全80曲以上、約5時間のジュリーNHK歌唱映像集！

　目下、志村けんさんの代役として主演することになった山田洋次監督の松竹映画100周年記念映画「キネマの神様」の撮影が進んでいるジュリーこと沢田研二さん。
　近年も“ジュリけん”として交流が続いていたようですが、２人はかつて同じ渡辺プロダクションに所属したタレント同士ですし、「8時だョ！全員集合」などでのコントを楽しく観ていた世代にとっては、ことさら感慨深いものがありますよね。
　志村さんがジュリーの衣装も小物もそっくりにコピーした「憎みきれないろくでなし」や「サムライ」などは忘れることがありませんが、それも毎度毎度、テレビで肝を抜くパフォーマンスを見せたジュリーの存在が大きかったからだと思います。
 
　そんなジュリーのテレビ番組の歌唱映像DVDといえば、古くはナベプロ制作番組での歌唱を集めた「 快傑ジュリーの冒険」に始まって、2011年には夜ヒット出演回などフジテレビの集大成による6枚組の「 沢田研二 in 夜のヒットスタジオ [DVD] 」（ こちらで紹介）が発売されていますが、今回はNHKの出演映像を選りすぐった5枚組。全80曲以上、約5時間にもおよぶまさにベスト・オブ・NHKといえる「沢田研二 BEST OF NHK DVD-BOX」（Amazonは「 沢田研二 BEST OF NHK DVD-BOX 全5枚 」、NHKショップは「 沢田研二 BEST OF NHK DVD-BOX 全5枚」）です！
　なんとジュリー自身が監修、タイガース再結成時を含め通算17回も出場した「紅白歌合戦」をはじめ、「ワンマンショー」「ビッグショー」「レッツゴーヤング」「ひるのプレゼント」「花のステージ」といった黄金期の70年代のみならず、近年の「SONGS」までを網羅した内容となるようです。
 
　最古の映像は72年の紅白初出場シーンの「許されない愛」ということで、タイガース時代やソロ初期のオリジナル映像は収録されていませんが、それはVTRが残っていないというだけでなく、長髪やバンドは不良というレッテルが貼られていた時代、NHKへの出演自体が少なかったせいかもしれません。
　なんたって、風紀上の問題とかでグループサウンズはどんなに人気があろうと、紅白歌合戦には選出されなかった（短髪のブルーコメッツは出場）のですからね。
　とはいえ、「君だけに愛を」「モナリザの微笑」「シーサイド・バウンド」といったタイガースのナンバーや、ソロデビュー曲の「君をのせて」なども、後々の映像でしっかり収録されていますのでご安心を。
 
　ジュリーの場合、音源だけでもきらめくような名曲が多数ありますが、やはりテレビでのビジュアルも重視していた先駆的存在だけに、華麗なパフォーマンス演出や衣装、小物などとセットで楽しむのがイチバンですよね。
　ファッショナブルなブリティッシュ・ロックスターというか、マダムに囲われたシャンソンアイドルというか、初期の妖艶なカッコよさも筆舌しがたい魅力がありますが、最盛期といえる77年から80年にかけての変幻自在なテレビパフォーマンスといったらどうでしょう。
　「勝手にしやがれ」の壁塗りソフト帽、「憎みきれないろくでなし」のパンクルックやサスペンダー、「サムライ」のシースルーな入れ墨襦袢シャツや小刀、「ダーリング」の指なめセーラーマン、「LOVE（抱きしめたい）」の血染めの包帯、「カサブランカ・ダンディ」のバーボン吹き、「OH!ギャル」の煙草とメイク、「TOKIO」のパラシュート、「恋のバッドチューニング」のカラーコンタクトなあたりまでは、開けてみるまで何が出るか分からない楽しさがありましたよね。
 
　そう思うと、特に阿久悠さんが自らの願望を投影したセクシーなダンディズム路線こそ、ジュリーの真骨頂であったと言わざるを得ません。
　今回のDVDでもたっぷり収録されていますから、やはり永久保存版として所有しておくべきでしょう。
 
　また、冒頭で述べた志村さんのモノマネに加え、78年あたりには新曲が出るたびに山口百恵ちゃんやピンク・レディーと三つどもえの対決を繰り広げたことを懐かしく思い出す人も多いでしょう。
　ホント個性あふれるいろんな歌手たちがしのぎを削っていた歌謡曲の黄金時代ならではの作品群は、やはりライバルたちの存在あってこそだと思いを強くする次第です。
 
　そういう意味で今回の目玉だと思うのは、ともに歌番組をにぎわせていたスターたちとの共演シーン。ピンク・レディーとの「ビーバップ・ア・ルーラ」や「監獄ロック」、岩崎宏美さんとの「UFO」、森光子さんとの「カナダからの手紙」、さらにはNHKにつき21世紀になってからものではありますが志村さんの「東村山音頭 2001」「婆様と爺様のセレナーデ2001」などなど、こういうBOXものでは、許諾や料金の関係で大抵はぼかしが入っていたりするものですが、共演者のパートの歌唱映像が商品化されるのは異例といえるのではないでしょうか。
　リリースがNHKからというのも大きい理由だと思いますが。PＬやヒロリンのファンも絶対見たい映像ではないかと思いますし、他のアーティストのこういうBOXもどんどん企画されることを願っています。
 
　何だかんだいってもまだまだ現役のジュリーは、ロックとか歌謡曲とかそんなジャンルを飛び越えて日本が誇るエンタティナーにしてスーパースター。
　渡辺プロが頂点に君臨していたザ・芸能界の中心にい続けながら、今日まで続く男性ビジュアル系アーティストのパイオニアとして独自の道を切り開いていったことは、もっと評価されてしかるべきでしょう。楽曲制作から衣装、演出まで、一流のスタッフ陣とともに創り上げた世界観は、数十年が経った今このBOXで見ても色褪せない、恐るべき完成度なのですから。
　そして、かつてはトンガって、現在進行形にこだわり過去を封印していたジュリーが、こうしてかつての映像をご自身で監修するまでに変心されたことに、ファンの1人として感謝したいと思います。