ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#1040
アグネス・チャン ライブアルバム3タイトル
フラワー・コンサート(BRIDGE-322)・ファミリー・コンサート(BRIDGE-323)・また逢う日まで(BRIDGE-324)
*2021.5.21発売、各¥2,750<税込>、「また逢う日まで」のみ2枚組¥3,500<税込> ※5.15→5.21に発売延期

初期ワーナー時代のライブ盤が紙ジャケ復刻!

 あの「ひなげしの花」がリリースされたのが1972年の11月ですから、日本での歌手デビュー50周年目に突入するアグネス・チャン。
 これを記念してライブ盤3タイトル「 フラワー・コンサート」「 ファミリー・コンサート」「 また逢う日まで」が、ブリッジから紙ジャケ復刻されるというニュースが飛び込んできました!
 
 アグネスの場合、2002年通販の6枚組「アグネス・チャンCD-BOX」を筆頭に、2011年にOMFで出た10枚組のオリアルといいながらなぜかベストも含むBOX「アグネス・チャン プレミアム」( こちらで紹介)、2012年の40周年記念にして本人セレクションBOX「Always Agnes ~ワーナー・イヤーズ・コレクション 1972-78~」( こちらで紹介)とCDボックスは3種リリース。
 オリアル復刻も90年代のQ盤時代からある程度進み、そのタイトルはかなり早い段階から配信されたりしてきましたが、ライブ盤だけは手つかずの状態だったのですね。
 ということで、今回のCD化は多くのファンが待ち望んでいたに違いありません。しかも、アグネスにとって97年の「70's smile」シリーズ(「ひなげしの花」のみ)以来となる紙ジャケ仕様で、当時の封入物もミニチュアで復刻されるとのこと。もちろん2021年最新リマスタリング音源ですので、「アグネス・チャン プレミアム」以来の再CD化となる「フラワー・コンサート」を含め、3タイトルセットで入手したい人は少なくないことでしょう。
 
 せっかくですので3タイトルを簡単に紹介しますと、まず「 フラワー・コンサート」は、第3弾シングルにして新人賞レース参加曲「草原の輝き」が大ヒット中の73年9月に行われたコンサートの実況録音盤。ライブ盤制作のためのコンサートであるからして、そこはかとなく安定のスタジオライブ感が漂っておりますが、日本でのデビュー1年にも満たないキャリアでこのクオリティのライブ盤を出したことに驚きます。
 香港でのデビュー曲だったジョニ・ミッチェルのカバー「サークル・ゲーム」で幕が開き、ドーンの「幸せの黄色いリボン」、ビージーズの「若葉のころ」、ニルソンの「ウィズ・アウト・ユー」など、来日前からのレパートリーだった得意の英語曲がずらり。いずれもアグネス独自の解釈で、子どもだけでなく洋楽志向の高校生や大学生のファンが多かったのもうなずける選曲です。
 もちろん、日本語によるカバーも盛りだくさんで、森山良子の「遠い遠いあの野原」「この広い野原いっぱい」、ベッツィ&クリス「白い色は恋人の色」など、LPにも入れたレパートリーのみならず、チューリップの「心の旅」、ガロの「学生街の喫茶店」といった最新ヒットもチョイスされています。
 
 ハイソックスにポックリ靴のイメージや、カタコトの日本語と愛らしいハイトーンでアイドル中のアイドルと誤解しがちですが、香港ではギターを抱いてメッセージソングを歌う筋金入りのフォーク少女だったアグネス。このライブ盤はどちらの雰囲気も実感できる選曲で、テレビの歌番組の姿とは異なる本格的なステージングが楽しめます。
 
