70年代のアルバム復刻企画が堂々完結！

　2022年のデビュー50周年を記念してスタートした、五輪真弓さんの70年代アルバム復刻企画「MAYUMI ITSUWA 70‘s Album All Titles Release」。
　既に復刻済みのデビューアルバム「少女」を除き、ライブ盤を含む70年代のアルバム10タイトルをデジタルリマスタリングの上、３カ月にわたりBlu-spec CD2でリリースするとともに、ハイレゾ配信（通常音源は2013年より順次配信中）も行ういう内容で、特に人気の高い2作はアナログ盤でも発売されるとのこと。
 
　まさに、50周年にふさわしい大型企画として話題を呼んでいますが、第1期（ こちらで紹介）に続き、第2期・第3期のリリースも正式に発表されました。
 
　まずは、77年6月のフランス録音アルバム「 えとらんぜ」。
　初期はロサンゼルスでアルバム制作を重ね、アメリカンなフォーキーサウンドを中心に展開していた五輪さんですが、その資質を認めたのはフランスのCBSでした。ヨーロッパでのレコード発売も実現するワケですが、パリで録音されフランス語で歌われた「少女」「ジャングルジム」「煙草のけむり」といったレパートリーは、まさしく五輪さんの本質があぶり出されたシャンソン。
　現地では大ヒットを記録し、アダモとジョイントリサイタルまで開いたという五輪さんの逸話が残っていますし、ライブ盤も出たそうですが、この実績が日本での活動にとっても大きな転換点となったのは確かでしょう。
 
　続く11月の「 蒼空-TODAY-」では再びロス録音となり、ラリー・カールトンに加え、リー・リトナーも参加していますが、大きく路線を変更するための総決算といいますか、デビュー以来のマユミティ・イン・USAが極まった初期の集大成。
　翔んだ印象のコラージュジャケットが象徴するように、クロスオーバー、フュージョン系という感じが最も色濃いアルバムとなっていますが、今回はアナログ盤「 蒼空-TODAY-」としても発売されます。
 
　そして78年には満を持して、シャンソン歌謡路線とでもいうべき売れ線を狙ったシングル「さよならだけは言わないで」を発表。新たな五輪真弓像が打ち出されますが、目論み通りのヒットを達成。
　これを受けたベスト盤（「MY SONGS」）はそれまでの自己最高セールスを記録し、新たなファンの獲得に成功。シャンソンと歌謡曲というお国は違えど相似性を持った世界観を目指して、ヌーベル・マユミティの構築へと向かいます。
 
　その序章となったが、78年12月リリースの「 残り火」。「さよならだけは言わないで」とその続編としてスマッシュヒットしたタイトル曲を含むアルバムです。
　リカットされた「夜汽車」を含め、収録されたシングル曲は、もはやフォーク・ニューミュージックの私小説というより、売れ線を狙った大衆歌謡と言っても過言ではない仕上がり。この頃から有線放送でも人気を誇り、シャンソン風のニューミュージック歌謡というジャンルを確立させていく五輪さんですが、このアルバムは、行きつ戻りつのまだ過渡期といった感じです。
 
　いずれにしても、この路線変更で、初期の五輪さんを支えた一家言あるコアな音楽ファンが離れ、研ナオコあたりを好んで聴く一般層が支持するようになったような印象がありますが、決してマーケティングの勝利ではなく、人生の機微を掘り下げるような作品作りが五輪さんの本質にマッチしていた結果だと言わざるを得ません。
　ご自身も歌謡曲チックなおフランス路線の手応えを確信し、スタッフ共々極めるならやはり本場へと、という思いもあったのでしょう。79年11月の「 岐路」は、「えとらんぜ」以来となるフランス録音。
　先行シングルとなったオープニングの哀愁歌謡「合鍵」、ラストのタイトル曲、リカットされ日本よりもアジア諸国で大ヒットした「約束」など、アダルトな名曲が目白押し。上質度と哀愁度も増し、ぐっと洗練されたマダムチックなサウンドで、もういつ大ブレイクしてもおかしくない気配が漂っていますが、実際にそうなるのは翌年の次作「恋人よ」で国民的ヒットを記録してからのことです。
 
　と、以上が第2期のオリアルで、第3期はライブアルバム。
　74年3月「 冬ざれた街/五輪真弓LIVE」は渋谷ジァンジァンでの実況録音盤で、石川鷹彦、村上 "ポンタ" 秀一、深町純、大村憲司といった豪華なバッキングを従えたマユミティのボーカルが炸裂しています。
　スマッシュヒットとなった「煙草のけむり」などのオリジナルもむろん素敵ですが、ジョニ・ミッチェル「青春の光と影」、キャロル・キングの「YOU'VE GOT A FRIEND」「IT'S TOO LATE」、ロバータ・フラックの「やさしく歌って」といったカバーが絶品。ライブ盤とは思えないほどのクオリティです。
　歌唱力というか、ボーカリストとしての安定性という点でも、同時代の女性シンガー・ソングライターでは群を抜いています。それは、めったに人を褒めない印象があった淡谷のり子先生に歌唱を絶賛されたことでも分かりますよね。
 
　75年3月の「 本当のことを言えば」は、ザ・セクションのリーランドスクラー、クレイグ・ドーギーやラリー・カールトンら、アメリカでのアルバム制作に参加したメンツを呼んで行ったジァンジァンのライブ盤。
　ひとつの世界をスタジオレコーディングで完成させて、それをライブレコーディングで披露する、というのも五輪さんのパターンと言えそうですが、世界で一流とされるミュージシャンと臆することなく渡り合うなんて、20代前半の女の子にできることじゃないですよね。ましてあの時代に。
　コラージュのアートワークも素敵ですが、一見ライブ盤と思えないジャケットも初期の特徴でした。
 
　そして、中野サンプラザのライブ盤「 The SHOW Best Concert Album'75」。五輪さんのアルバムの中ではなぜか唯一未CD選書化だったため、なんと87年以来のCD化となります。
　出色なのは、何と言っても洋楽カバー（アナログではA面）。ジャニス・イアンの「ジェシー」をはじめ、スティーヴィー・ワンダーの「オール・イン・ラブ・イズ・フェアー」、ブレッドの「ベイビー・アイム・ア・ウォント・ユー」、ジョニ・ミッチェルの「ビッグ・イエロー・タクシー」など、選曲もセンスが光っております。
　自身のヒットメドレーも圧巻ですし、なんと西田佐知子の「アカシアの雨が止む時」も歌っており、ボーカリストとしても一流であることを証明する1枚といえるでしょう。
 
　という五輪さんの70年代アルバム復刻。日本の女性シンガー・ソングライターの草分けであることには違いないですし、日本のみならずアジア諸国にも根強いファンがいますが、「恋人よ」以降は初期の作品は語られることも少なくなってしまっているような気がします。今回の復刻で、正当な再評価が進むことを願っております。