あの頃のきみへ…帰り来ぬ青春フォーク18編!
弥生三月、桜咲く卒業シーズン。私事ですが、最後の卒業式を終えてからはや22年…。あれから取り巻く環境もどんどん変わっていったし、容姿体型もまるで別人みたくなってしまいましたが、気持ち的には中2病とはいかないまでも、ある意味永遠の14歳みたいな感情を心のどこかに持ち続けていたりして。
実はこうしてナツメロを聴いているのも、22ダブはおろか30ダブぐらい平気でしちゃった感じで、実は年じゅう留年気分みたいなものを味わいたいからかもしれません。
さて、卒業式のニュースが聞かれ、あちこちで出会いと別れが交錯する今の季節は、どうしてもセンチメンタルでノスタルジックな気分になってしまうようですが、その思いは青春から遠く離れるにつれ、どんどん増しているような気がします。
そんな中、年を取った収穫といえるのがうたへの理解度。何百回、何千回となく聴いてきたおなじみのヒット曲や名曲でさえ、詩の裏側にこめられていた解釈にハタと気づいたり、作者の真意にしみじみと共感したり、シチュエーションと感情の描写がふと腑に落ちたり、サウンドも含め若い時分にはそのうたの本当の良さをちっとも分かってなかったなどと、愕然としてしまうことも多々あります。
そういううたって、やはり男性アーティスト、それもシンガー・ソングライター系のフォークが多いような気がするのですが、そんなことを書いたのも、ぜひ聴いてほしい名曲コンピが来週リリースされるから…。
それが70年代~80年代初めにヒットした男性ボーカルによる青春フォークソングをセレクトした「 きみのうた 」なのです。
またまた手前ミソではありますが、タイトルもジャケットもオススメで、中高年の大切な人へのマジな贈り物としてもスイセンしたい1枚となっています。
「あの素晴しい愛をもう一度」「結婚しようよ」「夢一夜」「ささやかなこの人生」「精霊流し」「帰らざる日々」…トノバン、拓郎、こうせつ、正やん、まっさん、チンペイら今や大御所となったアーティストが、若さにあふれていた時代の作品群は、あふれる才能と繊細な感性が紡ぎ出した奇跡とでもいうべき世界。
また、この中では作者として唯一女性のユーミンが書いた「『いちご白書』をもう一度」「あの頃のまま」も、驚くほどの男性心理が描写されていますし、「学生街の喫茶店」「さよならをするために」といった職業作家フォークの完成度の高いこと。
シグナル「20歳のめぐり逢い」やN.S.P.「夕暮れ時はさびしそう」とか、ふきのとう「やさしさとして想い出として」や村下孝蔵「春雨」とか、あの時代らしい若者向けの抒情派ナンバーは系譜が途絶えてしまっただけに、ことのほか郷愁を誘います。
近年よく企画されている懐かしのフォークコンサートみたいな会場では、シングアウトスタイルで歌われたり、それぞれが一気に時空を超えて若返るタイムマシンのような役目も果たしていますよね。今や青春という言葉自体が死語になっていますけど、これらのうたには、普遍的な青春のすべてが過不足なく詰まっている気がします。
そういう意味では、やはり多くの大衆に愛され、口ずさまれた歌の凄さというか、音源は変わっていないはずなのに歳月を経ることでそういう多くの人の思いみたいなものを吸収し記録しているような気さえして、ヒット曲の価値に今さらながら敬服します。
このへん、人が知らないうたを聴くのがいいとか、マニアックなうたを入れるコンピ盤の方が価値がある、みたいな昔思ってた考え違いを正されるようで、身が引き締まる思いも感じたりして。
いずれにしても、こういう楽曲の知名度や愛され度合いって、当たり前のように思ってしまいがちですが、ここ20年ほどのうたと比較とするとビックリします。だって、還暦世代からオバフォーまで、現在の中高年世代に幅広く知られ、カラオケなんかでも頻繁に歌われているという事実って、対象をここ20年のうたに置き換えて考えるとありえない話になっちゃいますからね。
80年代初頭まで、ほとんどの人が中学生になるとギターの弾き語りにトライしたみたいに、フォークソングは“歌いうた”として広まってきたように思いますが、中高年はその魅力を思い出し、若い世代は新鮮に思う…そんな楽しみ方もできそうです。
また、王道が多い中、知る人ぞ知るナンバーもありまして、よくぞ入れてくれたという感じなのが斉藤哲夫の「バイバイ グッドバイ サラバイ」。ゾクッとする名曲名唱で、今の時代に出ていた方が違和感なくヒットしそうな感じです。
もちろん当時から哲学者、吟遊詩人というような扱いで熱心な信奉者を持ち、近年も一部で再評価は進んでいますが、コレで興味を持たれた方は、ソニー時代の3枚「 バイバイ グッドバイ サラバイ 」「 グッド・タイム・ミュージック 」「 僕の古い友達 」へとお進みください。
あの時代しか成しえられなかったフォークとポップミュージックが結合
した傑作だと思いますし、「今のキミはピカピカに光って」ぐらいしか知らない我々世代以下の人にこそ、聴いてほしい世界だと思っています。
ちなみに現在の斉藤さんですが、昨秋ライブを拝見しようと思ったら緊急入院され中止となってしまい、ずいぶん心配したものですが、今はだいぶん良くなられたそうで一安心です。
そして、このアルバムで最後を飾るのは、青春のアイコンだった中村雅俊が歌う、カントリーポップな筒美作品「時代遅れの恋人たち」。
ああ、そうです。この歌が出た当時は小5で、こういう青春に心から憧れ、本当はこういう青春を送りたかったのでしたっけ。
なんだか、このアルバムのタイトルの“きみ”というのは、あの頃の自分自身を指してるようにも思えて、人生のアルバムをめくるような気分になってしまいます。ただ、それはまだ卒業アルバムではなくて、この春もまたしっかりダブり決定、と相成るのでした…。
(2012.3.6)