伊代ちゃんの最高傑作がタワレコで復活！

　ヒロリンの全タイトルが再発売（ こちらと こちらと こちらで紹介）されたり、オギノメちゃんの6タイトルが再プレスされたり、タワーレコード限定で活発な動きを展開しているビクターのオリジナルアルバム紙ジャケット・コレクション。
 
　リリース当時は完全限定生産でしたので入手できていなかったファンや、後から集めたいと思った人たちにとってはウレシイ企画となっておりますが、ここに来て松本伊代さんの後期の名盤3タイトル「 風のように +7 」「 Private File +6」「 MARIAGE～もう若くはないから～ +4」が登場しました！
 
　これらは2009年、紙ジャケボックス「スイート16」（ こちらで紹介）と単品で発売されたオリアル12枚のうちの後期3タイトル。オリジナルリリース自体がCDだったもので、どうしても紙ジャケに違和感がありますが、ブックレットには伊代ちゃんやスタッフのインタビューも収録されていますし、「まさか伊代ちゃんが！しかもあのアルバムが！」という感じでまたとないチャンスだと思いますから、ぜひお買い逃しのないように。
 
　さて、シンガーとしての伊代ちゃんといえば、デビュー時の筒美京平作品から転機となった尾崎亜美作品など常に楽曲に恵まれておりますし、パブリックイメージとは裏腹、歌にはずっと真摯に取り組んできた印象がありますが、女子大生じゃなくなった86年の「信じかたを教えて」からはイメージチェンジ。
　バブルの上り調子の世の中だったにもかかわらず、それまでのアバンギャルドなステージ衣装を脱ぎ捨て、OLっぽいスーツに着替えた伊代ちゃん。ユーミンソングを意識した等身大路線というか、ユーミンを好んで聴く同世代女性をターゲットにした作風へとシフトし、久々のスマッシュヒットを記録したのでありました。
 
　シングルでは、この「信じかたを教えて」と続く「サヨナラは私のために」「思い出をきれいにしないで」という3曲がサヨナラ三部作といわれ、アイドルフリーク以外の人にも松本伊代の最高峰と認識されているようですが、その三部作を中心にほぼ全曲を川村真澄＋林哲司＋船山基紀のトリオでまとめたのが、87年12月リリースの「 風のように +7 」。
　ファーストアルバムから名曲、名盤が多い伊代ちゃんではありますが、ピッタリハマった川村さんの詩世界を軸にしたこのアルバムは、やはり松本伊代のシンガー開眼作にして最高傑作だと思っておりますので、今回も大プッシュさせていただく次第です。
 
　当時の最新シングルにして洗練されたアーバンポップ「すてきなジェラシー」（コレのみ岸正之作曲）、エバーグリーンな甘酸っぱさが漂う「星をまねて」、本人お気に入りでシングルリリースのブランクがあった時にテレビでもよく歌っていた「硝子のカラス」、今は亡きC-C-Bの渡辺英樹さんとのデュエット「カレードスコープ」などなど、トリオの手腕がいかんなく発揮された切ない名曲ぞろい。
　そして何より素晴らしいのが伊代ちゃんのボーカル。筒美先生が愛してやまない天性の声質を持つ伊代ちゃんですが、このアルバムではボーカリストであることに徹し、努力で磨きをかけた成果がしっかりと表れております。
　発声から感情の込め方に至るまで細かく気を配っているのが分かりますし、地声とファルセットの境界を行き交う巧みなテクニックにも脱帽です。クセになる魅力がいっぱい、ボートラもいっぱいと、マストバイのアルバムですぞ。
 
　なお、今回再プレスされる残りの2タイトルについても触れておきますと、まずは89年1月リリースの次作「 Private File +6」。
　引き続きの等身大女性路線ではありますが、世はバブルの絶頂期だけに、詩世界はより華やかなクール＆スタイリッシュに進化。
　作家陣もより豪華にバラエティーに富んでいて、ピチカート・ファイヴの小西さんやシュガーベイブの村松さんに加え、ブレイク前のKANや崎谷健次郎といったニューフェイスも参加。麗美やチェッカーズのモクなどもいい曲を書いています。
　当時の最新シングルは、大江千里クン書き下ろしのシングル「ソナチネ」でしたが、オススメは「ソナチネ」がクリスマスソングだったため両A面扱いとなり、年明けからはテレビでも歌っていた「泣かないでギャツビー」。アルバムは別バージョンなのですが、今回はボートラでオリジナルバージョンも収録されております。モク作曲による「男には向かない職業」もけだし名曲であります。ボートラには、井上ヨシマサ作曲のシングル「淋しさならひとつ」も収録。
 
　そういえば90年代に入ると歌番組もほとんどなくなり、とんねるずや志村けんらのバラエティーの歌ゲストが多くなっていった伊代ちゃんですが、シングルの代わりに「泣かないでギャツビー」や「男には向かない職業」なんかもよく歌っていましたよね。
 
　89年にはもう1枚、アートワークも含めちょっと難解な異色作「 Innocence」がありますが今回はスルー。1枚おいて再プレスされるのは91年1月リリース、最後のオリジナルアルバムにして初の全編打ち込みサウンドとなった「 MARIAGE～もう若くはないから～ +4」です。
　その昔、自著のアイドル本を「まだ読んでません」と答えた伊代ちゃんならでは、ホントに書いたかどうかを世に問われた同名処女小説と連動するアルバム。
　伊代ちゃん自身を映したような、25歳という当時の結婚適齢期を過ぎ、恋愛の主役から旅立っていこうとするヒロイン像が描かれていますが（ホントなら歌詞も伊代ちゃんが書いたらよかったのに）、特筆すべきはジャケット。本と同じく桜沢エリカのイラストなのですが、全アルバムで唯一伊代ちゃんの写真が使われていないアルバムとなってしまったんですよね。
 
　お手本にしていたユーミンは当時、純愛三部作（「ダイアモンドダストが消えぬまに」「Delight Slight Light KISS」「LOVE WARS」）を出した頃で、内容もやっぱり意識していた感じがしますが、このアルバムでは制作陣にモロに出ていますよね。
　ピチカート・ファイヴの小西さんや崎谷健次郎さんらも参加していますが、中心作家となったのは冒頭を飾る先行シングル「きっと忘れるから」を手がけた鮎川恵＋熊谷幸子の女史コンビ。何を隠そう、2人は松任谷マンタさん主宰のマイカ・ミュージック・ラボラトリー出身の教え子。であるからして、ファミリーという意味では決してユーミンのパチモンではなかったのでした…。
 
　とはいえ、ユーミンフォロワーの線はクリアしていると思いますし、当時の感覚で言うと、シンガー・ソングライターなら竹内まりや、杏里、岡村孝子あたり、女性ボーカリストなら今井美樹あたりと並べても、さほど遜色ない…といえばい言い過ぎかもしれませんが、パブリックイメージの伊代ちゃんとはまったく違うと思いますので、この機会にぜひお手にとってみては。