ポップス時代のシングルA面コンプリートBOX！

　今やジャズピアニストとしてNYを拠点に活躍している大江千里さんですが、一世を風靡したのはご存じポップスのジャンル。
　デビューは1983年5月21日、アルバム「WAKU WAKU」＆シングル「ワラビーぬぎすてて」の同時発売でしたから、今年は40周年というメモリアル・イヤーに突入するんですよね。
 
　のっけから個人的な思い出で恐縮ですが、千里さんの音楽に初めて触れたのは、デビュー当時の記事に「好きな歌手・南沙織」と書いてあったのがきっかけ。ルックスはもとより、あの声にも曲にも、そして歌詞にもビックリしたことでしたが、84年の学園祭ライブを体験してからは千里ポップスの虜となり、新譜を買うのはもちろん、EPIC・BEEの会員となってビデコンに通い詰めたり、コンサートにも参加し続けたのでした。
　勝手にシンシアファン同士という絆を感じていたのは確かで、雑誌の特集に中学生の千里少年が買ったというLP「南沙織ギフト・パック」の写真が出ていたことに喜んだり、月刊カドカワの表紙撮り（篠山紀信さん撮影）でシンシアにお茶を入れてもらったというエピソードに驚いたり。そして、ついには「Cynthia Premium」のライナーが「Senri Premium」シリーズのライナーへとつながっていったワケですから、巡り巡って不思議なご縁をいただいたことに感謝しております。また、千里キッズの皆さんにはいつも温かいメッセージをいただき、この場を借りてあらためて感謝申し上げます。
 
　さて、その40年目突入を記念して立ち上がったのがアニバーサリー・プロジェクト。先ごろ発表された第1弾は、ジャズ＆ポップスの新旧織り交ぜたアナログ企画。ジャズの最新アルバムのアナログ盤リリース（「 Letter to N.Y.＜完全生産限定盤＞」）と、ポップス時代の名曲のアナログシングル化（「 Rain＜完全生産限定盤/クリア・ブルー・ヴァイナル＞」）でした。
 
　ジャズは当然としても、ビックリしたのが実に34年の歳月を超えた「Rain」のシングルカット。88年発表のアルバム曲ですが、当時から高い人気でしたし、千里フォロワーのマッキーが2度もカバーするなどして広く知られるようになりましたが、2013年に「新海誠監督の「言の葉の庭」で秦基博がカバーして以来は若い世代からも注目を集めており、再評価はうなぎ上りのナンバー。そういう背景があってのリリースなので至極当然と言えば当然なのですが、当時見送られてしまったことを知っている往年のファンには悲願のシングルカットなんですよね。
　また、初期の秘蔵写真（大川直人さん撮影）のジャケットや雨色のカラーレコードという仕様にもグッと来ますが、今回はJAZZバーションがカップリングというのがウレシイ。ポップスもジャズも分け隔てなく、大江千里の音楽として楽しめるのが何よりではないかと思います。
 
　と、またまた前置きが長くなってしまいましたが、アニバーサリー・プロジェクト第1弾のホットなニュースが覚めやらぬまま、早くも第2弾がアナウンスされました。
　今度はCD盤で、ポップス時代のシングルA面コレクション、その名もズバリ「Senri Oe Singles」です！ 
 
　千里さんの場合、シングルA面に特化したベストとしてはダイジェスト的な「GOLDEN☆BEST」（ こちらで紹介）が出ていますが、今回は初となるコンプリートコレクション。フルコンプした初回生産限定盤の5枚組BOX「 Senri Oe Singles ～Special Limited Edition～＜初回生産限定盤＞」と、10年分をコレクトした通常盤の2枚組「 Senri Oe Singles ～First Decade～＜通常盤＞ 」という2形態で、いずれもBlu-spec CD2仕様。これまでBOXはOMFの通販限定が続いていた千里さんですが、今回は市販流通でのリリースとなるそうです。
 