 ちなみに日本でリリースしたオリジナルナンバーは、シングル曲と英語の自作曲「You're 21, I am 16」のほか、ほんの少ししかなかったアグネスですから、基本的にカバーが中心。このライブで歌われたシングル曲は「ひなげしの花/初恋」「妖精の詩」「草原の輝き/山鳩」、そして発売前の「小さな恋の物語/ふたりの牧場」の7曲となっています。
 なお、LP盤はワーナー・パイオニアの年末企画としてリリースされたもので、ジャケットはレーベルメイトの小柳ルミ子や朱里エイコらと同じデザイン。オリジナルと最初のCD化では2枚組でしたが、今回は1枚としてリリースです。思えば天地真理に取って代わったように、フォーク嗜好の学生や子どもたちのファンを獲得したアグネスでしたが、このライブ盤を聴いたら納得。真理ちゃん初のライブ盤が翌年、このアルバムを模倣したスタイルになってしまったのが何とも象徴的です。
 
 この「フラワー・コンサート」は2度目のCD化なので、今回最もオススメしたいのは「 ファミリー・コンサート」。デビュー4年目で日本での活動にもすっかり慣れた75年、矢野誠さんとムーンライダースをバックに開催されたコンサートのライブ盤です。
 ムーンライダースは鈴木慶一さんを中心に、はちみつぱいを経てアグネスのバックバンドとして定着していった、いわばアグネスのファミリーバンド。歌謡界ではジャズメンを中心にしたプロフェッショナルなオーケストラやバンドによる演奏が当たり前だった時代、彼らからすればムーンライダースの演奏はアマチュアの延長線上だったようですが、リスナーにとっては、たとえ精度は低かったとしても仲間たちと一緒になって好きな音楽を創り上げる楽しさがハッキリ見えたのは確かです。
 それを実現させたのは、同時代のアイドルではずば抜けた音楽性はもとより、自分の意思をしっかりと主張するアグネスの姿勢が大きかったでしょうが、やはり彼女の所属事務所が渡辺プロダクションだったからだといえるでしょう。出版社、レコード会社を掌中に収め統率がしっかり取れていた上、何よりも創業者が作品に理解を持ち、隅々にまでこだわる音楽家だったのですからね。
 むろんいろんな軋轢はあったと聞きますが、業界最大手だったナベプロ系の優秀なスタッフ陣に恵まれたアグネス。LPではいち早くキャラメル・ママを起用し、ティン・パン・アレーに変わった後も引き続き担当しつつ、高橋幸宏さんや矢野顕子さんら錚々たるメンツがサポートに加わり、この年にはシュガーベイブやハイ・ファイ・セットがコーラスを担当するなど、他のタレントの制作とは一線を画していましたが、今思えば、その根幹をなしていたのはビジネスよりも日本の流行歌の向上を願った渡辺晋さんのイズム以外になかったことを実感せずにはいられません。
 ちなみに彼女のスタッフというと出版の木崎賢治さん、レコード会社の細井虎夫さんがクロークアップされますが、このコンサートを構成・演出したのはプロダクションの森本精人さん。ちなみに娘さんは、ユーミンのジャケットデザインでも知られる森本千絵さんです。

 

 内容に話を戻すと、収録曲の中心はやっぱり英語カバーで、オリビア・ニュートン=ジョン「レット・ミー・ビー・ゼア」、ビージーズ「ラブ・サムバディ」、エルトン・ジョン「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」といったアグネスの大好きな歌を中心に構成。
 「フラワー・コンサート」の時と比べれば、オリジナルも格段に増えているのですが1枚物のため5曲のみ。内訳としては当時の最新シングル「恋人たちの午後/まごころ」、一つ前の「愛の迷い子」、そして唯一のオリコンNo.1獲得曲のためか今回もピックアップされた「小さな恋の物語」というシングル曲3曲と、愛鳥を歌った「TWINKY(トゥインキー)」と松本隆作品「雨模様」というアルバム曲2曲となっています。
 ライブ感という意味では、安定しすぎた前作とは好対照で、実況録音という言葉がぴったり。2枚組のスケールで聴きたかったと思うほど、生演奏の醍醐味を感じさせるライブ盤ではないかと思います。
 なお、ラストにボーナストラックのような形で収録された「はだしの冒険」はライブではなくスタジオ録音で、シングルとは別バージョン。いわばコンサートの追い出し曲のイメージでしょうか。
 
