あの秀逸BOXが10年ぶり3度目の発売！

　1985年2月、松本隆＋筒美京平コンビの「卒業」で歌手デビューを飾った斉藤さんちの由貴さん。
　今年は35周年のアニバーサリーイヤーということで、今月には東京・池袋の東京建物Briliia Hallで記念コンサート「35th anniversary concert『THANKS GIVING』」を開催。彼女が活動の礎と位置づけるラジオをベースにしたステージは、まさに集大成というにふさわしく、駆けつけたファンから大きな喝采を浴びました。
 
　今回のセットリストは、コロナ禍の影響を受けて8月に延期開催したアコースティックライブとは異なり、ほぼシングル曲で固めたとあって、長年のコアなファンのみならず、昭和歌謡ブームで新たにファンになった若者をも魅了しているそうですが、なんと来年２月のデビュー記念日には記念のセルフカバーアルバム（初回盤「 水響曲＜初回限定盤＞」／通常盤「 水響曲＜通常盤＞」）をリリースすることが決定！
　「卒業」から「『さよなら』」まで、12インチでリカットされた「AXIA～かなしいことり～」っを含むシングル曲10曲をセレクト。サウンドプロデュースは、デビュー曲から最新アルバムまで長年にわたってアレンジャーとして彼女の作品に携わり、今回の記念コンサートにもゲスト出演を果たした武部聡志さんが担当。ピアノを中心にしたアコースティック編成によるリアレンジするそうで、ファンの間では早くも話題を呼んでいます。
 
　前作はヤマハでの発売でしたが、今回はビクターから。といっても初回盤は、ポニーキャニオン音源のオリジナルバージョン収録盤との2枚組とのことで、18歳と54歳の歌声を聴き比べられるという勇気ある趣向となる模様です。しかも、指定ショップではスペシャル先行予約限定特典として、今回のコンサート音源全３曲を収録した「YUKI SAITO 2020 SPECIAL LIVE CD」がもらえるそうなので、確実に入手されたい方は早めのご予約をお忘れなく。
 
　どれをとっても名曲名唱ぞろいの斎藤さんですから、これを機会にシングル曲だけでなく、初期からのアルバムも聴きたいという人も多いのではないかと思いますが、さすがはポニキャン。このタイミングで、あの秀逸なコンプリートCD-BOX2種が復刻されることになりました！
　それがポニキャン時代に発表された全シングル、アルバム楽曲をコンプリート収録した「斉藤由貴 CD-BOX１」と「斉藤由貴 CD-BOX2」。今回は ポニーキャニオンショッピングクラブのみでの通販限定、先着で35周年記念クリアファイルの特典が付くとのことです。
 
　初リリースは2003年9月でしたが、当時はちょうどBOXブームでさまざまな高額BOXが濫発されていたこともあり、買いそびれた人も多かったのでしょう。2010年にはアンコールプレスされ、今回が10年ぶり3度目の発売となりますが、コレはよくあるBOXとは一線を画す充実の仕上がり。何てったって今はなきオニオンピーマンカンパニー発の名企画、手厳しいマニアすら手放しで歓喜と感謝の涙をこぼした「ぼくらのベスト」シリーズの第7弾だったのですからね。
 
　内容の方はといいますと、オリジナルアルバムをベースにした各6枚組で、それぞれ5枚のオリアルと1枚のボーナスディスクという構成。アルバム未収録のシングル曲はオリアルのボートラとして補完されています。
　オリアルの方は、１が85年のファーストアルバムにして無二の世界観が早くも顔をのぞかせる「AXIA」から、詩人としての才能が萌芽したオリコン1位獲得作「ガラスの鼓動」、冒頭の名作「予感」からして自信と野心がうかがえる「チャイム」、飯島真理とのコラボなど茫洋さを個性として確立させたも「風夢」、そして敬虔なクリスチャンとしての崇高なアカペラアルバム「ripple」とクリスマスアルバム「TO YOU」という企画盤を2in1にした5枚。
　2が、到達点といえる88年の「PANT」から、サウンドプロデュースが崎谷健次郎さんに変わってサウンドが大きく変化した「âge」、セルフプロデュースによる渾身のコンセプトアルバム「MOON」、空恐ろしいまでの純粋さが際立つ「LOVE」、そして筒美先生の書き下ろしやバカラックのカバーを含む94年のモニュメント「moi」までの5枚。
 
