作詞活動40周年記念、自選集再発&続編登場!
そういえば1999年の30周年からもう10年も経つのですね。何がって、最近もKinKi Kidsの「スワンソング」を筆頭に、冨田ラボや秦基博とのコラボ、ホソノさんと組んだ中川翔子「心のアンテナ」など、新曲を発表し第一線で活躍を続ける松本隆さんのことですよ。
5年前にははっぴいえんどメンバーとの作品集「 風街クロニクル~another side of happy end~ 」が、2年前には松本フリークの著名人がセレクトした2タイトル「 松本隆WORKSコンピレーション「風街少女」 」「 松本隆WORKSコンピレーション「風街少年」 」が出ておりましたが、このたび作詞活動40周年記念企画として、ソニー発30周年記念BOX「風街図鑑 1969-1999」の続編となる2枚組ボックス「 新・風街図鑑 」が発売されることとなりました。
1969年から2009年まで、膨大なナンバーの中から松本さん自身が選んだ34曲を収録ということですが、先のボックスとはダブらないのだとか。ということは、前のボックスを補完するアップデート盤じゃないですか! ファンへの配慮もしっかり感じられ、おサイフにも優しい必携アイテムと言えましょう。
さらに、前回同様、縦書きの素敵な詩集ブックレットには、ご本人による各曲解説やジャケ写はもちろん、ゆかりの歌手(今回はしょこたんやクミコなど)からのコメントも掲載されるとのこと。松本さんらしい趣味のいいパッケージとともに、大いに期待したいところです。
ちなみに収録予定曲はと言いますと、松田聖子「哀しみのボート」、KinKi Kids「薄荷キャンディー」、水谷豊「やさしさ紙芝居」、飯島真理「夢色のスプーン」、竹内まりや「象牙海岸」、太田裕美の「さらばシベリア鉄道」、薬師丸ひろ子のわくわく動物ランド「すこしだけ やさしく」、神田広美「ドンファン」、ミポリンの「WAKU WAKUさせて」、金沢明子「イエローサブマリン音頭」、中森明菜「二人静〜天河伝説殺人事件より」、クミコ「接吻」、藤井隆「代官山エレジー」、中川翔子「綺麗ア・ラ・モード」などなど、ヒットしたしないにかかわらず、アーティスト、作曲家ともに新旧の松本ファミリーがずらり。
自らが主宰する風待レコードからも、キャプテンストライダム「風船ガム」やKAYO「三つ編みヒロイン」がチョイスされています。
どの詩を聴いても読んでも、唸ってしまうこと請け合い。優れたストーリー性はもちろん、センスの光る小物づかい、比喩が見事な情景や心理描写…松本さんの腕前が抜きん出ているのは誰もが認めるところですが、大瀧御大らはっぴいえんどの盟友をはじめ、ゴールデンコンビと謳われた筒美先生、見事な聖子ユニットを形作ったユーミンなどなど、松本さんが書いた文字を風に乗せて運んだ作家陣も素晴らしいことが実感できるでしょう。
松本さんの哀しみにペン先を浸して書いた詩が好きなワタシですから、この中では、10年前の聖子復活作「哀しみのボート」がイチバン。やはり松本さんと聖子の間には神がかり的な絆が存在していると思いますので、またいつか新作が聴けるといいなあ。
また、アグネス・チャンをきっかけに子どもの頃から松本さんの詩に憧れ、作品たちによって情緒を育まれてきたワタシにとっては、そのアグネスや、松本さんの詩世界表現では殿堂入りだと思う斉藤由貴が入っていないのが残念だったりしますけど…。
ニューミュージック系のアーティストに深みと陰影を与えたり、アイドルに知性と感受性を授けたり、歌謡界に大いなる遺産を残してきた松本さん。ワタシがずっと感服してきたのは、独自の美しく鋭い語感とリズム、そしてそれにふさわしい言葉の選び方です。時にはさらさら流れるように、時にはビートを刻むように、インパクトの強い言葉をあえて選ばず、それぞれの言葉を立たせすぎることもなく、みたいな。きっとドラマーとしての経験が生かされているせいでしょう。
だからこそ、流して聴いている者にも物語がしっかり分かるのですね。まるで読み聞かせのように、理解を伴って胸にしみこんでゆく歌たち。これは松本さんのお家芸だし、日本のうたの歌詩を物語へと昇華させたパイオニアだと思っています。
また、ロック出身の東京っ子ならでは、ヤングな大衆文化を軸に大衆よりは一歩先ゆくトレンディーさというか、そういうオシャレな響きにも憧れたものです。
なお、今回の続編リリースにあわせ、7枚組30周年BOX「風街図鑑 1969-1999」完売後に出ていた3枚組通常盤2種も廉価版で再発。それが、ヒット曲を集めた“ザ・グレイテスト・ヒッツ50”の風編「 風街図鑑 風編 」と、ご本人が偏愛する“マイ・フェイヴァリット・ソングス50”の街編「 風街図鑑 街編 」ですが、それぞれ当時より900円もプライスダウンされておりますので、10年前に入手されなかった方はこの機会にぜひどうぞ。
ワタシもこの機会に再聴し、松本さんが描いた気弱でナイーブな少年性と利己的で魅力的な乙女性をはじめ、ある意味精密機器のような才能や、衰えることなく現役の作詩家であり続ける人間的姿勢など、憧れてやまない世界をあらためて満喫させていただこうと思っています。
(2009.10.6)