黄金期の名盤、でかジャケ&ブルスペ再復刻の第3弾!
NHK大河ドラマ「平清盛」では意外なほどの好演ぶりが話題となり、2012年も幕開けから話題の中心にいる松田聖子。旧譜の方も活発でして、LPサイズ紙ジャケ復刻もついに第3期となります。
この企画は、ご存じ聖子の初期オリジナルアルバムのBlu-Spec CD化で、初回限定仕様はLPサイズの紙ジャケによる帯付き完全復刻、しかも同時購入者抽選応募券封入(予定)というシリーズ(第1期はこちらで、第2期はこちらで紹介)。
ですが、まだ1期分のリリース日も来ておらず、正直モチベーションも上がっていなかったりして。とはいえ通常盤はジュエルケースになるそうですから、でかジャケを確実に手に入れたい人は早めの予約が肝心。むろん聖子の黄金期、いずれも劣らぬ名盤たちですし、やっぱりご紹介させていただきましょう。
今回は85年から88年まで、休業、結婚、妊娠、出産、復帰という軌跡を描いた聖子激動期。独身最後の「 The 9th Wave 」、休業&妊娠中の「 SUPREME 」、コンサートも再開する「 Strawberry Time 」、アルバムでは最後のNo.1獲得作「 Citron 」という4タイトルです。
ということはセルフへと突入する前まで、LPレコードで出ていた日本語のレギュラーオリジナルアルバムがこれにて完結となります。
振り返ると、84年の最後に切なすぎる失恋を歌った「ハートのイアリング」から180度変わるように、85年は新生とウエディングを連想させる「天使のウインク」で幕を開けた聖子。
スターとしての聖子も、涙の破局会見から始まって、恋人宣言、婚約発表と、怒濤のジェットコースターに乗っているようでした。目にするたびにどんどん変わっていくヘアメイクや表情のごとく、ファンとしてはキツネにつままれた気分になったものです。
世の女性たちは、最初に同情していた分だけ一転して反発、中には貞操観念を振りかざして嫌悪感を露わにする人も多かったように記憶しています。
しかし、それは奔放に生きたい願望を体現して見せた聖子への激しい嫉妬と羨望の裏返しだったのでした。事実、結納、結婚と正しい手順を踏んで花嫁となり、家庭に入ってゆくことを発表すると聖子を許し、ライスシャワーさえ笑顔で降らせたのですから…。
そんな背景を意識したのかしないのか、85年6月、聖輝の結婚直前にリリースされた「 The 9th Wave 」は実に象徴的といえる構成。
コンセプトの要であった松本隆は外れ、シングル2曲も担当した尾崎亜美を中心に矢野顕子、大貫妙子、吉田美奈子ら超個性的な女性シンガー・ソングライターが参加。
作曲には原田真二、甲斐よしひろ、杉真理といった聖子作品にはおなじみの男性たちが名を連ねているものの、作詞は銀色夏生や来生えつこという職業作詞家を含め女性陣のみで固められ、リアルな女性像が構築されているのです。
個人的には、今も昔も「Vacancy」「星空のストーリー」という各面1曲目がお気に入りですが、特筆すべきは最高潮に達し、虚無的なわびさびさえ感じさせる聖子ボイス。
ダイアモンドの4Cをすべて兼ね備えたようなあの声で、いずれも本当の女性だから書き得た感覚的な歌詞をなぞっていくものですから、マリッジ・ブルーのゆらぎみたいな実体のない感情ですら形象化して聴こえてしまうのですね。
松本さん不参加であり、楽曲の個性にバラツキがあるせいか、聖子ヒストリーにおいてこのアルバムはすき間に埋もれてしまったような扱いを受けていますが、継子は継子であっても、宇宙の神秘といいますか奇跡的な真理がパッケージされているような気がします。ええ、マジに。
結婚して、最初は百恵ちゃんのように引退するつもりだったという聖子。新妻・聖子の様子が週刊誌やワイドショーをにぎわしたり、自叙伝を出版したりとスターとしての聖子は相変わらず注目されていましたが、予定されていた世界進出もレコードの発売だけとなり、紅白に出場したほかは歌手としての目立った活動をしてこなかったのも事実です。
そんな中届けられたのが、86年6月リリース、松本隆プロデュース復活アルバムにして日本レコード大賞アルバム大賞に輝いた「 SUPREME 」。
