松本＋筒美コンビの4thがSACDハイブリッド化！

　タワーレコードとステレオサウンドとのコラボによるSACDハイブリッド盤復刻といえば、これまでに岩崎宏美さん（ こちらなどで紹介）や河合奈保子さん（ こちらなどで紹介）などのアルバムがリリースされてきましたが、今度はミポリンこと中山美穂さん。
 
　3タイトル同時発売ということでチョイスされたのは、角松敏生提供曲を含む「 SUMMER BREEZE (+4)＜タワーレコード限定/完全限定盤＞」、松本隆＋筒美京平コンビによる4th「 EXOTIQUE (+2)＜タワーレコード限定/完全限定盤＞」、角松敏生プロデュースによる6th「 CATCH THE NITE (+3)＜タワーレコード限定/完全限定盤＞」。昨今のシティポップブームを背景にした角松まつりの様相を呈していますが、ウチとしてはやっぱり「 EXOTIQUE (+2)＜タワーレコード限定/完全限定盤＞」！
 
　なんたってミポリンは、松本隆＋筒美京平というゴールデンコンビでデビューを飾ったアイドルですのでね。
 
　ということで、過去のコピペで紹介しますと…ゴールデンコンビとの関係をひもとくとミポリンが14歳で登場したデビュードラマ「毎度おさわがせします」の主題歌は、松本隆＋筒美京平コンビによるC-C-B「Romanticが止まらない」で、当初から松本さんはミポリンに詩を提供したかったという逸話が残っておりますが、最初は筒美先生ではなく林哲司さんが予定されていたのだとか。
　結局は松本さんが筒美先生を口説き落とし、2人のコンビでデビュー曲「『Ｃ』」から「生意気」「BE-BOP-HIGHSCHOOL」という3部作が完成。続く3作を飛ばして、再び「ツイてるねノッてるね」「WAKU WAKUさせて」「『派手!!!』」という3部作でコンビでの楽曲提供は完結しました。
 
　そんなミポリンとゴールデンコンビとのタッグで集大成といえるのが、1986年12月リリース、全曲を松本＋筒美コンビが手がけた4thアルバム「 EXOTIQUE (+2)＜タワーレコード限定/完全限定盤＞」。
　大ヒットシングル「WAKUWAKUさせて／ハートのスイッチを押して（SWITCH ON）」をフィーチャー、タイトル通り、異国情緒をコンセプトにしたアルバムです。
 
　アレンジは、打ち込みでは筒美先生が全幅の信頼を置いた船山基紀さんで、当時最新サウンドとして一世を風靡しようとしていたユーロビートがベース。70年代後半の筒美先生が得意としたエキゾチック歌謡を、80年代後半の流行で刷新したというようなメロディーも流麗だし、ミポリンのまだ青い若さをぶつけた歌唱もとってもフレッシュですが、ここで注目すべきはやっぱり松本さんの詩でしょう。
 
　日本、香港、インドといったアジアから、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ大陸へ、世界を舞台に繰り広げられるのは、古今東西の名画的なラブ・アフェア。それは、シンガポールの船を横目に寝椅子で夕陽を見てた第2弾シングル「生意気」の世界観、すなわち耽美でコケティッシュな処女的娼婦とでもいうべき世界を大きく広げた印象です。
 
　松本さんというと、どうしても太田裕美や松田聖子、斉藤由貴らカマトト系ディーバの印象が強く、乙女チックの権化みたいなプラトニックイメージがありますが、実は妖艶でエロティックな世界もお手のもの。
　むろんそこには松本さんならではの品格がありますので見過ごされがちなのですけれど、風街フリークとしては、中原理恵に書いた傑作「夢つれづれ」（こちらで紹介）を頂点に、倒錯的、猟奇的な類いのモノすら大層お得意ではないかと感じたりしています。
 
　で、このアルバムで松本さんがミポリンに用意したのは、生娘の舞から始まって、イメージプレイに耽るセレブガール、制服の美少年を誘惑する年増女、カーニバルで欲情する踊り子、生死を見つめガンジス川のボートに横たわる女などを主役にした、10本の映画的な脚本。
 
　「毎度おさわがせします」でツッパリ少女・のどかを演じたミポリンに、「タクシー・ドライバー」のジョディ・フォスターや「プリティ・ベイビー」のブルック・シールズを重ねて見ていたのかは存じませんが、オトナの情事を懸命に真似ようとするような年端もゆかぬ少女の仕草といいますか、まさにアクトレス・シンガーとしての力量を問うている気がします。
　対するミポリンも、流石の振る舞い。少女趣味を持つ老紳士の期待に応えるかのように、かなり際どく迫っているのです。
 
　おそらく、松本さんが可能性を感じたのは、中山美穂の女優としての資質。歌手本人のビジュアルイメージに沿って楽曲が決まるアイドルではなく、最初かられっきとしたアクトレス・シンガーであったことを見込んでのプロデュースだったように思いますが、その感覚が的確だったことを確認できるアルバムといえるのではないでしょうか。
 
　今思うと、世界を股にかけた詩世界は映画的過ぎて、まるで絵空事のような世界に思う人もいるかもしれませんが、バブリーな時代の感覚では意外とリアルだったりして。
　例えばその3年前、聖子の「マイアミ午前5時」や「セイシェルの夕陽」など、ため息をつきながらページをめくったグラビアのバカンスですら、普通の女の子が学生旅行で出かけられるようになったワケですしね。
　ちょっとかわいくてコネのある女の子なら、金に糸目を付けないスポンサーを見つけるのは造作なかった時代、みたいな雰囲気も味わえそうな、今となってはある意味貴重なアルバムといえそうです。
 
　ちなみに、今回のSACDハイブリッド盤には、12インチシングル「WAKU WAKUさせて」のロングバージョンとインストゥルメンタルをボーナストラックとして追加収録。
　最新リマスタリングには、オリジナルの録音に携わったエンジニア内沼映二さんをサウンド・スーパーバイザーに迎えているそうで、録音当時のサウンドをよりリアルに再現しているとか。
　よって既発のCDをお持ちの方にもオススメしますし、完全生産限定盤なので入手はお早めに！
 
　また、これを機会に、ミポリンの軌跡を追うなら2020年のオールタイム・シングルベスト「All Time Best」（ こちらで紹介）がお手軽です。コレクター心に火がついた方は、2015年のデビュー30周年時にリリースされたシングル復刻BOX「 30th Anniversary パーフェクト・シングルズ・ボックス ［40CD+DVD］＜完全限定盤＞」（ブックレットの導入の一文を担当させていただいております）もまだ入手可能のようですので、併せてどうぞ。
 
　なお、今月には香港のレーベル・Neoncityより、Night Tempoのリエディット盤のヴァイナル「 Miho Nakayama Night Tempo presents The Showa Groove」がリリースされるとか。ユーロビートもシティポップの範疇だというのはリアル世代にとって正直違和感があるのではないかとお察ししますが、こうして再評価されることはむしろ大歓迎な出来事だと思いますので、往年のファンとともに盛り上がっていけたらいいですね。