ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#1070
若草恵 サウンドマジック~編曲美学~
(2021.11.24発売、UPCY-7754~7、¥11,000<税込>)

ヒットアレンジャーのドラマチックな編曲作品集! 

 昭和ポップスやシティポップの隆盛のおかげもあって、アレンジャーやミュージシャン、エンジニアら、かつては裏方だった存在がいろんなメディアで特集され、一般からも注目を集めるようになった昨今。
 それは昭和歌謡ブームを経て、1970~80年代の歌謡曲のサウンドが、現代のDTMとは比べ物にならないほどゴージャスかつ緻密でリアルなものであることが実感を伴って再評価されたからだと思いますが、そのきっかけの一つといえるのが、2016年に出版された「ニッポンの編曲家 歌謡曲/ニューミュージック時代を支えたアレンジャーたち」(現在は 電子書籍で入手可能)。
 これを皮切りに、2017年の「 作編曲家 大村雅朗の軌跡1951-1997 」、2018年の「 ヒット曲の料理人 編曲家・萩田光雄の時代」、2019年の「 ヒット曲の料理人 編曲家・船山基紀の時代 」、そして2020年の「 音楽と契約した男 瀬尾一三」などなど、個別の編曲家本が編まれるようになったのはご存じの通りです。 
 
 とはいえ音楽作品につき書籍のみでは飽き足らないのは当然で、次第に作品集のCD-BOXという形へとシフト。
 瀬尾さんの「時代を創った名曲たち ~瀬尾一三作品集 SUPER digest~」シリーズ( こちらで紹介)、大村さんの「編曲家 大村雅朗の軌跡 1976-1999」( こちらで紹介)、船山さんの「船山基紀サウンドストーリー~時代のイントロダクション~」 ( こちらで紹介)、萩田さんの「音の魔術師/作編曲家・萩田光雄の世界」( こちらで紹介)というように、書籍と対になるCD-BOXが企画されてきましたが、ここに来て、まだ本の出ていない若草恵さんの4枚組BOX「 若草恵 サウンドマジック~編曲美学~」がリリースされることになったそうです。
 
 若草さんといえば、クラシックやジャズの素地を持ちながら、演歌や歌謡曲で開花したアレンジャー。歌謡曲やポップスは中山大三郎さんのもとで学ばれたそうですから、なるほど納得ですが、品があってカッチリした雰囲気もお得意です。
 名前を恵(めぐみ)と読んでしまい女性だと思っている人は昔から多いようですが、正しくは恵(けい)さんとおっしゃる男性。これまでに日本レコード大賞の編曲賞を3度受賞された実績の持ち主です。
 
 アレンジを担当した曲としては、美空ひばり「愛燦燦」、石原裕次郎「わが人生に悔いなし」という昭和の大スター2人の晩年の代表作をはじめ、よく知られたヒット曲を多数お持ちですが、オリコンでトップ10入りしたナンバーだけでも、研ナオコ「かもめはかもめ」「夏をあきらめて」、ロス・インディオス&シルビア「別れても好きな人」、西城秀樹「セクシーガール」、郷ひろみ「哀愁のカサブランカ」、欧陽菲菲の「ラブ・イズ・オーバー」の最もヒットしたバージョン、河合奈保子「夏のヒロイン」、高田みづえ「そんなヒロシに騙されて」、小泉今日子「ヤマトナデシコ七変化」、柏原芳恵「待ちくたびれてヨコハマ」、杉浦幸「悲しいな」、中森明菜「難破船」、南野陽子「ダブル・ゲーム」、辛島美登里「サイレント・イヴ」、坂本冬美「また君に恋してる」と枚挙にいとまがないほど。
 美しいストリングスの効いたドラマチックなサウンドを中心に、ポピュラー性が高いものばかりですよね。
 
 今回のBOXの収録曲はまだ発表されていませんが、厳選された72曲になるとのこと。監修は「ニッポンの編曲家」なども手がけた梶田昌史さんで、楽曲解説は松山晋也さんが担当。100ページのブックレットにはアーティストインタビューや、レコーディング参加ミュージシャンとの対談をはじめ、マニア向けに一部の楽曲のトラックシートも掲載されるそうです。
 
 個人的には、若草さん編曲で初めて買ったレコードは榊原郁恵の「めざめのカーニバル」ですが、あのめざめ星がきらめくようなリズムはイントロから本当に心が躍ったものですし、その後も原田潤「ぼくの先生はフィーバー」で踊り狂ったことや、新沼謙治の「津軽恋女」の津軽三味線に打ち震えたりしたことがあって、ダンサブルというか躍動的なイメージが強かったりしますが、今思えば、最も好きだったのが柏原よしえ「ガラスの夏」。
 陰陽兼ね備えたよしえフィーリングにぴったりの楽曲でしたが、サウンドでその魅力を倍増させ、バランスをとったのが若草さんの手腕であり、それがブレイクにつながったような気がします。
 
 そういう意味では、石川ひとみ「君は輝いて天使にみえた」、河合奈保子「ストロー・タッチの恋」など、一見地味で見過ごされがちですが、アイドル自身の本質そのものにサウンドでぴったり寄り添った腕前は、もっと評価されてしかるべきでしょう。
 
 あとは「哀愁のカサブランカ」や「ラブ・イズ・オーバー」、「そんなヒロシに騙されて」などもそうですが、リメイクもお得意。三田寛子「初恋」もオリジナルとは違う個性が出ていますし、特に浜田朱里の「想い出のセレナーデ」なんてイントロから核心を突いていて、真理ちゃんのオリジナルを軽く凌駕してしまったアレンジだったと思います。
 
 また演歌・歌謡曲系では、前川清の中島みゆき作品「涙」も素晴らしかったですが、何といってもヤン・スギョンが歌ったドラマ「過ぎし日のセレナーデ」の主題歌「愛されてセレナーデ」。アグネス・チャンの一連のテレサ・テン化歌謡もハイクオリティでしたし、通して聴くと、叙情的で隙のない完成された音作りこそが、若草サウンドの魅力だったことを確信できるのではないでしょうか。
 
 アルバムのサウンドプロデュースということでいえば、ちょっと変化球ではありますが、久保田早紀の隠れた傑作「ネフェルティティ」がオススメ。ロックサウンドをベースにしたエキゾチック歌謡の中に、聖歌やクラシック、レゲエなどのアプローチも取り入れつつ、安定した世界観で、若草サウンドを凝縮した1枚ではないかと思っています。
 また、萩田さん、船山さんと三つ巴でアレンジの競演を繰り広げる坂本冬美のカバーアルバム・Love Songsシリーズは、他のお二人とは異なる若草さんの個性が再確認できるのではないでしょうか。
 
 ともあれ、あの時代を代表するアレンジャーのお1人である若草さん。ワタシもファンの一人として、このBOXであらためてその軌跡をたどってみることにします。
 
 

(2021.9.14)

 
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