ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#877
中島みゆき オリジナルアルバム18タイトル HQCD
2018.3.7発売…私の声が聞こえますかYCCW-10317)・みんな去ってしまったYCCW-10318)・あ・り・が・と・うYCCW-10319)・愛してくれと云ってくれYCCW-10320)・親愛なる者へYCCW-10321)・おかえりなさいYCCW-10322)・生きていてもいいですかYCCW-10323)・臨月YCCW-10324
2018.4.4発売…寒水魚YCCW-10337)・予感YCCW-10338)・はじめましてYCCW-10339)・御色なおしYCCW-10340)・miss M.YCCW-10341
2018.5.2発売…36.5℃YCCW-10342)・中島みゆきYCCW-10343)・グッバイガールYCCW-10344)・回帰熱YCCW-10345)・夜を往けYCCW-10346
*各¥3,000+税、HQCD

1976~90年のリマスタオリアル18作が単品再発!

 昨年は、大きな話題を振りまいた昼ドラマ「やすらぎの郷」の主題歌を歌うとともにカメオ出演。その主題歌「 慕情 」はオリコン8位、有線放送チャートでは1位を獲得。11月に出た収録アルバム「 相聞 」はオリコン4位をマークと、第一線で活躍を続ける中島みゆきサン。
 
 先日、「夜会」のダイジェスト版コンサートツアー「夜会工場」VOL.2を拝見しましたが、歌声やMCにもますます磨きが掛かり、衰えることのない意欲を感じたものですが、このたび1976年のデビューアルバム「私の声が聞こえますか」から1990年の「夜を往け」までのオリジナルアルバム18作品が、高音質CD・HQCDとして単品再発されることになりました!
 
 瀬尾一三プロデューサーが監修、LAの名エンジニア、トム・ベイカーがリマスタリングした音源によるもので、2012年に通販限定で企画された「中島みゆき BOX 私の声が聞こえますか~臨月」( こちらで紹介)と、その続編として2014年に出た「中島みゆき BOX2 寒水魚~夜を往け」」( こちらで紹介)の単品発売となるもの。
 とはいえ、みゆきサンのオリアルは2008年に35タイトルが紙ジャケ再発( こちらで紹介)されているものの、リマスタリングされていない音源でしたから、単品で欲しい、買い換えたいと思っていた人には朗報ではないでしょうか。
 
 単品旧譜のリマスタリングといえば、これらの再発の元になったクリスタル・ディスクがありましたが、あれは何せ1枚94,500円という超高額商品でございましたからね。灯りの暖かにともったにぎやかな窓をひとつずつのぞくエレーンのような庶民には、到底手が出ない高嶺の花だったのでございます。
 
 それが今回、市販品として単品で入手できるというワケですし、なみふく会員にしろでじなみ会員にしろ、皆が皆BOXを入手しているということもないでしょうし、旧譜の買い換え、買い増しを図る信者の方々は多いような気がします。
 あとは今回「やすらぎの郷」でファンになった高齢者の皆さん。「プロジェクトX」の時も実感しましたけど、高度成長を支えた層の機動力や購買力は計り知れない感じがしますからね。情報が届きさえすればハズキルーペ並みの売れ行きを示しそうな気もします。ええ、冗談抜きに。
 
 さて、18タイトルのリリースは3月から5月にかけての3カ月連続発売。
 まず3月7日に「 私の声が聞こえますか 」「 みんな去(い)ってしまった 」「 あ・り・が・と・う 」「 愛していると云ってくれ 」「 親愛なる者へ 」「 おかえりなさい 」「 生きていてもいいですか 」「 臨月 」の8タイトル、4月4日に「 寒水魚 」「 予感 」「 はじめまして 」「 御色なおし 」「 miss.M 」の5タイトル、そして5月2日に「 36.5℃ 」「 中島みゆき 」「 グッバイガール 」「 回帰熱 」「 夜を往(ゆ)け 」の5タイトルという流れになっています。
 
