オニピー発、ポニキャンの秀逸BOXが復刻！

　一昨年から、ポニーキャニオンショッピングクラブのダイレクト通販で復刻が続いている「ぼくらのベストCD-BOX」シリーズ。
 
　70年代～80年代アイドルマニアには、今はなきオニピーの須賀正人さんが手がけた名ベストシリーズから生まれたお宝BOXとしておなじみでしょうが、このシリーズはアーティストへのたっぷりの愛情はもとより、聞き手のニーズをくみ取ったかゆいところに手が届く緻密さなど、復刻商品の命といえるポイントをすべてクリア。その上で手間暇惜しまずマニアックに、しかもコストもギリギリまでという姿勢のもと制作されていますので、どんなに新たなBOXを編み直そうが、到底かないっこないんですよね。
 
　というワケで、岡田有希子「贈りものⅢ」（ こちらで紹介）、斉藤由貴「CD-BOX1」「CD-BOX2」（ こちらで紹介）に続いて今回登場するのは、昨年デビュー40周年を迎えたヨシリンこと岩崎良美の ぼくらのベストCD-BOX 3タイトル。
 
　まず、5枚組の第1弾「80-87 ぼくらのベスト 岩崎良美 CD-BOX」は、2002年7月発売。「赤と黒／クライマックス」から「ONLY HE／オ・ニ・ヴァ」まで、ポニキャン時代のシングル24枚AB面コンプリートをした上、ファンからのリクエストや本人のセレクトで決めたアルバム曲42曲をプラスした全90曲を収録。
　ブックレットには全シングルジャケットを掲載、本人コメントやスタッフのインタビュー、全オリジナル曲の詳細データなど資料的価値も高く、コアなヨシリンファンも感涙の超充実BOXでした。
 
　これが好評だったため、次はオリジナルアルバムの復刻BOXが実現。
　80年の「Ring-a-Ding」からの84年の「Wardrobe」まで8枚組の第2弾「80-84 ぼくらのベスト2 岩崎良美 CD-BOX 未CD化 オリジナルアルバム復刻」（2004年1月）と、85年の「half time」から87年の「床に、シンデレラのＴシャツ。」に「オリジナルカラオケ集」を加えた6枚組の第3弾「85-87 ぼくらのベスト3 岩崎良美 CD-BOX オリジナルアルバム復刻」（同年6月）がリリースされたのですが、あらためて組数を見るとバランスが気になる人もいるかも。 
　実はこれ、前者がアナログ盤でリリースされていたオリアルという区切りにしたためなんですよね。まだ復刻市場が成熟しておらず、一括復刻も見込めなかった頃のことをまざまざと思い出します。
 
　ちなみにこのオリアルBOX、前者には「CD-BOX1」に収録できなかったベスト盤のみ収録の音源「赤と黒［New Vocal/Mix］」「あなた色のマノン［New Vocal/Mix］ 」「Suger days」や、12インチシングル「TOUCH 12inch clubmix」も補完。後者にはファン投票で選ばれたシングルA面曲のオリジナルカラオケも収録というサービスぶり。
　今（2004年時）のヨシリンが当時のLPジャケットを持つというビジュアルも話題になりましたが、レーベルメイトだった堀ちえみ、石川ひとみも同様のスタイルでリリースされ、記念イベントやコンサートまで開催されたことを覚えておいでの人も多いでしょう。
　前回買い逃した方は、この機会にぜひ。先着でシングルのジャケ写満載のクリアファイルがもらえるそうです。
 
　さて、ヨシリンといえば、歌謡曲とニューミュージックが理想的に融合し、クオリティが一気に上がった80年代アイドルの先陣を切ってデビューしただけあって、ビックリするほど高品質な楽曲がズラリ。
　旬のSHŌGUNサウンドをベースに、なかにし礼さんがヨシリンの本質を見極めたヨーロピアン文芸路線から始まって、南佳孝さんを経て尾崎亜美ちゃんとなるウェスト・コーストに向かった後、ズズ＋トノバンで再びヨーロッパへと回帰する流れは文句のつけようがありません。
　アルバムのクオリティが高いというのも80年代アイドルの特徴ではありますが、ヨシリンは同期の松田聖子よりハイクオリティだったんですよね。先を行き過ぎて玄人向けと称されたことや、セールスが追いつかなかったのは事実ですし、どうしても岩崎宏美の妹”というイメージや「タッチ」の色が付きすぎて正当に評価されていませんが、この機会にCD-BOX1でヨシリンの軌跡を追っていただきたいと思います。
 
　せっかくですので、基本コピペにはなりますが、アルバムの流れを簡単にご紹介しておきましょうか。
　まず、ファーストの「Ring-a-Ding」は、デビュー曲「赤と黒」と、第２弾にして資生堂シャワーコロンのCMソング「涼風」（New Version）を収録。
　なかにし礼さんの詞には重めの雰囲気が漂ってはいるものの、作曲は芳野藤丸さんを中心にミッチー長岡さん、全曲アレンジを大谷和夫さん担当と、旬のSHŌGUNがバックアップ。あのラジも１曲提供しており、歌謡曲とシティポップス寄りのニューミュージックをうまく取り入れた佳曲が詰まっております。
 
　続くセカンド「SAISONS」は、篠山紀信撮影のジャケットが幻想的。藤丸さん作のポップで最もアイドル的な「You Love Me,I Love You」が入っているもののSHOGUN色は薄れてしまい、当時の岩崎宏美的とでもいったらいいのか、一歩後退の歌謡ポップス的なムードの1枚となっています。
 
