天地真理の2曲を含む、起死回生のカバーアルバム!
かつてファーストアルバム「 よろしく、朱里。 」が大苦戦し、敗者復活の末なんとか復刻にこぎつけた事実も、今となってはウソのようですよね。
そう、コレは浜田朱里のオーダーメイドファクトリー商品の話ですが、スペシャル商品「 GOLDEN☆BEST limited 浜田朱里シングルコレクション」(こちらで紹介)に続き、セカンドアルバム「青い夢」(こちらで紹介)もトントン拍子にクリアしたためか、今度は一気に3枚目と4枚目のアルバムが同時で候補に挙がりました!
サードの「 瞳・センチメンタル 」(81年12月)も朱里ちゃんのなんとも言えないアンニュイなムードが存分に発揮された佳作ですし、シングル曲以外は初CD化となりますんでプッシュしたいところですが、ここはやはりフォースにしてラストとなった「 想い出のセレナーデ 」(82年5月)をイチオシにしておきましょう。なんたって、あの天地真理ちゃんをはじめとしたカバーアルバムなのですからね。
ポスト百恵の最有力候補として80年にデビューした朱里ちゃんでしたが、1年もすると勝負はハッキリついてしまっていて、グラビアや女優としての活躍はめざましかったものの、アイドル歌手としては鶴光のオールナイトでは不名誉な“がけっぷちトリオ”の1人に加えられるなど、残念な状況になっていたのです。
そんな中、歌謡界に巻き起こったのがリバイバルブーム。石川ひとみの「まちぶせ」を筆頭に、岩崎宏美「すみれ色の涙」、柏原よしえの「ハロー・グッバイ」などがブレイクや再浮上のきっかけになる大ヒットを記録。
歌謡界は色めき立ち、誰もがレトロな名曲を追い求めて奔走、83年にかけて廃盤ブームという社会現象にもつながっていくことになるのです。
そして82年。朱里ちゃんが起死回生をかけたニューシングルとして選んだのは、同じCBS・ソニーの先輩であった天地真理の名曲「想い出のセレナーデ」(74年)だったのです。
思えば、CBS・ソニーの同期でありライバルだった松田聖子のナンバーが明るいアメリカンポップスのノリだったのに対し、浜田朱里はフレンチポップスなど、翳りのあるヨーロピアンイメージ。それは奇しくも70年代のCBS・ソニーで、南沙織と天地真理が繰り広げた図式でもありました。
ということでは、リバイバルナンバーとして真理ちゃんの楽曲、しかも朱里ちゃんのイメージに近いノンスマイル・イメチェンナンバー「想い出のセレナーデ」が選ばれたのは必然的だったのかもしれません。
もちろん元々が名曲ですが、あの哀愁たっぷりの世界は朱里ちゃんにもぴったりマッチ。特にピアノをフィーチャーしたアレンジは、真理ちゃんのオリジナルを凌駕するほど素晴らしい出来だと思います。
当時のテレビはランキング番組全盛期でしたんで、歌番組ではそんなに歌う機会はなかったように思いますが、ラジオでは大プッシュされ、有線でもよくかかり、ロングセラーのスマッシュヒットに。
オリコン最高51位ながら、なんと自己最高のセールスを記録。リバイバルとしての成果をちゃんと収め、初めてと言える真理ちゃんの再評価もなし得たのです。
そしてそれを受けて制作されたのがこのアルバム、というワケなんですね。
オリコンアルバムチャートでは、シングルのスマッシュヒットを裏付けるように66位をマーク。朱里ちゃんのアルバムではセカンドの「青い夢」に次ぐセールスとなりました。
全10曲中「想い出のセレナーデ」を含むカバーが8曲、デビュー曲「さよなら好き」の新録音も収録した内容ですが、哀愁味と女優業も鑑みたのか、ディレクターの趣味だったのか本人の嗜好だったのか、カレッジフォーク系を中心にしたかなりシブめの選曲になっています。
意図的なのかもしれませんが、なぜかデビュー曲のチョイスが多くて、まずは69年のカルメン・マキ「時には母のない子のように」、Kとブルンネンの「何故に二人はここに」(彼らの代表曲「あの場所から」は同時期の82年に柏原よしえがリメイク)とソニーの先輩陣に加え、72年の麻丘めぐみ「芽ばえ」、ぐっと時代は下がって77年の松山千春「旅立ち」と、それぞれのデビュー曲がずらり。
「魔法の鏡」は74年のユーミンの自作自演曲でユーミン版のアレンジをベースにしてはいますが、ここはやはりCBS・ソニーの先輩、早乙女愛がデビュー曲としてリメイクしたバージョン(76年)のカバーというべきでしょう。
例外としては、73年の「みずいろの手紙」 は台詞もバッチリ決まったあべ静江の第2弾。
真理ちゃんの「夏を忘れた海 」は72年のアルバムの中の隠れ名曲(といってもファンにはおなじみの有名曲)で、真理ちゃんのカバーでシングルヒットを飛ばせたことに敬意を表してのチョイスでしょうか。
というように、朱里ちゃんを支えてたファンにとってはリバイバルといえども時代錯誤感があって、暗くマニアックな選曲となってはいましたが、いずれも本質にマッチした味わい深くひたむきな歌唱で、朱里ちゃんの歌の魅力がハッキリ伝わるのは実はカバー曲だったのではないかと実感できる仕上がりです。
個人的な記憶でも、当時、この流れを発展させ次のシングルはメジャーコードのリバイバルで行けばいいのに、などと思ったことでしたが、蓋を開けたらもっとディープに踏襲したアン真理子のカバーで、大きなショックを受けたことを思い出します。
というこのアルバム、実は「さよなら好き」のボーカル新録音以外のカバー曲はなぜか99年のベスト盤ですべてCD化済み、オリジナルの「哀・私小説」は次のシングルのB面に収録されていたのでOMFのG☆BでCD化されているとのこと。
よって音源としてのレア度は少なく、そういうモノだけを追い求める方には価値がないとされるのかもしれませんが、このアルバムはフォトジェニックなジャケットとともに1枚のトータルアルバムとして聴くのがベストだと思いますので、ぜひ一票を。
ワタシも今回の復刻でそれが実現するかと思うと、今からとっても楽しみです。
また、コレが実現すれば浜田朱里のオリジナルアルバム全部がCD化されるという偉業が達成され、後続へのいいお手本にもなると思いますので、いろんなアイドルのコンプを求める熱心なマニアの皆さんもどうぞご協力ください!
(2012.1.10)