 簡単に振り返ってみますと、第1期はやっぱり「ふられ歌」に代表されるフォークのイメージが強烈。
 それも縁起の悪いネクラフォークの象徴といいますか、怨み、妬み、嫉み、僻みの権化みたいなパブリックイメージがありましたけど、実際は牧歌的で骨太なロックテイストが根底にあり、特に「私の声が聞こえますか」「みんな去ってしまった」「あ・り・が・と・う」という76年から77年にかけての三部作はカントリーやブルースを下敷きにしたナンバーも多数です。
 
 みゆきサンの初期は、一見シンプルでダサく聞こえる曲ほど普遍性が高いのではないかという思いを持っていますが、個人的にそれを実感したのはポプコン&世界歌謡祭グランプリ受賞曲にして最初のスマッシュヒット「時代」。
 リアルタイムでは詞も曲も大の苦手の部類に入るナンバーだったのですが、年数を重ねるごとにその意味と魅力を理解するようになっていったものでした。特に「私の声が聞こえますか」収録のアルバムバージョンはよりシンプルでオススメです。
 
 研ナオコへの提供曲をはじめソングライターとしての評価が高く、シンガーとしての評価は後からついてきた感があるみゆきサンですが、そういう布石を元もとブレイクを果たしたのはご存じ「わかれうた」。西田佐知子の再来という感じのボーカルは、当時盤石だったピンク・レディーからオリコン1位を奪取したシングルとして知られていますが、その曲収録したアルバムが78年の「愛していると云ってくれ」。
 当初からふられてしまったかわいそうな女という弱者の視点が貫かれていたみゆきサンですが、ドラマ「3年B組金八先生」で流されて話題を呼んだ「世情」からは、社会風刺をにじませた反骨精神といいますか、より弱者の視点が社会的で明確になっていったような気がします。
 
 そして79年、ニューミュージックブームの最高潮でアルバム初のオリコン1位を獲得した「親愛なる者へ」でニューミュージックの女王の座に就いた後、オールナイトニッポンのレギュラーになるワケですが、これでみゆきサンの躁鬱的落差は全国区になり、歌のネガティブイメージはさらに募っていったように思います。
 あくまでも実験的に、オリジナルとは違う解釈に義務的に挑んでいるように思えるセルフカバー集の第1弾「おかえりなさい」を経て、みゆき的ネガティブは最高潮に。五寸釘ソングの代名詞になった「うらみ・ます」を含む80年の「生きていてもいいですか」で究極地点へと到達します。
 
 81年からはからは憑き物が落ちたようになって、「臨月」では松任谷正隆アレンジが功を奏し“松任谷みゆき”的な匂いも漂わせたり、シティポップス的なサウンドを取り入れたシングル「悪女」を大ヒットさせるなど、ファン層は広がりコアは低年齢化。そうしてかつての五寸釘イメージは払拭されていったのですね。
 
 80年代という軽い時代を反映させるように、ファッションやヘアメークをはじめとするジャケットの装いもお洒落になり、ぐんと聴きやすくなったみゆきソングですが、大ヒットを記録した82年の「寒水魚」ともなると、みゆきサンのアルバムはユーミンと並び中高生の定番アイテムとしてもてはやされるようになります。
 流麗なストリングスとぐっと力を抜いたボーカルのマッチングが絶妙ですが、今思えば、ジャケットを「入水」と例えたり、「傾斜」の老婆をギャグで笑い飛ばしたり、自虐的なあしらい方ができたことこそ、みゆきサンが時代にマッチした証しだったのかもしれません。
  
  続く83年の「予感」では、みゆき的悲観主義の王道「この世に二人だけ」や前作の流れをくむソフトな「夏土産」などもありますが、ロックに力点が置かれる仕上がり。「テキーラを飲み干して」の雰囲気は、ステージにおけるたたずまいの変化にもリンクしていったように思います。
 みゆきサンの詩世界は、恋愛弱者だけでなく社会においてのそれにもスポットが当てられてきましたが、マクロ的なものが「世情」とすればミクロ的な形で極まったのが「ファイト!」ではないでしょうか。
 