　千里さんがポップス時代に発表したシングルは、83年の「ワラビーぬぎすてて」から07年の「静寂の場所」まで実に45枚に昇りますが、BOXの「 Senri Oe Singles ～Special Limited Edition～＜初回生産限定盤＞」にはその表題曲45曲に加え、両A面扱いとなったカップリング8曲と、アナログシングル化された「Rain」を追加した全54曲を4枚のディスクに完全収録。
　これに他のアーティストに提供したシングル曲を16曲厳選したスペシャルディスクをプラスし、さらには千里さん自筆の楽譜集（10曲）や１万字に及ぶセルフライナー、楽曲解説（僭越ながら担当させていただいております）、未公開写真を多数収録したブックレットが付くという豪華版となっています。
 
　一方、通常盤の「 Senri Oe Singles ～First Decade～＜通常盤＞ 」は、最初のディケード（10年間）のシングルA面曲すべてを２枚組に収録。すなわち初回限定BOXのディスク1＆2と同内容で、「ありがとう」までの28曲。
　お買い得プライスで全盛期のシングルをコレクションできますので、近年の80～90年代ポップスブームや、それを牽引したEPIC・ソニーというレコード会社への再評価を背景に、リアル世代のみならず若者たちにもニーズがありそうな気がします。
 
　ちなみに、千里さんのEPIC時代のシングルは、オリジナルアルバム紙ジャケBOX「Senri Premium」シリーズ（ こちらなどで紹介）ですべて復刻されていますが、今回のBOXでは2000年以降にプライベートレーベル・Station Kids Recordsで発表したシングル（「ビルボード」「奇跡／ドーナツ」「This Christmas」「おやすみ」「Let it be, SWEET」「イコール」「静寂の場所」）が初めて網羅されているというのがミソ。アルバムとはバージョン違いも多く、入手困難だったシングルバージョンがようやく入手できるというファンの方も多いのではないでしょうか。
 
　また、BOXに提供曲集のスペシャルディスクを追加されるのも魅力。85年の処女作といえる郷ひろみ「Cool」の12インチ日本語バージョンから、ジャズ転向後の中島愛「神様のいたずら」まで、松田聖子のディナーショー定番曲となった「Pearl - White Eve」、歌謡大賞などのグランプリを受賞した光GENJI「太陽がいっぱい」という2大オリコン1位獲得曲、渡辺満里奈「ちいさな Breakin' my heart」や松本伊代「ソナチネ」といったアイドル・ウインターソング、妹分・渡辺美里とのプラチナコンビによる「10years」「すき」「夏が来た!」の名曲群など、ソングライター・大江千里としての活躍もしっかり確認できる趣向となっています。
 
　なお、ショップによっては特典も用意されていて、 Sony Music Shop ではオリジナルICカードケース、 楽天ブックスではオリジナルアクリルコースター、 Amazonではメガジャケ、 セブンネットショッピング　ではオリジナルミニスマホスタンドキーホルダーがもらえるとのこと。どこで予約するか悩んでしまいますが、数量限定とのことなのでお早めにご予約ください。
 
　いずれしても、今回のBOXは、大江千里というアーティストが日本のポップスシーンにとっていかに希有な存在だったかを実感できる内容になること請け合い。80年代という時代に、メジャーのど真ん中でそれまでにないポップスのパイオニアとして道を切り開いてきた偉業は、アルバムを1枚1枚聴くより、こうして羅列されたシングルをなぞることでとりハッキリ分かるのではないかと思います。
　そういう意味では、千里さんが開墾した轍をたどって難なくスターになった槇原敬之や平井堅ら大ファンを公言する直系の千里フォロワーはもちろん、秦基博や星野源、さかいゆうといった近年のポップス系男性シンガー・ソングライターにとっても元祖といえるアーティストだと思いますので、彼らのファンの方にもぜひ手に取っていただきたいですよね。
 
　ジャズに転向したといっても、ソングライターとしてポップスは継続されていますし、近著でも分かるように、ポップスのキャリアを常に大切にしている千里さん。このBOXを機に、ポップスとジャズをつなぐ偉大な音楽家・大江千里の正当な評価がますます進むことを願っております！