東芝EMI時代後期の2作がシティポップ認定！

　もはやブームを超えたムーブメントとして定着した、ジャパニーズ・シティポップ。
　確かに、何でもかんでもシティポップと銘打ちゃいいというような風潮や、再定義を繰り返されるごとに余計に定義づけられない感じがすることもありますが、毎度申しておりますように、ずっと復刻されなかったアルバムがようやくCD化されたり、入手困難だった音源が発掘されたりするのは大歓迎。それが廉価盤ならば、もう言うことはありません。
 
  特にユニバーサルの「CITY POP Selections by UNIVERSAL MUSIC」シリーズは、ビクターの「シティポップ名作選」（ こちらなどで紹介）やソニーの「ALDELIGHT CITY POP COLLECTION」（ こちらで紹介）と比べても、税抜き1,500円と格安。90年代の日本レコード協会を挙げてプッシュされた廉価復刻企画・Q盤シリーズの最低価格帯と同じなのですから驚きです。ユニバーサル傘下で言うならば、東芝EMIで展開された音蔵（OTOGRA Sound Graffiti）シリーズよりも安いのですぞ。
 
　さて、シリーズ 第4弾となる今回のラインナップは、南佳孝、鈴木康博、大橋純子、尾崎亜美、高野寛、中原めいこ、鈴木トオル、山本達彦、ブレックファースト・クラブ、久保田洋司、井上鑑、友井久美子、川島なお美、伊藤薫、かとうはつえ、ザ・キングトーンズ、ROUND TABLEという面々の全25タイトル。70年代後半から90年代まで範疇に入っております。
　シンガーよりもソングライターとして名曲を連発した伊藤薫さんの「 君への道＜限定盤＞」、渡辺真知子さんや杉真理さんも楽曲提供した川島なお美さんの「 銀幕のヒロイン＜限定盤＞」など、久々のCD再発となるタイトルや、南佳孝さんが元祖シティポップ、シティミュージックの生みの親・高久光雄プロデューサーとのコンビを復活させたアルバム「 ANOTHER TOMORROW＜限定盤＞」の初再発など、初CD化も含めピックアップしたいものも多数ですが、こちらとしては、第1弾ではハイ・ファイ・セット（ こちらで紹介）、 第2弾ではポニー・テール（ こちらで紹介）、そして第3弾では大橋純子さん（ こちらで紹介）というように、シティポップの名盤云々というより、聴き飽きることのない愛聴盤という感じでご紹介してまいりましたので、今回もそういうポイントでオススメしたいのが、尾崎亜美さんの「 PRISMY＜限定盤＞」と「 LITTLE FANTASY＜限定盤＞」。
 
　亜美ちゃんといえば昨年デビュー45周年で、これらを含む東芝EMI時代のアルバムをSHM-CDでコンプリートしたBOX「AMII OZAKI EARLY YEARS ALBUM BOX」（ こちらで紹介）がリリースされたばかりですし、単品でもこれまで何度も復刻されてきてはいますが、今回は単品廉価の再発ですし、初期5作の中では、なかなか言及される機会がなかった2作だと思いますから、やっぱりオススメしておきましょう。
 
　シティポップスという点で亜美ちゃんを振り返れば、まさにデビューした時から申し子的存在だったといえるワケなんですけど、それはもちろん“第二のユーミン”として売り出された経緯を見れば一目瞭然。
　何せ76年は、荒井由実の大ブレイクで、フォークとは一線を画すおニューなミュージックやシティー派のポップスに注目が集まった年。そのタイミングでユーミンと同じ東芝EMI・エキスプレスレーベルから松任谷マンタさんのプロデュースでデビューしたのですから、まさにオフィシャルなポストユーミンだったワケです。バックミュージシャンもティンパン系メンバーだったので、後に小原礼夫人にならなかったとしても、ユーミンと共にSKYEの歌姫になるのは当然ですよね。
 
　第二のユーミンという惹句の通り、亜美ちゃんがブレイクするのはユーミンが結婚休業で不在となった77年、大抜擢された資生堂のキャンペーンソング「マイ ピュア レディ」ですが、翌年、同じ資生堂枠で南沙織に書いた「春の予感 -I've been mellow-」を皮切りに作家としての活動もスタート。金井夕子や杏里、高橋真梨子、桜田淳子、榊原郁恵をはじめ、80年代には岩崎良美、松本伊代、松田聖子、岡田有希子らいろんな歌手に後世に残る名曲を提供し、作家としても引く手あまたの人気を誇ることになるワケですが、そんな流れもポストユーミンっぽい雰囲気があります。　
 
　と前置きが長くなりましたが、よくユーミンと比較され、ユーミンにも可愛がられてきた亜美ちゃんですが、その資質は全然違いますし、それは今回再発されるアルバムでは特に歴然としております。
　今回の2作は、マンタさんプロデュースの初期2作を経て、初のセルフプロデュースによるサードアルバム「STOP MOTION」に続くもの。
 
　「春の予感 -I’ve been mellow-」をきっかけに自らアレンジまでを担当するようになり、曲作りの際にはサウンドまでを構築するようになった亜美ちゃん。次第にアコースティックからエレクトリックなポップサウンドへと移行していくのですが、78年11月リリース、先行シングル「あなたはショッキングシャイン」を含む「 PRISMY＜限定盤＞」は、そんな過渡期のアルバム。シンセサイザーを使った亜美流ポップサウンドの萌芽といえる好盤です。レーベルメイトであり、担当ディレクターが同じだったオフコースの小田さんと鈴木さんがコーラス参加しています。
　オススメは当時の提供作のセルフカバー、すなわちキャニオンレコードの新人、金井夕子さんのデビューにあたって書いた「パーフェクト ゲーム」と、当時はビクター・インビテーションレーベルへと移籍し洗練されたアダルトポップスを展開していた伊東ゆかりさんに書いた「テンダーレイン」。イチオシは「テンダーレイン」で、ゆかりさんへの提供時にはアレンジャーを務め、亜美盤にはギタリストとして参加した鈴木茂さんの技を聴き比べてみるのも一興です。
 
　そして、「ジェシー」「スローダンシング」という2枚のシングルを収録し、79年10月に発表された「 LITTLE FANTASY＜限定盤＞」は、東芝EMI時代最後のアルバム。
　この後、亜美ちゃんは金井夕子作品で出会ったキャニオンの渡辺有三プロデューサーとの縁からレコード会社を移籍し、岩崎良美や岡田有希子のポップな名曲群を手がけていくワケですが、このアルバムではそれが種まきされているといっても過言ではないかもしれません。
　胸キュンキャッチーなマルイのCMソング「FOR YOU」で幕を開けますが、全体的にはELOを意識したかのようなエレクトリックポップな味付けがなされていて、まさに80年代のキャニオン時代へと続く滑走路のよう。セルフカバーとしては、ハイ・ファイ・セットに提供した「RAIN WALTZ & LOVING YOU」が収録されています。
 
　という、メーカーとしてオフィシャルにシティポップ認定された東芝EMI時代後期の2作。セールス的な理由も大きかったでしょうが、ソフトメロウな再評価の高い初期に比べ、あまり日の目を見てこなかったタイトルですので、この機会にじっくり聴く人が増えることを願っております。ユーミンと並んでとまでは申しませんが、亜美ちゃんはもっともっと高く評価されてしかるべき存在ですのでね。