クロスオーバー歌謡、谷ちえ子のオンデマンド復刻!
常々申しておりますが、個人的に引っかかるモノを勝手にチョイスして書き飛ばしながらお知らせしているこのコーナー。もちろん復刻盤をすべてご紹介している訳ではありませんし、思い入れのあるなしやタイミング的なことで飛ばしてしまうことが多いのも事実ですが、皆さんからスルーしたものに対してリクエストを頂戴することもあります。
最近で言いますと、数的に最も多いのが杏里の紙ジャケ(こちらをご覧の皆さんに杏里ファンが多いのは意外でした。今回のボートラ充実には目を見張るものがありますが、パスでスミマセン)や歌謡番外地シリーズなんですが、質的に多いのがオンデマンドCDで発売中、この谷ちえ子ファーストアルバム「 ほゝえみ 」なのです。
何度も何度も熱心なリクエストをいただきましたので、簡単ではありますがご紹介しようと思います。
なお、オンデマンドCDをスルーしているのではというご意見も頂戴しましたが、初回の榊原郁恵ちゃん(こちらで紹介)から、高見知佳ちゃん(こちらで紹介)、渋谷哲平クン(こちらで紹介)など全部ではありませんが、折に触れ書いておりますのでご理解いただければ幸いです。
さて、北海道は函館の出身、かつて花の女子高生だった谷さんですが、その名前が久々にクローズアップされたのは5年ほど前。といっても旧譜の復刻ではなく、かの万年青年・小倉一郎さんとの結婚が大々的に報道されたのがきっかけでした。
その時、スポーツ紙やワイドショーには「元アイドルと再婚!」という見出しやテロップが踊ったのですが、谷ちえ子という名前に世間の反応は薄かったんですよね。「ほら『花の女子高数え歌』の…」とフォローしても、周りの人たちは同世代ですらポカーン状態。アイドルマニア以外では、事務所が同じで妹分の告知も多かったピンク・レディーのFCに入ってた人ぐらいではないかと思うほどでした。
というわけでけっこう注目を浴びたものの、音源的にはオムニバス盤だけの収録というままで、歌手としての再評価にまでは至らなかったのでした。
そんな谷さんですが、彼女はれっきとした「スター誕生!」出身者。今春リリースされたスタ誕BOX(こちらで紹介)では、デビュー曲や決戦大会当時の映像も視聴できますので、あらためて認識したという人も多いことでしょう。
ナウなギャルではなくロングヘアでちょっと地味だけれども、歌が上手くて笑顔のかわいい女の子。そういうキャラクターや「青い月夜の散歩道」というオーディションの選曲や歌唱力からすれば、ズバリ石川さゆり路線で行くのが自然だったはずですよね。
決戦大会でT&Cとともにスカウト札を挙げたのは、さゆり所属の日本コロムビアでしたし、無難な方向性の1つとしてさゆり路線が検討されていたことは、デビュー曲のB面がさゆりチックな「心はあじさい」ということからも分かります。
しかし、谷さんのデビューが決まった当時は「津軽海峡・冬景色」がブレイクする直前で、知名度のワリには大ヒットがなかった状態。コロムビアにしても、デビューから4年経とうとしてるのに売れないさゆり路線へ進ませるのは、ちょっと躊躇したことでしょう。もしかしたら、テイチク&バーニングが送り出す、ポップス演歌の超大型新人・高田みづえのウワサが轟いていたのかもしれません。
タレント性の部分では地味だけど、17才の若さでちゃんと歌える新人。しかも流行りのちょっぴりハスキーボイス。そうなりゃ、前年の桜たまこ路線のような、一風変わったお色気ポップス歌謡しかない! とかいう会議があったかどうかは定かじゃありませんが、そんな憶測もあながち外れているとは言えない感じで、1977年6月にクロスオーバー歌謡と呼ばれる「花の女子高数え歌」でデビューしたのです。
もしかしたら迷った挙げ句と言うよりは、事務所のT&Cが大成功させたピンク・レディーに続く存在として、実は最も手堅い路線という判断だったのかも…。衣装はお色気度の高いホットパンツのジャンプスーツ、振り付けはもちろん土居甫先生、ということを鑑みてもあながち的はずれじゃないような気もします。漫画とのコラボなんか、キョンキョンより早い。
というわけで嗚呼!!花の応援団ブームの時代、「花の女子高数え歌」はインパクト狙いのコミカルな印象でしたし、あの恥じらいというか、いたいけな感じのターゲットはヤング層ではなくオジさん狙いという印象でありましたが、楽曲は実に完成度の高いナンバーでした。
それもそのはず、ビューティ・ペアでヒットを飛ばし百恵ちゃんの名曲「いま目覚めた子供のように」も書いた石原信一さん、スタ誕審査員の中村泰士さん、真理ちゃんやアグネスのアレンジでもおなじみの馬飼野俊一さんという強力な布陣が勢ぞろい。
