松本隆＋筒美京平が片面5曲を担当！

　もはやブームを超えたムーブメントとして定着した、ジャパニーズ・シティポップ。
　いくら薀蓄をまくしたてられようが、何度再定義されようが、かつて“シティー・ポップス”と呼ばれていた音楽に親しんでいた身からすれば、全く別物となったようで、狐につままれたような感覚になることもしばしば。
 
　思えば、70年代半ばに言われてたシティー・ポップスとは、隆盛を誇っていた私小説・叙情派フォークの対義語のようなイメージでした。
　誤解を恐れず言うならば、当時いろんなメディアからイモやカッペと呼ばれていた田舎者が、四畳半一間のアパートでの生活を歌うのがフォークだとしたら、お洒落なマンションに住むシティボーイやシティーガールたちが恋愛を歌うのがシティー・ポップス。つまりシティー・ポップスとは、おニューなミュージックと呼ばれる都会派の新感覚ポップスで、メジャーではその先鋒が荒井由実だった…という感じでしょうか。
 
　とはいえ、毎度申しておりますように、シティポップブームのおかげで、ずっと復刻されなかったアルバムがようやくCD化されたり、入手困難だった音源が発掘されたりするのは大歓迎。それが廉価盤ならば、もう言うことはありません。
 
　と前置きが長くなりましたが、コレは、ご存じユニバーサルミュージックの「CITY POP Selections by UNIVERSAL MUSIC」シリーズのお話。早いもので 第３弾のリリースが発表され、今回は14アーティスト全25タイトルに加え、SACDハイブリッド盤3タイトル、アナログ盤3タイトルが同時発売されるそうです！ 
 
　今回は、CDがSOY、門あさ美、SPANK HAPPY、大橋純子＆美乃家セントラル・ステイション、SMOOTH ACE、村田和人、EPO、山本達彦、山梨鐐平、桐ヶ谷仁、松尾清憲、荒井尚子、鮎川麻弥、大空はるみ。SACDハイブリッド盤が間宮貴子、野口五郎、佐藤博、アナログ盤がザ・キングトーンズ&マリエ、大空はるみというラインアップ。
 
　80年代後半から90年代を中心に2000年代も含むようなので、これまで 第1弾でハイ・ファイ・セット（ こちらで紹介）、 第2弾 ではポニー・テール（ こちらで紹介）を紹介してきた当サイトとしてはスルーするべきか悩みましたが、昔からの愛聴盤もリストに上っておりましたので、ご紹介することにいたしましょう。
 
　それが78年発表、大橋純子＆美乃家セントラル・ステイションの「 FLUSH＜限定盤＞」。 
　ヤマハ出身の純子さんは74年、日本フォノグラム・フィリップスレコードから森山良子さんを育てた本城和治さんプロデュースのもとデビュー。
　スタートは洋楽志向で、小柄ながらダイナミックなボーカルテクニックで、本城さんが目指した世界に通用するポップスを展開。パートナーの佐藤健さん率いる美乃家セントラル・ステイションがサポートするなど、サウンド的にも玄人受けしていた純子さんですが、76年の松本隆作品「ペイパー・ムーン」がスマッシュヒットしたものの、ブレイクを果たしたのはモロ歌謡曲。言わずと知れた阿久悠＋筒美京平コンビによる「たそがれマイ・ラブ」がきっかけでした。
 
 　このアルバムはその直後にリリースされたもので、シングル「サファリ・ナイト／火のように水のように 」をフィーチャーした全10曲。
　シングル盤と同じく、Ａ面がサトケンさんをはじめとする美乃家セントラル・ステイションのメンバーによる作品、B面が松本隆＋筒美京平コンビの作品でまとめられていて、かつてのファンもブレイク後のファンも、どちらも満足できるバランスの取れた内容に仕上がっています。
 
　純子さんの黒っぽいフィーリングは筒美先生が大いにお気に召すポイントのような気がしますが、このアルバムでは作曲のみならず編曲も筒美先生が担当しておられるのが特徴。そういう観点からのオススメは「ディープ・ソウル」。元ネタが何なのかは存じませんが、メロディーには岩崎宏美さんの「ミスター・パズル」、アレンジには太田裕美さんの「クリスタル・ムーン」と、同年、筒美系ディーバのダブルヒロミで用いたフレーズが再利用されております。
 
　昨年の「～筒美京平 オフィシャル・トリビュート・プロジェクト～ザ・ヒット・ソング・メーカー 筒美京平の世界 in コンサート」にも参加した純子さん。ご自身は、歌謡界に身を置くことになって当時は苦痛だったけれど、今日まで長く活動できるのは「たそがれマイ・ラブ」のおかげとおっしゃっていましたが、フォークと歌謡曲、ロックと歌謡曲の融合を得意とした松本＋筒美コンビの作品は、今聴くといわゆる歌謡曲とは一線を画していますよね。
　CDとしても何度も再発を繰り返したアルバムなので、レア盤ではありませんが、この機会にまた多くの人に聴かれるようになればと思います。