレーベルからリリースされたオリジナル盤に忠実な復刻となるそうです。
 
　また、同時に候補に挙がった「POCKET PARK」は、80年1月にリリースされたファーストアルバム。作家陣は、三浦＋林コンビのほか、佐藤健、芳野藤丸、梅垣達志、及川恒平、惣領泰則、中里綴、森田由美、竜真知子らが参加。「真夜中のドア—stay with me」のアルバムバージョンも収録、ハイクオリティなサウンドをバックにしたシティポップスが繰り広げられていますが、驚くのは弱冠20歳にして、既に完成されているみきちゃんの自由奔放なボーカル。ジャズフィーリングたっぷりの卓越したテクニックが堪能できます。
　LP盤もオリジナルにこだわり、歌詞カードのほか、当時封入されていたポスターなども再現。完全復刻盤になるようです。
　なお、いずれも予約受付は2021年2月17日まで。大丈夫だとは思いますが、規定数に達しなければ流れてしまいますのでご注意を。
 
　ところで、みきちゃんのプロデュースは今もハンズオン・ エンタテインメントハンズの社長としてご活躍の菊地哲榮さん。そう、渡辺プロのマネージャーとしてデビュー前から天地真理を担当。昔から真理ちゃんが「菊池さん」「菊池さん」と慕ってやまないマネージャー兼プロデューサーだった人物です。
　二人三脚でスター街道を駆け抜け、真理ちゃん自身も全幅の信頼を置いていましたが、ささいなことというか真理ちゃんのちょっとしたわがままで袂を分かつことになったエピソードはファンの間ではよく知られていますよね。それでも真理ちゃんのことをずっと気にかけ、陰で支えていらっしゃったと聞きます。
 
　そんな菊池さんが渡辺プロで最後に発掘したタレントがみきさんだったというのも、何やら因縁めいているのかも。みきさんは既に渡辺プロからのデビューが決まってレッスンを積んでいたそうですが、ご本人の強い希望で、ナベプロから独立した菊池さんの事務所に所属。それが「ポケットパーク」というプロダクションで、みきちゃんのファーストアルバムのタイトルにもなったというワケです。こじつけではありますが、真理ちゃんの直系の後輩ともいえるんですよね。
 
　ともあれ、松原みきの再評価は何度目かでありますが、今回は世界的というのが何よりウレシイ。いきなりアナログ盤は…という人はUHQCD版のファーストアルバム「 POCKET PARK」や、エッセンスが凝縮された2枚組ベスト「 ザ プレミアムベスト 松原みき」を。「真夜中のドア—stay with me」のシングルバーションを聴くなら、UHQCDの「 プラチナムベスト 松原みき」や「 ゴールデン☆ベスト 松原みき」といった気軽なベスト盤をどうぞ。