82年のベストが、ソニーのシティポップで復刻！

　今や復刻や再発の中心となったシティポップブームですが、今回のムーブメントに限ってはユニバーサルやビクターが先行しており、いささか出遅れの感があったソニーミュージック。
　とはいえ2021年には新レーベル「ALDEIGHT」から新旧名曲群を集めたコンピ盤「 ALDELIGHT CITY A NEW STANDARD FOR JAPANESE POP 1975-2021」がリリースされ、昨秋からは復刻展開する新シリーズ「ALDELIGHT CITY POP COLLECTION」がスタート（ こちらで紹介）しております。
 
　このシリーズは、国内外で注目を集めているシティポップの名盤の中から入手困難になっている作品をチョイスして復刻や再発を行うというものですが、最新リマスターによるBlu-spec CD2仕様にもかかわらず、税抜き2,000円ポッキリという廉価設定。2013年にスタートしたものの途中で立ち消えとなった名盤復刻シリーズのシティポップ版という趣もありますよね。
 
　 第1回10タイトルに続き、早くも 第2回8タイトルのリリースがアナウンスされましたが、ウチ的にピックアップせざるを得ないアルバムがラインアップされておりますので、しっかりプッシュさせていただきましょう。
 
　それが、82年6月にリリースされた中原理恵さんのベスト盤「 ドリーミング ラブ」。アルバムとしては初CD化となります！
 
　まず、このアルバムが出た当時の時代背景を説明しておきますと、さかのぼること4年前の78年、時代の最先端をゆくシティミュージックを旗印にアルバムデビューを飾った理恵ちゃん。ポマードこってり（ホントはDEP）のマニッシュなリーゼントヘアとファッショナブルなスタイルで、ナウな翔んでる女といいますか、クールでスタイリッシュなシティガールのイメージで「東京ららばい」を大ヒットさせ、一躍人気シンガーの仲間入りを果たしましたが、1年、2年と経過するうち名曲ぞろいのわりにセールスは先細りになってしまったのですね。
 
　歌手としては苦戦していたところに、活路を見出したのが80年に巻き起こったお笑いブーム。翌年にかけ、同じ事務所のタモリをはじめ、爆発的人気を博したB＆Bやビートたけしなど、錚々たるお笑い芸人と共演し、丁々発止のやり取りでコメディエンヌとしての才能を開花させていったのです。
　さすが研ナオコを大成させた田辺エージェンシーの力も大きかったとは思いますが、中でも欽ちゃんに抜擢された「欽ドン！良い子悪い子普通の子」の“良い妻悪い妻普通の妻”コーナーがバカウケ。理恵ちゃんは時代の寵児的なマルチタレントとなり、そのおかげで低迷していた歌手活動にも弾みが付くことに。結局はお笑いのカラーに染まりすぎることへの懸念もあって「欽ドン！」を降板し、音楽活動を優先。YMOで絶頂期を迎えていた高橋幸宏さんとのコラボレーションなどで新境地を開拓していきますが、そんな矢先に出たベストアルバムがコレだったというワケです。
 
　であるからして、このベストは、ひょうきん理恵ちゃんのファン層に、歌手・中原理恵としてのキャリアと魅力をアピールするという内容なのですが、そこに大きく作用したのが決定的ブレイクを果たしていた山下達郎。帯コピーの“ヒットシングルと山下達郎のドリーミーな世界を凝縮したベストアルバム”と謳った通り、大衆性と音楽性の両面をイントロデュースする内容となっております。
　LPでいうところのA面はヒット曲集で「東京ららばい」をはじめ「ディスコ・レディー」「枕詞（ピロー・トーク）」といった松本隆＋筒美京平コンビの名曲に、前年のスマッシュヒット「死ぬほど逢いたい」や当時の最新曲「愛してクレイジー」などを加えた全6曲。
　そしてB面は達郎提供曲集で、78年のファースト「TOUCH ME」とセカンド「KILLING ME」という2枚のアルバムから全5曲を収録。吉田美奈子や坂本龍一も参加しておりますし、達郎提供作が一堂にそろうという意味でシティポップの名作扱いされておることは理解できますが、現代で今回シティポップの名盤扱いされるのはちょい疑問が残ったりして。むろん、ある意味貴重な初CD化復刻であることは確かでしょうし、理恵ちゃんファンとしては素直に喜びたいと思います。
 
　なお、余談ついでに申し上げますと、内容にしても、ジャケットにしても、一見では単独企画のように思えるベストですが、実はコレ、ボーナス商戦の恒例だった「THE BEST」シリーズの一環として企画されたもの。
　ただ、この時はそれまでのシングルヒットを集めた所属アーティスト一斉発売ではなく、なぜか人気アーティストだけに絞ってのコンセプト・ベストだったんですよね。
　シリーズのラインアップを見てみますと、郷ひろみは圧巻の20曲メドレーを新録収録した「マイ・コレクション」、山口百恵は未発表曲を発掘した「Again百恵 あなたへの子守歌」ですし、人気爆発の松田聖子は「Seiko・index」、五輪真弓は本人プロデュースの「COLLECTION '82」などなど。従来の「THE BEST」とは一線を画す趣向を凝らした企画盤であり、理恵ちゃんが当時のCBS・ソニーのトップアーティストだったことを証明するアルバムといえるでしょう。
　それにしても、まさか40年の時を超えCD復刻されるとは思いませんでした。
 
　いずれにしても、シティポップのアーティストとして多くの人に聞かれ聴かれ、達郎フリークの人にもこぞって購入されることでしょう。今回は予約購入特典として、ジャケット絵柄のポストカード（ Amazonはメガジャケ）がもらえるとのことですので、早めのご予約をどうぞ。
 
　と言いつつ、このアルバムが単なるシティポップの流行の中で消費されるのではなく、やっぱりシンガー・中原理恵の再評価につながってほしいなと思っております。
　オーダーメイドファクトリーで企画された豪華なアルバムBOX「中原理恵 Premium BOX 」（ こちらで紹介、解説、ディレクターさんへの取材構成、ディスコグラフィーなどを担当させていただいております）はついに在庫切れになったようですが、筒美京平作品集「 GOLDEN☆BEST limited　中原理恵　筒美京平を歌う 」（ こちらで紹介、解説を担当させていただいております）はまだ入手可能のようですし、もちろん市販のシングル集「 GOLDEN☆BEST 中原理恵 Singles」（シングルバージョンでないのも含まれておりますが）でも結構ですので、ぜひ類い希なボーカリスト・中原理恵の魅力を深掘りしていただけたら幸いです。
 
　なお、今回のラインアップと同時発売で、クニモンド瀧口（流線形）さんセレクトによる人気コンピシリーズの最新作「 City Music Tokyo parallelism」と、書籍「 『シティポップの基本』がこの100枚でわかる！」でおなじみの栗本斉さんによる「 シティポップ・ストーリー CITY POP STORY ～ Urban & Ocean」も出るそうです！