ナツメロ喫茶店／オススメ復刻盤525

　松崎御大というと、我々世代的には「サウンド・イン“Ｓ”」というより、かのボンド企画に所属していたことや、TVジョッキーの司会での頼れるアニキ的イメージだったり、バラエティー番組などで見せる色黒で好色なラテン系のイメージだったりが強いのかもしれませんが、時にはソウルフルに、時にはショウビズチックに、圧倒的な歌唱で聴く者を唸らせるシンガーとしての姿も忘れてはなりません。

　まずは往年のヒット曲が入ったベスト盤を入手したいものですが、御大がヒットを連発したビクター時代といえば、市販品では１枚物、２枚組のCDが数種類出てはいるものの有名なシングル曲が欠落していたりして、薄いファンでさえちょっと欲求不満という内容だったのでした。

　むろんデビュー当初のMCAレーベルをはじめ、麻丘めぐみでおなじみのガムシリーズ、本家ビクター、SASのいたインビテーションと、ビクター音産の主要レーベルを渡り歩いた感じもある御大ですし、何せ現役で活躍なさっていますから、網羅となるとなかなか困難だったのも事実でしょう。

　しかし、ようやく溜飲の下がるベストが登場します！　御大初のG☆Bとなる「 ゴールデン☆ベスト 」。

　時系列で収められてはいませんが、ビクター時代のシングルヒット曲＆タイアップ曲を網羅した作品集で、市販CDとしては初収録となるナンバーもどっさり＊。
　当初は４月27日に発売が予定されていたようですが、現在の歌声も入ったオールタイムベストが出たためか延期となり、ようやくのリリースとなった模様です。

　アマチュア時代にはガロのマークやトミーとバンドを組んでいたそうで、70年のソロデビュー後はポプコンや世界歌謡祭にも出場し圧倒的な歌唱力を誇ったこともある松崎御大ですが、その歌声を初めて意識したのはグリコ・アーモンドチョコレートのCMソングだったという人がほとんどではないかと思います。
　かくいうワタシもその１人で、近藤正臣、志垣太郎、三浦友和といった青春スターはもちろん、ひいては御大ご本人も出演した一連のCMは、あのリッチでデラックスなXOチョコへの憧れと相まって記憶にしっかり刻まれております。

　今回のベストにはその出会いのナンバーである71年の「君は何をおしえてくれた」からしっかり収録。72年の出世作にしてモデルさんのレコードジャケットで誤解されたという「黄色い麦わら帽子」、歌番組でもガンガン歌って顔と名前が一致した76年の両A面「私の歌／真夜中のエレベーター」、そして言わずと知れた77年のオリコン２位の大ヒット「愛のメモリー」…このベストでは順不動ですが、自分でプログラムして聴けば一連のCMの流れもハッキリと思い出せるような気がします。

　御大のブレイクは「私の歌」でグーンと来て、日本テレビの同名ドラマ主題歌「俺たちの朝／どれだけ遠く」で弾みがついて、「愛のメモリー」で花開いたという感じがあります。
　賞レースでも数々の受賞がありますし、NHKの紅白歌合戦にも出場されていますし、後のシングルも佳曲が多いんですが、その割に市販品ではＡ面でさえCD化が進んでいなかったのですね。

　それが今回はバッチリで、ブレイク後で歌本の新曲紹介では楽譜付きだった「偽りのバラード」、筒美ディスコの傑作で東京音楽祭ゴールデンカナリー賞に輝いた 「銀河特急」、手塚治虫の名作の映画主題歌にしてハイ・ファイ・セット、サーカスと競作となった名曲「火の鳥」、ジャケットにドキッとした太平洋音楽祭グランプリ受賞曲「俺の愛し方」と、市販品ではベスト盤初収録となるナンバーがずらり。

　個人的には、クネクネダンスをしながらディスコ歌謡のコンピ盤CDで愛聴していた「銀河特急」が御大のベスト盤で聴けることと、シングルで出たのは御大だけでそれだけに“日本語本命盤”という触れ込みだった「火の鳥」の収録がとってもウレシイです。

　79年には、国広富之と共演したTBSドラマ「噂の刑事トミーとマツ」がスタート。高視聴率をマークしなんと82年まで続く人気ドラマとなり、俳優としても高い支持を得た御大ですが、このドラマからは、大傑作の「ワンダフル・モーメント」、続く80年の「マイ・ラブ I Gave You My Love」、そして82年の「愛の静けさ＜Lonley Night＞」とスケールの大きなテーマ曲が揃い踏み。

　さらに、同じTBS系でシリーズの合間に放映された「秘密のデカちゃん」の主題歌「JAKA JAKA」も、御大の日本人離れしたリズム感が体感できます。ワタシはこの曲を聴くたび、比企理恵のいたずらっぽい笑顔と、由紀さおりの婦警姿が思い浮かんでしまうんです。

　ほかにもラジオのテーマ曲だった「素晴らしい朝」、西武ライオンズ球団歌として広く知られている「地平を駈ける獅子を見た」、声も担当した映画版「コブラ」の主題歌「DAYDREAM ROMANCE」、おそらくビクター時代のラストシングルだと思う洋楽カバー「愛と青春の旅だち（Up Where We Belong）／僕のそばにいなさい」まで、レンジの広い歌唱が存分に楽しめることと思います。

　今回「夕陽の歌」「セーリング・ラブ」「フォーリン・ラブ・アゲイン」あたりが入っていないのを残念がるファンもいらっしゃるかもしれませんが、コレが売れるとコンプリートも夢じゃないと思いますので、まずは買って次に期待しましょう。

　また、タイムリーにも御大のベストを買おうと思っている人は、ツインベストではなく、こっちが“ 買い”ですのでお間違えなく！

（2011.11.4）

＊一連のシングル曲は、2000年にThe CDClubで販売された通販限定商品「愛のメモリー～松崎しげるベスト・コレクション」 （FVCL-40326）でほぼCD化されていたという情報をいただきましたので、「市販品としては初CD化」という表現に訂正させていただきました。ご了承ください。