キャンペーンも頑張っていましたし、スタ誕デビューコーナーはもちろん、各種テレビ番組の歌コーナーでもけっこうプッシュされ、スマッシュヒットしたのでした。
そして10月にリリースされのが、第2弾シングル「私はシンデレラ/就職戦線異状なし」を含む、このファーストアルバムにして最後のアルバムなのです。
アルバムの内容は、A面が「花の女子高数え歌/心はあじさい」「私はシンデレラ/就職戦線異状なし」という2枚のシングルに、LP用のオリジナル「公園通りでお茶を」「学園祭で何かが起こる」をプラス。やはりちょっと色物の雰囲気もありますが、77年の高校生の女の子という感じもします。
聴きどころは、歌の上手い歌手ならでは、のど自慢さながらのB面でしょう。事務所の先輩、ピンク・レディー「ペッパー警部」をはじめ、桜田淳子の「気まぐれヴィーナス」、山口百恵の「横須賀ストーリー」、岩崎宏美の「悲恋白書」と、スタ誕ファミリーの当時のヒット曲を熱唱。スタ誕フリークの皆さんもきっと押さえておきたい選曲ではないでしょうか。
また清水健太郎の「失恋レストラン」、あおい輝彦の「Hi-Hi-Hi」という男性陣の最新ヒットにも挑戦していますので、谷さんの力量が感じられるアルバムといえそうです。
結局、翌78年には「あなたを愛したい/愛情教育」「逃げて大阪/恋人失格」というように、そもそもの志向であった演歌・歌謡曲の方へとシフトしていきましたので、このアルバムは貴重なアイドル時代の谷ちえ子が堪能できるものとなっています。
余談ですが、この後同じコロムビアから「恋愛未遂常習犯」でデビューしたたかだみゆきを見た時「第二の谷ちえ子!」と思ったものでしたが、彼女は順調に本格演歌へとシフトしていきましたね。
そういう意味からは、第2弾シングルが、当初予定されていたデビュー曲路線の「就職戦線異状なし」ではなく「私はシンデレラ」になったのが本当に残念だったと思います。
といってもこの曲は、むしろ本人のキャラにあっていて、ほのぼのフォーク系のカントリーポップでなかなかの佳曲で、個人的には大好きなのですが。
それがなんで惜しいのかというと、詩の構成が、この年の大ヒット「雨やどり」の雰囲気を持つ独白ストーリー系だったのです。
そう、フルコーラスを聴いて初めて伝わる内容で、テレビサイズで聴いてしまうとまったくもって意味不明。しかも新人の1コーラスサイズならば、この曲の素晴らしさが伝わらないどころか、かわいいドレスと、ラストの♪シャラララララというスキャットと相まって、むしろマイナスイメージとなってしまうようなナンバーだったのです。
コロムビアイチオシ、同期の郁恵ちゃんが同時期に出したシングル「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」も2番がキモだったので、似たような感じもしますね。
せっかくなので内容を簡単に紹介しますと、歌のヒロインはバイトでデパートに勤め、一流商社マンの彼と知り合った女の子。シンデレラ気分でたちまち恋に落ちたんだけど、同棲暮らしは不安だし、安くていいから婚約指輪が欲しいと夢を見ます。ところが、彼は学歴や会社も偽った、ただの気ままな風来坊だったから、さあ大変。
でも、このシンデレラは屈託なく、六畳一間のお城でも私はいいのと笑うのです。そして、三流会社でも就職が決まって張り切る彼が太陽であり、王子様に見える。そしてやっぱり私はシンデレラで幸せだと歌うのです。
どうでしょう、まだあの頃の日本には数多く存在した、健気でとても素敵な女の子のイメージがしませんか? 詩の内容も、日本人らしい幸せの見つけ方が歌われていて、迷える現代に聴いたらとても心にひびく、目からウロコが落ちるメッセージソングになるのではないかと思います。
この詩世界とともに谷さんだからこその人柄をきちんと伝えることができたら、もっと違う結果になったんじゃないかな、なんて時々思ったりします。
引退してからは、離婚や病気などいろんな困難を乗り越えてきたという谷さん。でも、今の小倉さんとの結婚生活も順調なご様子ですし、クロベエやサッコのブログなどでスタ誕のお父さん・池田プロデューサーを偲ぶ会に出席している様子をうかがってもお元気そう。
また、現在もなんとライブ活動をなさっている模様ですし、やっぱり谷さんはこのうたのようにホントに明るく健気で、前向きな女の子だったのでしょうね。
ということで、そんな素顔も感じられるようなこのアルバム。遅ればせながらオススメしますぞ。
(2011.7.14)