心の傷さえ癒やすよな、忘れがたき名曲たち。
なんだか驚きを通り越して、唖然としてしまうことばかり起こる世の中。それでも時の流れは容赦なく、毎日はすぐに過ぎ去って、さまざまな出来事を忘却の彼方へと連れ去ってゆきます。特に最近は目まぐるさと年のせいもあって、ほんのひと月前、大きなショックを受けたくせにろくに思い出せないことも多かったりして…。
にもかかわらず、あの頃、ときめき輝いていた日々のことは、いつまでも覚えていたりするんですよね。普段は忘れてしまっていても。また、ひどく傷ついたり、涙したり、忘れ去ろうとした出来事も、いつしか甘い想い出となって輝いていることもあります。
もともと人間に備わっている本能の一つと言ってしまえばそれまでだけど、ワタシの場合、そういった想い出たちが今まで生きてきた証となったり、大切なことを忘れない戒めとなったり、あるいは明日を歩いていく支えになったりしています。
うたもまた同じ。その時々に聴いた名曲はそれぞれの想い出を呼び覚まし、心の旅をさせてくれます。世に連れたヒット曲は社会の出来事や世相までもをよみがえらせ、多くの人々と思いを分かち合えます。それって本当に素晴らしいことだと思いませんか? ある意味すごいことだと思いませんか?
などと、またオーバーなことを感じていますが、時代の風や匂い閉じこめられ、永遠の命を吹き込まれた名曲たちを耳にすると、そんな風に実感するんですよね。
そんなのウソに決まってる!なんてお思いの方に聴いてほしいのがこの歌姫・女性ヴォーカリストシリーズ。このたび「 歌姫~オリジナル女性ヴォーカリスト~ 」「 歌姫~センチメンタル女性ヴォーカリスト~ 」に続く第3弾として「 歌姫~アンフォゲッタブル女性ヴォーカリスト~ 」のリリースが決定しました。
今回もまた、強烈な印象を残すメガヒットから、時を超えて歌い継がれるナンバーまで、70年代から80年代の名曲が揃い踏み。筒美京平先生を筆頭に、阿久悠さん、都倉俊一さん、松本隆さん、林哲司さんといった職業作家陣のほか、作家としてももてはやされるNM系の自作自演組もバランスよく収録されていますが、単なる寄せ集めではなく隠し味や裏ワザもちらりとのぞく選曲です。
それは、松田聖子の「風立ちぬ」に始まり、太田裕美の「さらばシベリア鉄道」で終わるという構成から納得。そう、オープニングとエンディングを松本隆+大瀧詠一コンビが飾っているのですね。
ほかにも同じく大瀧御大による吉田美奈子の「夢で逢えたら」や、下田逸郎さんの石川セリ「SEXY」といった、チャートの記録には残っていなくても、名曲として広く浸透しるナンバーがあったり、カバー曲ながら、薬師丸ひろ子の「時代」と研ナオコの「夏をあきらめて」というみゆきvs桑田という図式が浮かんだり。
また、小坂明子の国民的大ヒット「あなた」と八神純子の本格デビュー曲「思い出は美しすぎて」のピアノ弾き語り系歌姫もいいし、ハイ・ファイ・セット「冷たい雨」やサーカス「Mr.サマータイム」というアルファ2大コーラスグループの競演もいい。そこから発展させると尾崎亜美「マイ・ピュア・レディ」、桑江知子「私のハートはストップモーション」と化粧品コマソンつながりのイメージものぞきます。
一般的に、こういうコンピではアイドルポップスはたいてい聖子とかだけで(今回は「天使のウインク」)、後はスルーされがちなのですが、そのへんも抜かりなく収録されています。
筒美系ディーバの南沙織「17才」と岩崎宏美「ロマンス」はとてもフレッシュだし、山口百恵「パールカラーにゆれて」がチョイスさているのもウレシイ。
百恵ちゃん唯一の初登場オリコン1位という記録を打ち立てた曲ですが、一般的には代表曲から抜け落ちてしまっていていつも残念に思うナンバーですからね。であるからして、この曲の面目躍如みたいなムードも感じられ、勝手に溜飲を下げております。
こうして聴いてると、一つ一つの歌にまつわる想い出から発展して、時代性といいますか、あの当時の世相も浮き彫りになってくるようです。これこそ、鏡のように時代を映す流行歌。昭和というカオスの荒波に揉まれながら、聴かれ歌われ消費尽くされ、それでもなおみずみずしさを失わない名曲たちが、名曲たちであり続ける所以です。だからこそ心の傷さえ癒やすよなパワーを持ち得ていて、どんなに時が流れても忘れがたいものに思えるのでしょうね。
時には喜びを分かち合い、増幅してくれて、時には悲しみに同化してくれる名曲たち。その大いなる力を、あらためて感じてみませんか。
(2009.7.1)