松本隆作品をオルゴールの調べにのせて…

　作詞活動50周年を迎えた松本隆さんにとって、昨年から今年にかけてはいろんな企画が目白押し。
　コロナ禍で予定が遅延してしまったものの、大きなところでは、公式ホームページ「風待茶房」の閉店以来となる楽曲リストが掲載された 特設サイトが開設され、7月にトリビュートアルバム（初回限定生産盤：CD＋LP＋豪華特典本「 松本隆 作詞活動50周年トリビュート 「タイトル未定」 ［CD+LP+豪華特典本］＜初回限定生産盤＞」、通常盤：CD「 松本隆 作詞活動50周年トリビュート 「タイトル未定」＜通常盤＞」）のリリースがアナウンスされたり、 オフィシャルプロジェクトが立ち上げられ、配信番組「風街ちゃんねる」がスタートしたり。
　先行した細野さんの50周年やコロナ禍で遅れた分を取り戻すかのごとく、いろんな企画が勢いづいておりますが、松本さんが風街と呼び、現在の拠点の一つとしている神戸でも、規模は小さくても非常に濃ゆいイベントやライブが催されております。
 
　延期され昨年11月に開催となった画家・寺門孝之さんとの絵画展「風街ヘブン」（本当に素晴らしかった！）をはじめ、歌詞や音楽がなくても十二分に成立する感動的なコラボレーションも目立ちます。今年3月に好評を博した「風街神戸　オルゴール＋ポエトリーリーディング～松本隆の詞を読む～」は、松本作品のオルゴールの調べに乗せて地元の高校生が朗読するというイベントで、5月19日にはラジオ関西で特別番組もオンエアされますが、このタイミングで、松本作品のオルゴールサウンド集の発売も決定しました！
 
　それが、アーティスト系シンガーに書き下ろした作品をピックアップした「 風街オルゴール～GOOD SONGS BEST～」と、 アイドル系シンガーへのナンバーを集めた「 風街オルゴール～IDOL BEST～」の2タイトル。松本さんの言葉やストーリーを、あえて歌詞のないオルゴールサウンドで楽しむバーチャルポエム体験企画ということです。
 
　オリジナル音源による松本作品のアンソロジーといえば、最高峰といえる30周年記念BOX「風街図鑑 1969-1999」（現在は廉価再発の分冊盤「 風街図鑑 風編」「 風街図鑑 街編」が入手可）を筆頭に、40周年時に出たその続編「 新・風街図鑑」（ こちらで紹介）、はっぴいえんどメンバーとの作品集「風街クロニクル~another side of happy end~」、松本フリークの著名人がセレクトした２タイトル・松本隆WORKSコンピレーション「風街少女」「風街少年」（ こちらで紹介）などが出ておりますので、既にコレクションしている人にとっては、純正ではないにしろこういった変化球コンピの方が魅力的に映りますよね。
 
　２タイトルとも名曲ぞろいの選曲で、松本さんの兄貴分・筒美京平先生の作品群などは先月の「ザ・ヒット・ソング・メーカー 筒美京平の世界 in コンサート」と重なっており、思い出してつい涙してしまいますので、オススメはやっぱり「 風街オルゴール～IDOL BEST～」。
 
　今回オルゴールで奏でられる収録曲はといいますと、まず松本さんがフォークロック界出身の新進作詞家として歌謡界に新風を吹き込んだ70年代は、アグネス・チャンの「ポケットいっぱいの秘密」、ザ・リリーズの「好きよキャプテン」、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」「九月の雨」、岡田奈々の「青春の坂道」、桜田淳子の「リップスティック」、渋谷哲平の「Deep」、山口百恵の「愛染橋」。
　乙女チックな風街詩集という趣で、一般にはさほど知られていない隠れた名曲もチョイスされていますが、作曲者は百恵ちゃんのアリス・べーヤン（堀内孝雄）を除き、筒美先生をはじめ、森田公一、都倉俊一、穂口雄右といった職業作家の先生ばかりです。
 
　一方、押しも押されもしない作詞家として頂点に君臨した80年代は近藤真彦「スニーカーぶる～す」「ブルージーンズ メモリー」「ハイティーン・ブギ」、イモ欽トリオ「ハイスクール・ララバイ」、松田聖子「風立ちぬ」「赤いスイートピー」「SWEET MEMORIES」、石川秀美「ゆ・れ・て湘南」、C-C-B「ROMANTICが止まらない」、斉藤由貴「卒業」、薬師丸ひろ子「Woman～『Wの悲劇』より」、中山美穂「ツイてるね ノッてるね」。
　筒美先生や小田裕一郎さん、大村雅朗さんらの存在感は大きいものの、大瀧詠一、細野晴臣の盟友両氏をはじめ、ユーミン、山下達郎といったニューミュージックのシンガー･ソングライター諸氏がメインとなっているのも興味深いですよね。
 
　このほか、90年代のKinKi Kids「硝子の少年」、2000年代のランカ・リー=中島愛「星間飛行」も収録されるとのことですが、優しいオルゴールの音色を聞いて楽しむのも良し、メロディーに合わせて詞を読むのも良し、もちろん歌うのも良し。
　いろんな楽しみ方ができるアルバムだと思いますので、風街フリークの方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
 
　なお、同月に出る公式トリビュートアルバムは、45周年記念トリビュートアルバム「風街であひませう」（ こちらで紹介）に次ぐものとして期待は高まるばかり。果たして長引くコロナ禍で記念ライブが行われるかが気になるところですが、願わくば「風街レジェンド2015」や「風街ガーデンであひませう 2017」のようなコンサートやライブが開催されますように。今回も駆けつける気満々で吉報を待ちたいと思います。