 そして最後は、衝撃の引退騒動を収める形で行われたコンサート。76年6月に香港で突然の引退発表をして2カ月、8月に行われた事実上のさよならコンサートから東京公演の模様を収めた2枚組の「また逢う日まで」です。
 結局はレコード発売の契約が残っていたので、カナダのトロント大への留学のための休業というような形が取られたワケですが、当初、大阪の通常公演として予定されていたショーのスケジュールを調整。東名阪の3カ所で行われたというのもスゴイですが、ライブ盤発売まで1カ月というスピードリリースもスゴイ。ファンはもちろんのこと、ナベプロさえも寝耳に水の引退宣言だったといいますから、なおさらスゴイですよね。翌年のキャンディーズの解散宣言は、当時からアグネスをお手本にしたのではないかと思っております。
 
 さて、肝心の内容は得意の英語カバーも入ってはいますが、さよならコンサートということもあって、基本はヒット曲のオンパレード。「ひなげしの花」「妖精の詩」「美しい朝がきます」「小さな恋の物語」「草原の輝き」「はだしの冒険」「白いくつ下は似合わない」「冬の日の帰り道」「愛の迷い子」「夢をください」「恋人たちの午後」「恋のシーソー・ゲーム」「ポケットいっぱいの秘密」「星に願いを」「ポケットいっぱいの秘密」とシングル満載で、「山鳩」「ほほえみ」「まごころ」といったB面曲、「美美」「男の人わからない」「アップルパイのラブレター」「思い出してください」というアルバム曲と、オリジナルナンバーがたっぷり収録されています。
 日本でのキャリアは3年半ですが、それでもビザの書き換えやアジア諸国での芸能活動のため、しょっちゅう帰国していた感がありますので、実質的にはもっと短かったはず。それなのにこの密度の濃さは、ナベプロ所属ということを差し引いても、いかにあの時代の歌謡界がハードワークだったかという証しのようにも思います。
 なお、バックのホットケーキは、ムーンライダースの後を受けて歌番組でもアグネスのバンドとして活動していましたが、元々は鳥塚しげき&ホットケーキを母体にしたバンド。構成・演出の森裕平さんはナベプロのスタッフで後にWinkを手がける方です。
 
 というアグネスの初期ライブ盤3タイトル。この時代は人間離れしたハイトーンの響きも含め、妖精アグネスの魅力がとにかく素晴らしいので、未聴の方もこの機会に。
 また、アルバムとしてまだ未CD化となっているワーナー時代のオリアルは「お元気ですか」「私の恋人」「ハッピー・アゲイン」の3タイトルのみですので、今回のライブ盤が売れて次へつながることを願うのみです。
 SMS時代は「Agnes In Wonderland 不思議の国のアグネス」しか出ていませんので、もっと期待大。移籍第1弾「ヨーイドン」や、矢野顕子と再会した「美しい日々」(みんな大好きな名曲「ひとつだけ」はアグネスへの提供曲)、シンシアや太田裕美ら旧知の仲間たちが作品提供した「小さな質問」とその続編「ガールフレンズ」など、隠れた名作も多いので、初CD化されることを祈っています。
 もちろんそのためには今回のライブ盤の数字が重要だと思いますので、ぜひご予約を。
 
 ちなみに、「ひなげしの花」「花のように 星のように」「草原の輝き」の初期3枚と、ベスト盤「あなたにありがとう」、ゴダイゴmeetsアグネスによる「Agnes In Wonderland 不思議の国のアグネス」は、ナベプロ音源のAmazon DOD「昭和歌謡・復刻盤シリーズ」(こちらで紹介)のオンデマンドCD-Rではありますが、現在も入手可能です。
 
 

(2021.4.10)

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