世界を席巻するシティポップの立役者の選集！

　今や世界も席巻する日本のシティポップブーム。中でも昨年からワールドワイドな大ヒットを記録しているのが、1979年に発表された松原みきさんのデビュー曲「真夜中のドア～stay with me」。
 
　世界のサブスクで大人気となり、インドネシアのYouTuber・Rainych（レイニッチ）によるカバーに後押しされ、Apple MusicにおけるJ-Popチャートでは12カ国で１位を獲得。47カ国でトップ10入りを果たすなど、リアルタイムを知っている世代には驚くべき状況となっております。
 
　キャロル・ ベイヤ―・セイガーの「恋をしましょう」にヒントを得たようなアレンジに象徴されるように、洋楽の真似をすることから始まった日本のシティポップスが、巡り巡って世界的に評価されるなんて、当時の洋楽ファンからバカにされたことを覚えている世代にとっては隔世の感がありますよね。当時は邦楽を格下に見ていた音楽雑誌さえ、諸手を挙げて特集する時代になったことを思うといろいろ感慨深いモノがありますが、この曲を作曲したのはご存じの林哲司さん。
 
　ヤマハ出身でキャリア50年。シンガー・ソングライターから作・編曲家に転身して才能を開花された方ですが、かの筒美京平先生が目をかけていたことも有名。75年末には、南沙織「ひとねむり」や天地真理「レイン・ステイション」といった筒美作品のアレンジを手がけるとともに、筒美系である太田裕美のアルバム曲にして、松本隆＋ユーミンコンビの処女作である「袋小路」「ひぐらし 」も編曲。さらに翌年には、作曲家としてシンシアのシングル「愛はめぐり逢いから」（田村正和さん主演のTBSドラマ主題歌）を担当し、それまでの歌謡曲にはなかった洗練されたサウンド、後にシティポップと呼ばれるおニューなミュージックを送り出しました。
 
　広く知られるようになったのは、やっぱり79年で、竹内まりや「September」と「真夜中のドア～stay with me」のダブル・スマッシュヒットから。80年代には杏里の「悲しみがとまらない」や上田正樹の「悲しい色やね」をはじめ、杉山清貴&オメガドライブの一連のナンバーでヒットメーカーの仲間入り。
　アイドルものでは菊池桃子の一連のヒット曲や原田知世の「天国にいちばん近い島」、河合奈保子の「デビュー～Fly Me To Love～」といったナンバー１ヒットのほか、中森明菜の「北ウィング」などなど。今も時代を感じさせない、メロウで洗練された名曲ばかりで、再評価は当然といった感があります。
 
　ということで、今回の世界的ヒットを受け、ポニーキャニオン、ソニー、バップの3社から「 林哲司 melody collection 1977-2015」「 林 哲司 melody collection 1979-2020＜タワーレコード限定＞」「 林 哲司 melody collection 1983-1994 (三方背BOX仕様)＜タワーレコード限定＞」という各２枚組３タイトルがリリースされることになりました！
 
　2001年にデビュー30周年記念として書籍「林哲司 全仕事」と一緒に出た「林哲司ソングブック-Hits&Rare Tracks-」以来、20年ぶりのアンソロジーではないかと思いますが、前回がヒットメーカーとなってからの80年代を中心にキャリアが網羅された選曲だったのに対し、今回は現在のブームを反映し「グルーヴ」という基準で厳選されているとのこと。
　選曲を担当したのはタワーレコードスタッフにつき、ソニー編とVAP編はタワレコ限定販売となるそうです。
　もちろん2021年最新リマスタリングで、林さん自身によるエッセイや楽曲解説も収録とのこと。林さんは著書も多く、ラジオ番組でのトークには定評がありますので、ブックレットも楽しみ。ソロアーティストとしてデビューしただけにタレント性も秀でているので、当たり前といえば当たり前ですが。
 
　ということで、林さんのアンソロジーというワケではありませんが、タイムリーな作品集として「真夜中のドア～stay with me」で林作品に注目した人たちにウケそうな気がしますよね。
　とはいえ、今回は1500曲を超える林作品の中からセレクトされた合計6枚ということですので、30周年時の3倍というスケール。VAPは自社音源にこだわったようですが、ソニーとポニキャンはレコード会社の垣根を超えて選曲されていまし、ヒット曲中心ではなく、名曲やレア曲がテンコ盛りですので、マニア受けもしそう。
 
　個人的には、ヤマハ初期の世界を旅する特派員みたいだった時代をはじめ、筒美門下のアレンジ作品を含み、林さんの全軌跡をしっかり追ったアンソロジーを切望していますので、今回の企画で数字が動き、次の企画へとつながることを願っております。