南佳孝、来生たかおといったおなじみのメンツに加え、チューリップの宮城伸一郎、THE東南西北の久保田洋司ら松本さんのお気に入りアーティスト、大沢誉志幸、T-SQUAREの安藤まさひろというソニー系、さらには玉置浩二、亀井登志夫といった旬のヒットメーカーまで、前作とは打って変わって男性陣ばかり。
なお、聖子自身も名曲と誉れ高い「時間旅行」を作曲。プロモーションでシングルカットされ各方面から大好評を博し、作曲の才能も認められましたが、現在の作風に通じるものもありますし、これが正式なセルフ聖子の萌芽だったのかもしれませんね。
既にユーミンファミリーとなっていた武部聡志さんをアレンジで起用し、普遍性と今風なエレガント度を両立させているのも特長ですが、これは松本さんが斉藤由貴で組んで手応えを感じたからでしょうか。
オープニングの「蛍の草原」から分かるように、聖子の歌声もたっぷり休養したおかげで透明感とうるおいが戻り、お腹に赤ちゃんを宿したせいで意識せずともまろやかで慈愛に満ちた母性がにじみ出ているようですが、それが最も顕著なのが「瑠璃色の地球」。等身大の聖子から発せられたリアルなメッセージは、母性によってグローバルな広がりを見せたのです。
プロモーションシングルとしてリカット、暮れの紅白でも歌われましたが、ママとなっても活躍を続けていく予感が確信へと変わった曲ではないかと思います。
なお、今回の目玉と言えるのがコレに付くというボートラ。カラオケだけでなく、なんと前述のプロモーションシングル2枚のA面2曲に対する聖子コメントが予定されています。今回のシリーズを見送るつもりだった人もこの1枚だけは手に入れたいのではないでしょうか。
沙也加ちゃんを出産後、アルバム制作だけでなくコンサート活動も復活させ、ママドルと呼ばれるようになる聖子ですが、そのきっかけとなったのが、87年5月の「 Strawberry Time 」。
先行シングルでありファンタジーという枠組の中で世界平和を歌ったタイトル曲をはじめ、前作のナチュラルさとは打って変わって、人工の着色料や香料をふんだんに調合。コケティッシュで妖しいニュアンスが漂っています。
「Tinkerbell」とか、松本さんが聖子で表現したかった永遠の少女性を突き詰めていった感がありますが、今聴くと美魔女みたいな得体の知れない雰囲気もあったりして。
個人的には、アルバムから漏れてシングルB面になってしまいましたけど、実は「ベルベット・フラワー」こそママドル・聖子を肯定的に象徴する歌であり、このアルバムの真髄になるべきナンバーではなかったかと思っています。
作曲家陣は、全盛のバンドブームそのもので、既に大ヒットメーカーとなっていたTMネットワークの小室哲哉を筆頭に、レベッカの土橋安騎夫(配信先行だったICEの国岡真由美の「Strawberry Time」などをまとめたベストCD「 THE BEST OF ALL TIME 」が先日発売されています!)、バービーボーイズのいまみちともたか、米米CLUB、ピカソの辻畑鉄也、UP-BEATの広石武彦と、初顔合わせとなる旬のバンドの面々が並びます。
コムロ御大の「Kimono Beat」も素晴らしいですが、このアルバムのナンバー1は、大村雅朗さんからの紹介で参加したという大江千里クンの「雛菊の地平線」。この曲の完成度の高さは言わずもがなですが、聖子自身も大いに気に入り、次のシングル「Pearl-White Eve」へとつながっていったのだそうです。
そして最後は1988年5月発売、全米進出の布石のように出されたデビッド・フォスタープロデュースによる「 Citron 」。
今回の復刻ラインアップでは英語版ということでから漏れてはいますが、85年に出た聖子「SOUND OF MY HEART」がかのフィル・ラモーンだったのに対し、3年後はこのデビッド・フォスターと、バブル全盛の豪華な組み合わせに大きな話題を呼びました。
でもデビッド・フォスターは、竹内まりやに始まり、尾崎亜美ら日本のアーティストのプロデュースも行ってきた人だけに、悪い意味でまさか聖子も…という感じがしたのは事実です。
