ついに発売！書籍と連動した作品集BOX

　1997年に46歳で夭折した作・編曲家、大村雅朗さん。フォーク、ニューミュージックから、ロック、歌謡曲、アイドルポップスまで、ジャンルを超えて楽曲に普遍的な輝きを与えてきた手腕と功績は今さら言うまでもないでしょう。
 
　一昨年、没後20年のタイミングで発刊された「 作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997 」が大きな話題を呼んだのも記憶に新しいですが、昨年には大村さんの聖子ソングを集めた作品集「SEIKO MEMORIES～Masaaki Omura Works～」（ こちらで紹介）もリリース。この類いではかなりの好成績といえるオリコン31位をマークしました。
 
　このように大村さんの再評価は、近年高まるばかりという印象ですが、出身地でありお墓のある地元・福岡の放送局・FBSでは、開局50周年記念特別番組として「風の譜(うた) ～博多が生んだ伝説の編曲家 大村雅朗～」の制作に着手。
　機会あるごとに、黄金期の聖子ソングを共に制作し大村さんを弟のように思っていたという松本隆さんや、大村さん最初のヒット曲となった「みずいろの雨」の八神純子さんや、ある意味J-POPの金字塔といえる「My Revolution」の渡辺美里さんらゆかりのアーティストたちがゲストとして収録に参加していることが伝えられ、多くのファンの期待が高まっております。
 
　番組のオンエアは9月に予定されているということですが、このタイミングに合わせ、完全生産限定盤4枚組BOX「 作編曲家 大村雅朗の軌跡 1976-1999(完全生産限定盤) 」のリリースが正式に発表されました！
　太田裕美さんのツイッターではBOXのインタビューを受けたということが伝えられていましたので、この発表を待っていた人は多いのではないでしょうか。
  
　書籍著者の梶田昌史さんが監修されているというこのBOXは、三方背BOX仕様で、Blu-spec CD2の4枚組。
　収録曲は全70曲で、1976年、まだ九州のヤマハ時代の大村さんが最初に編曲したとされる西田恭平とホワイトハウスⅡの「鐘」（ポプコングランプリ、世界歌謡祭入賞曲）から、没後の99年、松本隆さんの手によって松田聖子への遺作として発表された「櫻の園」までを発表順に厳選。まさに大村サウンドの軌跡が追える構成になっています。
 
　リストを拝見しただけでも唸ってしまうほど絶妙な選曲となっていますが、特筆すべきは収録基準が曲のヒットだけではないということ。
　もちろん初のトップ10ヒットを記録し出世作となった八神純子｢みずいろの雨」をはじめ、初のオリコン1位獲得曲となった岸田智史「きみの朝」、新進レコード会社のEPIC･ソニーに初ヒットをもたらしたばんばひろふみ「SACHIKO」といった70年代の大ヒットから、和製MJを目指した田原俊彦「シャワーな気分」、作曲も手がけた代表曲の松田聖子「SWEET MEMORIES」や本家の南佳孝版も大村さんがアレンジした薬師丸ひろ子「メイン・テーマ」、ティーンエイジャーを奮い立たせた渡辺美里「My Revolution」、CMソングとなった小泉今日子「 水のルージュ 」といった80年代のNo.1ヒットなど、一般的にも知名度の高いシングルヒット曲はたくさん入っていますが、B面やアルバム曲なども含め、作品の完成度や位置づけ、バランスなども加味されて選曲されているんですよね。
 
　ちょっと例を挙げるだけでも、太田裕美が松本隆＋筒美京平コンビから離れての第1弾「青空の翳り」やテクノ期の才能を開花させた「満月の夜 君んちへ行ったよ」、香坂みゆきが山崎ハコで自己解放した「気分をかえて」、桜田淳子がウイスパーボイスでテクノに挑んだ「ミスティー」、三田寛子にイメージとは異なるグルーヴを発揮させた「ジャパニーズ・ガール」、松本典子のデビュー曲候補だった「なるほどネ！！ 」などなど、コアなマニアも納得すること請け合い。さすが書籍との連動企画です。
 
　ヤマハ出身だけにシンガー・ソングライター勢も多いのですが、南沙織「さよならにかえて」を筆頭に、TAN TAN「Weekend Love」、野口五郎「スマイル」、早見優「誘惑光線・クラッ！」といった筒美京平作品に代表される職業作家のナンバーであろうと、中島みゆき（根津甚八「ピエロ」）やユーミン（観月ありさ「今年いちばん風の強い午後」）といった個性的なアーティストの提供作であろうと、曲やアーティストそれぞれの個性に応じてオールマイティーにアレンジする大村さん。
 
　また、作曲の手腕は「SWEET MEMORIES」で実証済みですが、ここでは石川ひとみ「らぶ・とりーとめんと」、能勢慶子「He is コットン100％」、石川優子「Kiss Me すうぃ～と」、松原みき「ハロー・トゥデイ (Hello Today) 」、岡田有希子「そよ風はペパーミント」、高橋美枝「ダブルデート」、郷ひろみ「I Love You の香り」、芳本美代子「Kiss The Sky」など、アイドルを中心に作曲も手がけたナンバーも網羅されています。
 
　というように、大村さんのレンジの広さや、トレンドを取り入れながら普遍性を持たせる手腕などもしっかり理解できるBOX。
　コレだけでも凄いのですが、大いに期待したいのが 96Pのボリュームになるというブックレット。書籍の続編的な内容だそうで、鈴木啓之さんによる収録曲の全曲解説に加え、太田さんをはじめ、鈴木雅之さん、岸田智史さんらゆかりのアーティストやミュージシャンのインタビューも収録されるとのこと。音源は持っているという人でも、ブックレットは必読でしょう。
 
　個人的な思い出を振り返れば、１度聴いて即買いした八神純子さんのシングル「みずいろの雨」で初めて大村さんに触れ（たと思い込んでいましたが、書籍のリストで確認したところ実際は南沙織さんの現役ラストのシングルB面「さよならにかえて」でした…。ちなみに３枚目は榊原郁恵「Do it BANG BANG」、４枚目は中村雅俊「時代遅れの恋人たち」）、太田裕美さんの「青空の翳り」でその名前をハッキリと意識してから40年余り。
　聖子はもちろん、太田さんにしても千里さんにしても、みさっちゃんにしても、大村さんが手がけた作品（最も好きな1曲を選ぶなら、編曲では柏原よしえ「あした…恋」、作編曲では能瀬慶子「美少女時代」とどちらもコンサバ王道だったりしますが、あのまっとうさが大村さんらしさではないでしょうか）を聴いて大人になったのだと感慨深いものがあります。
 
　日本の音楽シーンに遺した偉大な功績もさることながら、錚々たるアーティストから絶大な信頼を置かれていたことも含め、大村雅朗という稀代の作編曲家のアンソロジーがこうしてきっちり形として遺されたことに、ファンの1人として大いに感謝したいと思います。
　そして、作詞家や作曲家に比べてクローズアップされることが少なかった編曲家も、近年は再評価が大きく進んでいる今、このBOXを機に萩田光雄さんや船山基紀さんら大村さんの先輩にあたる偉大なアレンジャーたちの全集もどんどん編まれることを願ってやみません。