ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#1084
伊藤アキラ ソングブック
(2021.12.22発売、COCP-41660、¥5,500<税込>)

コトバの達人、ジャンルを超えた追悼作品集!

 専属作家制度が当たり前だった昭和の歌謡界に、若いパワーで颯爽と新風を送り込み、目覚ましい活躍を遂げていらしていた先生方が、いつのまにか重鎮になられ、気がつけば相次いでお亡くなりになっている昨今。
 そういう年回りでいらっしゃることは重々承知しておりますが、それでも大きなショックを受けてしまうのは、先生方の作品を聴いて育ち、多大な影響を受けているからでしょう。
 
 今年5月に80歳で亡くなられた伊藤アキラさんからは歌詞のみならず、広告コピーという視点でもいろんなことを教わった気がしますが、このたびジャンル別作品集「 伊藤アキラ ソングブック」がリリースされることになりました。
 
 伊藤さんは学生時代から、かの三木鶏郎さんに師事し「冗談工房」に加入。独立後はCMソングの作詞を中心に作詞家として活躍。手がけたCM作品は4,000曲にも及ぶそうで、「この木なんの木(日立の樹)」をはじめ「答え一発カシオミニ」「パッ!とさいでりあ」「幸せの青い雲(青雲のうた)」など、誰もがソラで歌えるヒット作を多数世に出されたのはご存じの通りです。
 そんなCMソングの数々はこれまでにもまとめられ、「 伊藤アキラ CM WORKS ON・アソシエイツ・イヤーズ」「 伊藤アキラ CMソング 傑作選」として発売されていましたが、歌謡曲やこどものうたまでもを網羅したアンソロジーは初めて。3枚組なので実績に比べスケールが小さい気もしますが、TV AGEシリーズとしての発売で、監修・選曲は濱田高志さん。よって、充実した内容になること請け合いといえるでしょう。
 
 構成は、Disc1が童謡やノベルティソング、CMを集めた「CM/キッズソングス」。Disc2がアニメ主題歌を中心とした「テーマソング」、そしてDisc3が歌謡曲を集めた「ポップス」とのことで、Disc1のみんなのうたの水森亜土「ハメハメハ大王(南の島のハメハメハ大王)」やポンキッキの「はたらくくるま」、Disc2の、サザエさんの攻めたナンバー「ウンミィの歌 」や、キャンディーズのスーちゃんをモデルにした「夢見るスーキャット」などもいいですが、こちらでの注目はやっぱりDisc3。
 ソフトロックブームで再評価された72年のピコ「アダムとイブも」から、NHKのEテレで話題を呼んだ2012年のワサブロー「俳句。」まで、流行歌のフィールドで話題を呼んだ伊藤作品がズラリ。
 
 チーコの等身大の魅力を過不足なく表現した松本ちえこ「恋人試験」を筆頭に、かぜ薬のCMソングとして作られたような気がするザ・リリーズ「恋に木枯し」、筒美ディスコ路線に連なる浅野ゆう子の「オー!ミステリー」、PLブームに対抗したかのような山本リンダの「失恋蝙蝠男」79年の国際児童年のテーマソングとなったゴダイゴ「ビューティフル・ネーム」  (奈良橋陽子さんと共作)、歌詞が物議を醸した石野真子最大のヒット曲「春ラ!ラ!ラ!」、渡米していたピンク・レディーの日本帰国作「世界英雄史」と、やっぱりノベルティソング的なカラーを感じてしまいますが、中村雅俊「白い寫眞館」、野口五郎「青春の一冊」、高橋真梨子「裏窓」、河合奈保子「愛してます」などのシリアスな曲もお得意。
 
 個人的なオススメは、スタ誕出身の花の82年組、水谷絵津子のデビュー曲「キラリ・涙」。彼女をデビューさせるに当たって打ち出された、世間ズレしていない素朴でりんごほっぺの女の子イメージにぴったりの名曲です。
 しかしながら、何の色気もないショートカットやボーイッシュな格好は、意外にも我の強い本人にとっていたく不満だったようで、社長に泣きながら抵抗したのだとか。結局は聖子ちゃんカットにフリフリのぶりっ子ドレスへとチェンジし完敗してしまうワケですが、伊藤さんの作った人々のノスタルジーをかき立てる世界観を忠実に体現していれば、彼女はビックリするほど売れたはずだと今も思っています。
 
 それと忘れてはならないのが、累計では伊藤さん最大のヒット曲となった「かもめが翔んだ日」でタッグを組み、たくさんの名曲を残したまっちゃんこと渡辺真知子の存在です。
 今回収録されるのは「かもめ~」だけですが、そのカップリング「なのにあいつ」は、大阪の有線放送でベストテン入りを果たし、後に可愛かずみがカバー。
 ほかにも2度目の紅白歌合戦出場曲となった「たとえば…たとえば」や「季節の翳りに」「好きと言って」など、伊藤さんと共作したスマッシュヒットがありますが、一番の名曲は「たかが恋」。ユーミンも矢野アッコちゃんもベタ褒めしたのに大ヒットしなかったのが不思議でしたが、歌詞制作が苦手だったまっちゃんの世界を広げたのも伊藤さんの力でした。
 まっちゃんは昨年のコンサートで伊藤さんコーナーを設けていたのですが、そのライブ盤「唇よ、熱く君を語れ2020 渡辺真知子コンサート~明日へ~ 」( こちらで紹介)が出る前にお亡くなりになり、結果的に追悼盤になってしまったことは本当に残念でした。
 
 ほかにも、百恵ちゃんのイギリス録音「愛のTWILIGHT TIME」、キャッツ・アイの「めっきり冷たくなりました」、クリッパーの「あいつのストリート」、原田潤くんの「ヒロミ」、真子ちゃんの引退後に出た未発表シングル「明日になれば」、石川秀美の淳子的な「恋はサマー・フィーリング」などなど、自然と口ずさむ伊藤さんの作品は多いですし、ザ・マイクハナサーズの「わたしたちどうするの?」のオリジナルパート「そしてどうするの?」なんて、何度カラオケで歌ったことでしょう。
 あと、ずっと阿久さんだと思ってた森田公一とトップギャラン「秋だなァ」や、ふっと思い出す甲斐智枝美「さよならサンセット」などにしみじみしたし、小柳ルミ子の梓みちよソング「林さんのお姉さん」でいつも笑ったり…。
 
 そう思うと、伊藤さんの作品集はもっとボリュームがあって然りだという気がしますが、今後にも期待しながら、コトバの達人が遺してくれた歌詞をしっかりかみしめたいと思います。
 

(2021.12.10)

 
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