YMOジュニアと呼ばれた、中学生テクノバンドのすべて!
1980年、テクノポップを世界に広め人気沸騰中だったイエロー・マジック・オーケストラ。その年の暮れ、彼らのコンサートの前座を務めたことで、YMOジュニアなどと呼ばれ、子ども版YMOとして一躍脚光を浴びたのがコスミック・インベンションでした。
メンバーは、シンセドラムを叩きながらボーカルを担当するミマ(森岡みま)を筆頭に、トップキーボードのビーバー(井上能征:後の井上ヨシマサ)、ストリングスオーケストラのキヨミ(安藤聖己)、セカンドキーボードのカツミ(佐藤克巳;後の佐藤鷹)、ベースキーボードのカンナ(橋本かんな)という5人組(途中でキヨミが脱退)で、何といっても全員が中学生だということが大きなニュースとなりました。
いうなればテクノ・ニューウェイヴ界のマスコットみたいな感じでしたよね。
よく覚えているのは、かの坂本九ちゃんが、ほぼ同時期に出た小学生ビッグバンドのニイニイゼミ・ポップス・オーケストラとともに絶賛してたこと。とっても親しみやすいけど芸には厳しい発言の多かった九ちゃんをうならせるなんてスゴイなあと思ったものですが、おませでウルサイYMOチルドレンたちは亜流的扱いをしてましたっけ。
余談ですが、当時なら亜流と言われたであろうPerfumeは、オジさん世代にも人気があるといわれてますが、Perfumeを支持する彼らこそかつてのYMOチルドレンのような気がします。
でも、テクノポップをごくフツーの小中学生にも親しみやすいジャンルにしていったのはコスミック・インベンションだったといえるでしょうし、天才的な素養を持っているにしてもごくフツーっぽいルックスで、とてもアマチュアっぽい雰囲気で、ジューシィ・フルーツが低くしたテクノの壁をさらに低くした功績は大いに称えられるべきでしょう。
NHK生まれの名曲「コンピューターおばあちゃん」を最初に歌ったオリジナルアーティストということでも知られていますが、「みんなのうた」で差し替わらなくって、イモ欽トリオが出てこなければ、もっとメジャーな扱いを受けることができたのかもしれません。
そんなコスミック・インベンションですが、ニューウェイヴほぼ30周年祭を迎えた今年、ついに初のベストアルバムにしてコンプリート集となる「 コンプリート・ベスト 」のリリースが決定しました!
収録曲は、81年3月のデビューシングル「YA・KI・MO・KI/Cosmic Fantasy」と第2弾「ちょっとホントあとはウソ/SPACE FIGHTING」を含む唯一のアルバム「COSMORAMA」のナンバーに、未収録のラストシングルにして本家・細野さんの提供&カバー「プラトニック学園/コズミック・サーフィン」をプラス。
その上、ボーナストラックとして、歌入りだったシングル曲のインストも付くというサービスぶり。最初から歌あり&インストの両面で売り出していた彼らですから、どちらの魅力も十二分に堪能できる全17曲のコンプリートベストとなっております。
これまで彼らのCDというと、94年に唯一のアルバム「COSMORAMA」が定番COLLECTIONとして復刻されていましたが、すぐに廃盤。
ほかには、90年にBEST ONEシリーズの1枚として出たビクターのアイドルによるカバーソング集「カヴァー・ヴァージョン・ベスト・ヒッツ!」をはじめ、99年のテクノ歌謡再評価でラインアップされジャケットも彼らだった「テクノ歌謡ビクター編 コズミック・サーフィン」、2005年のYMOがらみの歌謡曲リイシューの一環「イエローマジック歌謡曲」、09年の「細野晴臣の歌謡曲〜20世紀BOX〜」などのコンピ盤で数曲が聴けるだけでした(ちなみに、10月発売のサエキけんぞうさん監修ニューウェイヴほぼ30周年祭記念コンピ「 KINGソングス of ニューウェイヴ 」には「コンピューターおばあちゃん」が収録されておりますぞ)。