　そういう意味では、岩崎良美の先進的な方向性が決定するのは80年末、アメリカンポップスにシフトした「I THINK SO」から。ディレクターがかの渡辺有三さんに交代し、発表されたサードアルバム「Weather Report」は、前2作がかすんでしまうほどの傑作です。
　亜美ちゃんをはじめ、佳孝さんやブレッド＆バター、アーティストデビューしたばかりのケン田村（今年1月に逝去されたそうです…）ら作家陣も新鮮ですが、ニューミュージックを通り越したウェストコースト、フュージョン系のサウンドが斬新。元々が歌唱力に定評のあったヨシリンですが、ボーカルテクニックにも脱帽です。
　これはキャニオン直系、有三さんディレクションの金井夕子の流れをくむものですが、一般の中高生にはわかりやすい聖子に比べ難解だったのも確かです。
 
　とはいえ、続く「心のアトリエ」も、先行シングル「ごめんねDarling／ふれて風のように」をはじめ尾崎亜美作品をフィーチャーした上質なポップアルバム。
　ディレクターも同じレーベルメイトということで亜美ちゃんがコーラスにも参加、チャー作の「あの時…」のグルーブ感が絶品。ヒロリンにもあった黒っぽい雰囲気の魅力も堪能できる仕上がりです。
 
　82年には、安井かずみ＋加藤和彦コンビでさらに高度になって、フレンチポップ「愛してモナムール」にイタリアンツイスト「どきどき旅行」をリリース。ヨーロッパ回帰してバージョンアップするんですよね。金井夕子作詞のシングル「Vacance」ではあのパンタが曲提供するなど、より独自の世界を構築していきましたが、その路線の到達点となったアルバムが「セシル」でしょう。大貫妙子作品なども収録、清水信之アレンジということでフレンチなシンセポップを先取りした印象です。
 
　結局はOL的というか、中高生というより大人向けを意識したシティポップスを展開していくヨシリン。83年初頭には日清サラダ油の豆乳ソングにしてハイレベルな名曲「恋ほど素敵なショーはない」が久々のスマッシュヒットを記録。個人的にはこのあたりから翌年の流れ、すなわち一連の林哲司作品が歌手・岩崎良美の真骨頂だと思っていますが、アルバムで反映させるのは「唇に夢の跡」「Save me」に続く、8曲入りアルバム「Wardrobe」。
　シングル「愛はどこに行ったの」「くちびるからサスペンス」をはじめ、康珍化＋林哲司コンビでまとめられたコンセプトアルバムで、シティポップブームの今こそ再評価したい1作です。
　地味ではありますが、こういう路線を続けほしかったというのが、「タッチ」以前を愛する古くからの良美ファンの願いではなかったかと思います。個人的にも「くちびるから～」のB面でもあった収録曲「10月のフォト・メール」と、売野雅勇作詞につきアルバムには入っていませんが「愛は～」のB面「ジャスミンの頃」という2曲のバラードは、ヨシリンのボーカリストとしての最高到達点だと思っています。
 
　という8枚が「CD-BOX2」にセット。「CD-BOX3」は「タッチ」以後となる「half time」「タッチ」「cruise」に、圧巻のメドレーや小室サウンドに本格挑戦した「blizzard」、ユーロビートやミュージカルナンバーを取り入れたコンセプチュアルな「床に、シンデレラのＴシャツ。」というオリアル5枚に、「オリジナルカラオケ集」を加えた6枚となっています。
　念のため申し添えておきますが、アニメソングNo.1として多くの人に愛されている「タッチ」はヨシリン最大のヒット曲であり、一時は遠ざかっていた歌の世界へ呼び戻したのも「タッチ」の再評価ですので、否定しているワケではありませんが、「タッチ」以前が幽閉されてしまうのはあまりに惜しいので、そちらを中心に言及した次第です。
 
　ちなみに、キャニオン・レコード時代のアルバムには83年のライブ盤「LIVE 女の子だけのコンサート」があり、このBOXシリーズの流れで復刻されていましたが、現在は廃盤ですのでコンプリートを考えている方は要注意。
　付け加えると、80年代にはもう1枚、CBS・ソニーに移籍して「月夜にGOOD LUCK」（オーダーメイドファクトリーで「 月夜にGOOD LUCK＋5 」として復刻済み）というアルバムもリリースしております。
 
　アルバムBOXとしては2010年の30周年記念時に、紙ジャケBOX「岩崎良美 Debut 30th Anniversary CD-BOX」（須賀さんが作成なさった特設サイトは消滅していますが、辛うじてアーカイブが残っています。私も寄稿しておりますので興味がおありの方はぜひ こちらを）もリリース済み。紙ジャケにつき、復刻のクオリティという面ではそちらに軍配が上がりますし、本人によるアルバム紹介コメンタリーやアルバム未収録曲のボートラ網羅、さらには「赤と黒」のプレデビューバージョンや新録を含めたボーナスディスク付きとなっていますので、もしもそちらを見かけた方は中古でも入手されることをオススメします。
 
　ともあれ、ヨシリンの魅力である鈴を鳴らすように軽やかで爽やかな美声とリズム感が堪能できるのは請け合い。ベストやBOXが出るたびに言っていますが、これを機に「タッチ」以前のヨシリンに興味を持つ人が少しでも増えればと願っています。 
　なお、昨年12月、コロナ禍で延期になったヒロリンの45周年記念コンサートにゲスト出演したヨシリンですが、このBOXと同日発売でそのブルーレイ「 HIROMI IWASAKI 45th ANNIVERSARY CONCERT 残したい花について（Blu-ray Disc）」＆DVD「 HIROMI IWASAKI 45th ANNIVERSARY CONCERT 残したい花について（DVD）」が出ますので、現在のヨシリンもぜひご視聴を！