歌手生活の古希を記念したオールタイムBOX！

　来年2023年で歌手生活70周年、レコードデビュー65周年を迎える伊東ゆかりさん。
　何せ1950年代の進駐軍の時代から始まって、それぞれの時代でブレイクを果たし、豆ジャズ歌手、少女スター、イタリアに愛された東洋の神秘、渡辺プロの看板タレント、大学生のアイドル、憧れの主婦などなど、さまざまな代名詞を持つほど脚光を浴びてこられたワケですから、今さらながらその長いキャリアと見た目のお若さのギャップに驚くばかりですが、現在ももちろん現役。
  しかもソロとしての活動はもとより、今年は中尾ミエさん、園まりさんとの3人娘が結成60周年とのことで、来月の「『徹子の部屋』コンサート」にも出演と、精力的な活動を続けていらっしゃいます。
 
　どんな歌でもパーフェクトに歌いこなす歌唱力は誰もが認めるところですし、レコード会社もキング、コロムビア、ビクター、TDKコア、アルファ、ユニバーサル、BMGファンハウス、徳間ジャパンと多岐にわたり、ヒット曲も多数。
　歌のジャンルも幅広く、終戦後は洋楽全般を指していたジャズから始まって、アメリカンポップスやカンツォーネ、フレンチポップスなどのカバーポップス、日本の職業作家による和製ポップスや歌謡曲、シンガー･ソングライターによるニューミュージックやアダルトポップスなどなど、日本の流行歌の歴史を体現してきたと言っても過言ではないでしょう。
 
　しかも、それぞれのジャンルで代表曲を持つという、日本では珍しいタイプのシンガー。それは、近年の再評価ムーブメントを見ても一目瞭然。ソフトロック、昭和歌謡、シティポップと全てのブームで全く別の作品が挙がっているのは彼女だけですよね。
　ただ、圧倒的なキャリアと実績を誇るも、ご本人の淡々とした性格のせいか、一歩引いた姿勢のせいか、しっかりとした正当な評価はされてこなかったような気がします。
 
　そんなところに登場するCD-BOX「 ポップス・クイーン～オールタイム・シングル・コレクション～ 」は、まさに彼女の歌手としての魅力を余すところなく伝える初めてのオールタイムBOX。レコード会社の垣根を超えた彼女史上最大の6枚組138曲というスケールで、歌手生活の軌跡をしっかりと追えるものとなっています。
  
　ちなみに、これまで、ゆかりさんのキャリアをまとめたBOXといえば、2003年に出たキング時代の5枚組「伊東ゆかり CD-BOX」と、昨年リリースされたばかりのコロムビア時代の4枚組「 伊東ゆかりコロムビア・レコーディングス」という通販限定2種で、それぞれの所属時代に限ったものだけ。
　ビクター時代以降のシングルは2004年の2枚組CD「 GOLDEN☆BEST 伊東ゆかり シングル・アンド・ポップス・コレクション」に収録されましたが、今回のように全部が一堂にそろうのは初めてのことなのです。
 
　今回のBOXのコンセプトは、レーベルを超えた初のオールタイム・シングル・コレクション。
　キングレコードのキング＆セブン・シーズ（47枚）、日本コロムビア・デノン＆コロムビア（22枚）、ビクター・インビテーション（6枚）、TDKコア・TDKレコード（2枚）、アルファ（9枚）から出たシングル全86枚（イタリア発売盤や配信シングルは除く）のA面曲を完全網羅。
　加えて、よく知られたカップリング曲、イレギュラーな企画シングルや非売品シングル、元夫の佐川満男さんや小堺一機さんらとのデュエットシングルなども補完。
　さらには、ステージでの人気曲など彼女のキャリアを語るのに欠かせない重要曲や、長らく入手困難となっていたレア曲、初CD化＆初商品化音源も追加と、コアなファンも見逃せない内容となっています。
 
　初商品化音源としては、ヤマハの「合歓ポピュラーフェスティバル」のライブ音源3曲。初CD化曲としては、味の素のCMソングとして制作された非売品シングル「私の小さな旅（ユーバン）」と、司会を務めたTBS「サウンド・イン“Ｓ”」のレコード化としてリリースした松崎しげるさんとのデュエット「ラビング・アームズ（愛をつないで）」の2曲。
　レア曲としては、長らくお蔵入りとなっていたものの、2019年公開の映画「火口のふたり」の挿入歌として日の目を見た下田逸郎作品「早く抱いて」や、さくらももこの漫画「ちびまる子ちゃん」のイメージアルバムから矢野顕子作曲の「夜の旅」などが入っています。
 
　ブックレットも144ページと豪華で、デビュー時から近年までの写真が満載されているほか、約45,000字による詳細なヒストリー＆解説（僭越ながら担当させていただいております）のほか、ゆかりファンを公言しているクリス松村さんとの対談、同じくゆかりファンの半田健人さんによるマイ・ベスト・テンなど、読み物も充実。記念アイテムとしての価値もかなり高いと思っております。
  　なお、 Sony Music Shop のみのオリジナル特典として、先着で直筆サイン色紙が付くそうですので、ご予約はお早めに。
 
　個人的には、このBOXでゆかりさんの再評価がさらに高まり、ビクター時代のアルバムの復刻へとつながることを祈っております。
　キング時代はCD黎明期から、コロムビア時代も70年代のニューサウンズ「LOVE」（ こちらで紹介）や筒美京平作品集の「ふたたび愛を～伊東ゆかり･筒美京平 LOVE SOUNDS」（ こちらや こちらで紹介）を主軸に再評価され、最近は両社の音源の紙ジャケ復刻も進んでいますが、ビクター時代はソフトメロウの流れで復刻された「ミスティー・アワー」（ こちらで紹介）以外はサッパリなんですから。
 
　これを機に、CD化が進んでいないビクター時代にもスポットが当たり、「yukari あなたの隣りに」「あなたしか見えない」「素描(Sketch)」「愛する嘘を知ってますか。女に関する10章」といった残りのアルバムも復刻されますように。当時もセールス的には今ひとつでも、「サウンド・イン“Ｓ”」効果で学生に支持されていた時代につき、レンタルレコードではかなりの人気だったように記憶していますから、好事家ばかりじゃなく、懐かしんで聴きたいという人も結構多いのではないかと思っています。