アルバムアーティスト、真理ちゃんのヴァイナル！

　折からのシティポップブームに牽引されるように、空前のヴァイナル礼賛はまだまだ続いておりますが、今や特に“和モノ”ともてはやされる盤でなくともすんなりヴァイナル化されるのが当たり前となっています。
 
　そういう意味では、先日ソニーミュージックの「GREAT TRACKS Order Made Vinyl（グレイト・トラックス オーダーメイド・ヴァイナル）」で商品化が実現したシンシア（南沙織）の90年代のアルバム２作「MATURITY」「Art of Loving」（ こちらで紹介）が最たる感じでしたが、シンシアと並ぶ新三人娘の一人、天地真理さんも、ベスト盤ではありますがヴァイナル化が決定いたしました！
　意外に思う人は多いかもしれませんが、全盛期はシングル盤のみならずLP盤も、レコードというレコードがバカ売れした真理ちゃんですから、ヴァイナル企画は当たり前といえば当たり前といえるでしょう。
　それが、昨年のデビュー50周年を記念して新編集されるベストLP「 Love In Blue 天地真理 50th Anniversary＜完全生産限定/透明水色レコード＞」。
 
　デビュー曲「水色の恋」にちなんでクリアな水色のカラーレコードで、ピクチャーレーベルというアイドル仕様となるようですが、真理ちゃんのLPレコードが出るのは、1980年、「初恋のニコラ」が新曲だった頃の「THE BEST 天地真理」以来、42年ぶり。
　今回もベスト盤ということで、「水色の恋」から「木枯しの舗道」までのシングルA面に、デビュードラマ「時間ですよ」でマチャアキとデュエットした「涙から明日へ」のソロバージョン、ヒットはしませんでしたが名曲として根強い支持を受ける筒美京平作品「矢車草」という14曲がセレクトされています。
 
　音作りにもこだわり、ディスクカッティングは、かのバーニー・グランドマン御大が担当。ウエストコースサウンドを意識したそうですが、当時のアナログシングルはAMラジオで最も映える音質でマスタリングされており、真理ちゃんの場合はキャンディーズと同様、中曽根ディレクターの意向でそれがより顕著だったそうなので、今回の音質にも大いに期待です。
 
　さて、オリコンでは「ちいさな恋」「ひとりじゃないの」「虹をわたって」「若葉のささやき」「恋する夏の日」と、シングル5曲が1位獲得という当時としては史上空前だった記録を持つ真理ちゃんですが、特筆すべきはLPレコードの突出した売り上げ。特に当初はアイドルではなくフォーク歌手としてのスタートだったこともあり、世代を超えた支持を集めていたのです。
  
　その証拠に、72年のオリコンLPチャートでは、フォーク志向全開のファースト「水色の恋／涙から明日へ」、歌謡ポップスも視野に入れシフトしたセカンドの「ちいさな恋／ひとりじゃないの」、そしてベスト盤「ギフト・パック」の3作で1位を獲得。しかも1年のうち通算23週にもわたり首位を独占しているのです。
　毎週1位が入れ替わる時代になってからは嘘のような話ですが、72年の同チャートで首位を獲得したLPは洋楽を含みたったの8作で、そのうち3タイトルが真理ちゃんだったというのは驚異的。
　特に子どもに愛され、さまざまなキャラクターグッズが作られるなど社会現象的なアイドルへと変化してしまったせいで誤解されがちですが、少なくとも初期の天地真理はルックスやキャラクターを第一にしたアイドル歌手ではなく、フォーク系の本格的な歌手として幅広い世代に支持されていたのですね。
 
　シングルはともかく、LPはオトナの鑑賞にたえうるものしか売れなかった時代です。もっと言うなら、70年代のオリコンLPチャート1位の獲得作品数（5作）で、真理ちゃんはサイモン＆ガーファンクル、よしだたくろう（吉田拓郎）、かぐや姫と並び同率１位。１位獲得週数を鑑みるとサイモン＆ガーファンクルに次ぐ2位をマークしているのです。
　陽水でもない。カーペンターズでも、さだまさしでも、ユーミンでも、小椋佳でもない、この実績。まさに天地真理こそ、今日のヴァイナル化にふさわしい国内アーティストといっても過言ではないでしょう。現に、発売元のソニー・ミュージックレーベルズ レガシープラスにとっても、真理ちゃんは邦楽初のオリコン1位獲得アーティスト（72年）なのですから。 
 
　ということで、これをまた新たなきっかけとして、真理ちゃんの正当な再評価が進むことを願っております。
　CDでは、2006年に出た全音源BOX「天地真理 プレミアム・ボックス」（ こちらで紹介、解説を担当させていただいております）、2018年の最新BOX「天地真理／私は歌手」（ こちらで紹介、ご本人インタビューコメントや解説を担当させていただいております）ともに現在も入手可能ですので、未聴の方やあらためて聴いてみようという方がいらっしゃいましたら、ぜひご入手のほどよろしくお願いします！