音羽の杜・キングレコードのアイドル約30年史!
気がつけば相も変わらず昭和時代のうたを聴いている毎日。にもかかわらず、前にも増して昭和は遠くなりにけりという思いを強くしていますが、それはやはりかけているCDのせいだったりして。
だって、ここ十年ほどのベスト盤やコンピ盤などの企画ものを聴くにつけ、昭和時代にはベルリンの壁ほど高かったレーベルやメーカーの垣根が、今やいといも簡単に乗り越えられるようになったことを否が応でも思い知らされますもんね。
これはむろんユーザーにとって大いに喜ばしいことなのですが、昔は各社見事に違ってた個性というか、音盤やジャケットにまで表れてたオリジナリティあふれる社風みたいなものが奧へ奧へと引っ込んでしまった感もあって、いささか淋しい気持ちを抱えてしまうのも事実です。
そういう意味では、昭和のガンコ親父のごとく頑として我が道を行くレコード会社の方に愛着を覚えたりして…。普段は、合同企画に参入しないことに時流や消費者を無視しているような気がして、なんだかんだ言ってしまうんですがねえ。ないものねだりといいますか、ホント人って勝手なものですよね。
さて、我が道を行くレコード会社の筆頭に挙げられることの多いのが、音羽の杜のキングレコード。
旧譜界においてもベスト盤などはいまだG☆Bシリーズに参入せず、毎年新装の全曲集シリーズや独自のパーフェクト・ベストシリーズをリリースするなど自社企画を通していらっしゃいますが、2枚組の企画ものといえば、キング・スーパー・ツイン・シリーズが有名です。
このシリーズ、例えばポニーキャニオンなら決定盤!!ベスト・シリーズ、EMIミュージックジャパンならEMIプレミアム・ツイン・ベスト・シリーズに相当する、よくある廉価版全集もの。
キングの場合も童謡から民謡、落語などの学芸もの、純邦楽はたまた軍歌、クラシックまで、自社の豊富なカタログを使ってさまざまなタイトルがリリースされていますが、この5月に出る2012年版は全80タイトルなのだそうです。
いつもなら各社とも看過してしまうシリーズなのですが、なんと今回はその中にアイドル集が含まれているんですと。しかも、1970年代から約30年間のキングのアイドルが大集結という「 アイドル黄金時代 」が!
収録曲は第一報から多少揺り動かしがあったようで、やはりお騒がせ(?)のKさんが外れる模様ですが、古くは1971年、夏木マリ(3月からNHK朝ドラ「カーネーション」でヒロインの晩年役を演るんだとか!)が中島淳子として出した「小さな恋(リトル・ラブ)」から、最新(だと思う)で1999年、梨園入りした前田愛の妹として知られる前田亜希「ごめんね」まで、すべて自社アイドルで構成されているだけにかなりコアな内容となっております。
というのも、70年代以降のキングはアイドルとしての成功者はホントに少なくて、30年の間にベスト10入りを果たしたアイドル歌手といっても、三原順子(今回は「セクシー・ナイト」を収録予定、以下同)、中山美穂(「BE-BOP-HIGH-SCHOLL」)、森口博子(「ETERNAL WIND」)、内田有紀(「幸せになりたい」)ぐらいしか見あたらないからなのです。
ネームバリューでいえば、レコード大賞新人賞に輝いた倉田まり子(「グラジュエイション」)や岩井小百合(「ドリーム ドリーム ドリーム」)、仲村知夏(「89番目の星座」)などはかなり知られている方でしょうし、別格の存在ではありますがティーンモデルから大成した手塚さとみ(「パジャマSong」)や、田中美佐子(「スペインへ行きたい」)、山瀬まみ(「メロンのためいき」)らは女優やバラドルとして大物となっていますけど、いずれも歌のヒットという点では…。