　それぞれの6枚目はボーナスディスクで、「BOKURA’S “AXIA”DISC」と題した１は「小説MAY」「I LOVE 斉藤由貴」といった企画カセットの復刻集。2は、主演映画「トットチャンネル」のサントラ曲、盟友・銀色夏生が書いた「AXIA」12インチバージョンやNHKみんなのうた「ポケットの中で」などお宝音源満載のアルバム未収録＆Re-mix集となっています。
 
　丁寧に作り込んでいて読み応えたっぷりのブックレットには、ご本人のコメントはもとより、ずっとサポートを続ける長岡和弘ディレクターや市村朝一マネージャーの解説や対談のほか、ディスコグラフィー、全曲リスト、ポスターギャラリーなども掲載。
　歌詞が縦書きというのも斉藤さんらしいですが、あらためて聴き返すと、詩人というか、演技者というか表現者というか、聴く者を物語に引き込んでゆく業に感服。夢想癖を持つ人特有の浮遊感に連れ去られるような感覚になるんですよね。
 
　得体の知れない才能を自ら持て余していた異質のアイドルが、様子を窺いながら少しずつ自己開放を続け、意図するしないにかかわらず火宅の表現者へと歩んでしまう様は、まさに斉藤由貴という異端の表現者の軌跡です。
　彼女がどんなスキャンダルが明るみになろうと、もうダメだろうと思われる出来事があっても赦され、復活し続けるのは、魔性の才能もさることながら、我々のような斉藤由貴という表現者に魅入られ、虜となったファンたちがいるからだと思っていますが、ファンでない方たちも、このBOXを堪能すれば、なぜ我々が斉藤由貴の性と業を受け入れ、一生をかけて崇拝し続けるしもべとなるのかをご理解いただけるような気がします。
 
　とにもかくにも資料的価値も高い、まさにお宝BOXの復刻。ぼくらのベストシリーズを手に取った皆さんはご存じだと思いますが、アーティストへのたっぷりの愛情はもとより、聞き手のニーズをくみ取ったかゆいところに手が届く緻密さなど、復刻商品の命といえるポイントをすべてクリア。その上で手間暇惜しまず、コストもギリギリまでという姿勢のもと制作されていますので、初出から17年たった今でも色褪せることがありません。
　ユッコのBOXが何度も再発された際にも実感しましたが、個人的にはオニピーの須賀さんのお人柄までが感じられ、つい涙してしまいます。今回の由貴ちゃんの復活劇についての感想もあれこれお話したかったとつくづく思いますが、BOXの復刻をきっと喜ばれているでしょうし、コンサートもどこかから見守ってらしたような気もしています。
 
　なお、その後のアルバムもコンプリートしたい方は、2008年にリアレンジ&セルフカバーで焼き直したベスト「 斉藤由貴 ヴィンテージ・ベスト 」、25周年を経た2011年に17年ぶりのオリアルとして出た「 何もかも変わるとしても 」、洋楽カバーも取り混ぜた2015年の30周年記念アルバム（初回限定盤「 ETERNITY [CD+イラスト入りフォトフレーム]<初回生産限定盤>」／通常盤「 ETERNITY＜通常盤＞ 」）も併せてどうぞ。その後のシングル曲を補完したい場合は、カラオケ盤も付いた2012年の「 プラチナムベスト 斉藤由貴(UHQCD) 」もお忘れなく。
 
　BOXには手が出ないという人は、25周年時の単品紙ジャケ復刻アルバム（ こちらで紹介）は入手困難になっていますが、2016年にUHQCDで復刻された初期の5タイトル「AXIA」「ガラスの鼓動」「チャイム」「風夢」「PANT」とオリジナルアルバム未収録集（ こちらで紹介）はまだ手に入るようですので、ぜひ順にお聴きいただければと思います。