いくら世界的な名プロデューサーといえども、同期の河合奈保子がとっくにやっているのでそう思った次第なのですが、サウンド的にも曲想でも安定したボーカルでも、聖子の新たな一面を感じさせようとする姿勢が貫かれていて、さすが名人が手がけた名曲多しというアルバムになっています。
このアルバムの代表曲といえば「抱いて…」ですが、マイベストは「四月は風の旅人」。続く「林檎酒の日々」も名曲で、あの得も言われぬ幕切れ感が、まさか松本隆さんの最後に重なってしまうとは当時は知るよしもありませんでした。
それにしても「Marrakech~マラケッシュ~」をなぜシングルに切ったかいまだに不思議。聖子のトーンダウンはこの曲で決定的になったような気がしますね。
結局このアルバムを最後に、翌89年にはサンミュージックから独立。本格的な全米進出を進めます。
アメリカでは当然全面的に委ねることになりますが、日本では逆。まずは全曲の作詞を聖子自身が担当し、セルフ時代の幕が開いたのです。
あれから20年以上が流れ、気がつけば歌手生活の3分の2をシンガー・ソングライターとして過ごしてきた聖子。
でも、今は昨年暮れの大型コラボを機にセルフ脱却に注目が集まっている最中ですし、せっかくの機会ですので今回ラインアップから漏れた「SOUND OF MY HEART」をからめ、ちょっと余談に花を咲かせてみましょうか。
85年の結婚休業中に発売された「SOUND OF MY HEART」は、世界進出を念頭に、ビリー・ジョエルを手がけたフィル・ラモーンがプロデュースしたという超大型企画。
結局はヨーロッパ発売にとどまった(でしたっけ?)ようですが、楽曲制作にはカーペンターズの作詞でおなじみのジョン・ベティスをはじめ、バラードを書かせたら右に出る者なしという時代もあったマイケル・ボルトン、さらにはマイケル・センベロ、ダン・ハートマンという映画「フラッシュダンス」や「ストリート・オブ・ファイヤー」のサントラナンバーで日本でも人気のあったアーティストたちが参加。
聖子のために書き下ろされたのではないかもしれないけど、そのメンツだけで洋楽ファンをあっと驚かせたアルバムでした。
とはいえ肝心の聖子の歌は、やっぱり英語が難点で、当時高校生だった我々も失笑してしまうほどの発音。そのせいか手放しで聖子を讃えるコアなファンの間でも芳しくない評価なのですが、実はこのアルバムにこそ、聖子の魅力の秘密を解く鍵が隠されているように思うのです。
それこそは、ラストに収録されたマイケル・ボルトン作の「TRY GETTIN' OVER YOU」。
実はこの曲、のちにCBS・ソニーがCBSレコードを買収し、聖子を日本を象徴するトップアーティストSEIKOとして送り込んだ90年の世界デビューアルバム「SEIKO」でも、リアレンジして歌っているんですね。
英語の特訓を重ねただけあって、発音はぐんと上達し見違えるほどになっているんですが、こなれてしまった分、新鮮味や歌心が隠れてしまった感じなのです。
80年代の聖子のレコーディングスタッフが彼女の素晴らしさを語る時、みな口を揃えて瞬発力の凄さだと言いますが、この「TRY GETTIN' OVER YOU」を聞き比べればその真意が理解できるかも。
練習を重ねると一見上手くなった気がするが、魅力は半減してしまう…そんな聖子の特徴が、日本語ではないだけ余計にありありと出ているような気がするのです。
スタジオで初めて新曲を与えられ、メロディーをその場で覚えてすぐレコーディングしていたという80年代の作品が、なぜきらめいて聴こえるのか。
逆に自分で詞や曲をあれこれ練った末に仕上げ、オケ録りし、納得のいくまでレコーディングするというセルフ時代の作品が、なぜああ聴こえてしまうのか。
詞や曲のせいというだけでは片付けられない、真の理由が見つけられるように思うのですが…。
(2012.1.26)
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単品ではなく「まとめ買い」での予約に限るもので、特典がなくなり次第終了となるそうですので、お早めに!
*紙ジャケLPサイズ復刻盤第3弾全4タイトル購入者を対象に、「松田聖子オリジナルLP柄ステッカー(A4サイズ)」が当たる応募抽選キャンペーンを実施。(通常盤は対象外ですのでご注意ください)