この事実だけ見ると、昔から時流や世相に関係なく頑とした我が道路線を貫いたせいだからか穿ってしまうのですが、どうしてどうして。
70年代アイドルの登竜門であったスタ誕からは、岩崎宏美よりも期待されていた超大型新人・黒木真由美(「感情線」)を見事に獲得しましたし、彼女を含む鳴り物入り再デビュートリオのギャル(「薔薇とピストル」)はもちろん、バラドルのはしりであったピーコこと岩城徳栄(「あいつ」)もキングからのデビューでした。
アグネスや菲菲の成功をなぞったアジアンアイドルというくくりでは、台湾からやって来たキャンディ・レイ(「恋=?(ハテナマーク)」)がいましたし、人気テレビ番組という面では、レッツゴーヤングの初代司会者・有田美春(「いとこ同士」)&サンデーズのメンバーだった秋本理央(「風とブーケのセレナーデ」)といったNHK育ちや、TVジョッキーの初代アシスタント・児島美ゆき(「恋はかけひき」)というお茶の間の人気者もいました。
さらには、鶴光のオールナイトのアシスタントとして男子中高生の間で熱狂的人気を博した榊みちこ(「I.I.YO.I.I.YO」)、TBSラジオのミッドナイト☆パーティーから出たマヒマヒ(タンゴ・ヨーロッパのカバー「桃郷シンデレラ」)というラジオ勢、八木さおり(「くちづけの舞台」)や日原麻貴(「禁じられたDesire」)のミスマガジン勢、はたまたクールな美少女子役だった長谷川真弓(「星に約束」)ら、格別歌はヒットしなかったものの出自はみな王道で、押さえるところはしっかり押さえていたと言うべきでしょう。
某社と比べても時代錯誤感や、とんでもない娘をデビューさせちゃった感は全然ないし、冷静に見てもっと売れてもよかった面々ばかりではなかったかと思うのですが…やはり水ものの芸能界、運というか間が悪かったのでしょうね。
大事な人が漏れているような気もしますが、このようにキングのアイドル30年史を飾るメンツがそろい踏み。しかも、知名度の高いデビュー曲だけというわけでもない、通好みな選曲もポイント高しといえそうです。
レアという意味では、時代がかった有馬三恵子さんの詩が素晴らしい葉山ユリの「さようなら また あした」、トヨタコロナの歌で知られる川口裕子「好きなもの」、岩城徳栄の「あいつ」、キャンディ・レイ「恋=?(ハテナマーク)」あたりでしょうか。
ギャルでミッチの後に補充された中世古明代がラブ・ウィンクスの津田京子と組んで再々デビューしたキャンティ「知らなかったの」や、甲斐バンドファンの女の子からは冷たくされてた竹田かほり「気まぐれに愛して」も久々のCD化のような気がしますね。
個人的にオススメなのは80年代後半に出た名曲カバーでして、女優として大成した水野美紀が歌う、南沙織の「色づく街」を大プッシュ。杉本理恵がリメイクした尾崎亜美の初期の名作「初恋の通り雨」もほのぼのしてていい感じです。
あとは、元おニャン子クラブの渡辺美奈代がMinayo名義で出した「いろいろあったけど」。いっとき「新婚さんいらっしゃい!」のアシスタントをしてた頃のエンディングテーマですが、ソニーのベスト盤には収録してもらえませんでしたから、こちらも久々のCD化になるんじゃないでしょうか。そういえば美奈代ちゃんって、話題のBlooming Girlsに入るんじゃないかと思ってましたが…。
と、単なるキング・スーパー・ツイン・シリーズの1タイトルとして、しれっとリリースされるには見過ごせない感じのアイドルコンピ。
お買い得なのはもちろんのこと、歴史あるキングの近代社史を紐解くような感じもしますし、冒頭で言ったように今となっては逆に新鮮に思えてしまって、むしろ各社でドンドンやってくれないかな、なんて思ったりしています。
(2012.2.29)