中でも「COSMORAMA」のCDは中古市場ではかなりの金額で取引されていたそうで、入手できず悔しい思いをしてた人も多い模様。かくいうワタシもレコードは持っていたもののCDを買いそびれておりましたんで、今回のベストはホントにウレシイです。
実を言うと、長いことコ「ズ」ミック・インベンションだと思いこんでいたのでお恥ずかしい限りですが…。
ところで、彼らのプロデュースを担当したのは、元ブルーコメッツの小田啓義さん。この81年はブルコメ時代の小田さん作品「すみれ色の涙」が岩崎宏美によってリバイバルヒットを記録し、「YA・KI・MO・KI」とともに小田さんの名前が再び脚光を浴びた年でもあります。
あの曲からこの曲まで、なんと多彩な楽曲を書かれる方だろうと思ったことでしたが、当時から小田さんプロデュースのせいでテクノの前衛的な雰囲気が出てないという人もいまたりして。でもですね、コスミック・インベンションは、小田さんのメロディーラインやアレンジがあったからこそ、天才だけど等身大の中学生バンドとして共感を得て、人気を博したのだと思います。
オススメは、谷山浩子作詞で、志賀真理子もカバーした「ひこうき雲」。楽曲自体が素晴らしいこともあるんですが、特筆すべきはみまちゃんのボーカル。あの時代の思春期のゆらぎみたいな感情が過不足なくにじみ出ているようで、とてもノスタルジックな気持ちにさせてくれます。
ボコーダーを通していないみまちゃんの声に、心を持ったロボットの悲哀のような感情が浮かぶ気がするのは、大人と子どもの狭間がそれに酷似しているからでしょうか。
もしかしたら、それは初めて聴いたのが彼らと同じリアル中学生だったからで、今となっては確かめるすべはないのかもしれませんが。今の年齢ではもう聴こえないモスキート音みたいに…。
また「ちょっとホントあとはウソ」とか、「プラトニック学園」とか、YMOのカバー「コズミック・サーフィン」とか、あの当時の近田春夫さんならではのコトバづかいが楽しめるナンバーも今聴くとまたヨイ感じです。
なお、みまちゃんもイロイロ音楽活動を続けていましたし、カツミくんはTo Be Continuedの佐藤鷹として活躍しましたが、出世頭はやっぱりリーゼントの井上ヨシマサくんでしょう。
キョンキョンの「スマイル・アゲイン」とか、伊代ちゃんの「淋しさならひとつ」とか、水谷麻里「バカンスの嵐」とか、同じビクター系80年代アイドルを皮切りに多くのヒット曲を手がけてきましたし、渡辺真知子ファンには名曲「心の距離」でもおなじみ。
そういえば、ホントにホントにホントにご苦労さんな「ROSA」を書いたミポリンとはロマンスが囁かれたこともありました。
ずっと活躍を続け、最近はAKB48でヒットを連発していますから、天才少年の面目躍如といったところですね。
というワケで、元祖テクノポップ・アイドル、コスミック・インベンションのベスト。Perfumeのファンや初音ミク好きにもオススメします!
今回初めて聴く若い人には、当時のピコピコ感がチープに聴こえるかもしれませんが、なにせアナタ、当時はゲーム&ウオッチ時代でございますからね。打ち込み到来前の電子音楽のリアルな感じをどうぞ。
いきなりコンプリート・ベストは…という方は、サエキけんぞうさんがリードするニューウェイヴほぼ30周年祭のダイジェスト盤「 KINGソングス of ニューウェイヴ 」でまずお試しを。
コスミックの「コンピューターおばあちゃん」をはじめ、ジューシィ・フルーツからチャクラ、プラスチックス、戸川純ちゃん(ゲルニカ)、サエキさんのハルメンズ、ピチカートの野宮さんのソロやポータブル・ロックまで、テクノ・ニューウェイヴの代表的なアーティストと楽曲をコンパイルした入門編的ベスト盤となっていますよ。
(2011.9.29)