 続いては84年、ロックンロールをベースにした新生みゆきサウンドのように見えて核は初期っぽい「はじめまして」、第1弾に続き実験的サウンド満載の続く85年のセルフカバーアルバム第2弾「御色なおし」。
 この流れの中で一つの到達点を見せたのが、シンセサウンドとバランスが取れ、クオリティ的にも円熟の境地と言える85年暮れの「miss.M」であり、スティーヴィー・ワンダーが参加した12インチ「つめたい別れ」であったと確信しています。
  
 そして今回でいうところの第3期。86年に甲斐バンド解散直後の甲斐よしひろと組んだ「36.5℃」、アルバムタイトルからして突き詰めた感があった88年の問題作「中島みゆき」と、熱病にかかったようなコンピュータサウンドが満載で、ご乱心の極致ともいえるアルバムを発表。
 日清ならともかくNYのパワーステーションとカップ麺みゆきの組み合わせが象徴するように、70年代からのファンの多くが戸惑いを見せたものですが、それはバブリーな世の狂乱の影響もあったでしょうし、日本のミュージックシーンの変化や、ハードも含めデジタルへと移行した制作過程の変化も大いに関係していたように思います。
 
 とはいえ、これはみゆきサンに限ったことではなく、70年代のアコースティック系シンガー・ソングライター勢がこぞって苦悩した踏み絵だと考えていますので、今となっては非常に感慨深く聴けそうです。
 
 これにて、みゆきサン的メタモルフォーゼは終了し、88年の11月発表の「グッバイガール」では今日まで添い遂げている瀬尾一三さんとタッグを組みます。そうして工藤静香への提供作のヒットでまたまた作家として脚光を浴びた頃、89年のセルフカバー第3弾「回帰熱」、90年代のスタートダッシュを飾った「夜を往け」と続いていきますが、そこにはもはや迷うことなく突き進むみゆきサンがいました。
 バブル崩壊後、歌でしか言えないことを一心に言い続ける姿は、まさに迷える世の中にご神託を告げようとする時代の巫女、いえMEGAMIそのものでありました。そして、たとえ世界が空から落ちても100年も続かないドラマを歌い続ける姿勢は今日まで続いていると思いますね。
 
 という18作。今回、販売施策も充実しておりまして、まず先着特典として、対象店舗でどれでも1点買うと先着でA5サイズクリアファイルをプレゼント。
 そして応募特典として実施されるのが「中島みゆきの名作を良い音で聴こう!キャンペーン」。こちらは、CDに封入の応募券3枚を1口として応募するとヤマハの高音質ヘッドホンなどが抽選で当たるそうですので、そろえようという人は応募もお忘れなく!
 
 とはいえ、毎度申しておりますが、みゆきサンの場合、アルバム未収録のシングルもバラエティー豊かで「誘惑/やさしい女」「横恋慕/忘れな草をもう一度」「あの娘/波の上」など作風の全く違う名曲も多いのです。
 その中でのマイフェイバリットは「波の上」「どこにいても」「空港日誌」ですけれど、いくら自分でプレイリストを作っても安定しない感じになってしまうので、これを機に初期のシングル集「Singles」「 Singles II」などもリマスタリングの上、HQCD化されることを祈っております。
 
 

(2018.1.22)

#900〜
 
#899:南佳孝/摩天楼のヒロイン
#898:柏原芳恵 SHM-CD/紙ジャケ…
#897:中森明菜 ワーナー・イヤー…
#896:岩崎宏美 オリジナル・アルバム…
#895:イルカ アーカイブ Vol.5
#894:TETSUYA KOMURO ARCHIVES…
#893:石野真子/Mako Pack
#892:大貫妙子/MIGNONNE
#891:ピコ/ABC
#890:岸田智史/EARLY DAYS
#889:Chris Music Avenue あの夏の…
#888:岩崎宏美 ライブ盤5タイトル再発
#887:渡辺美里/Ribbon
#886:伊東ゆかり/ミスティー・アワー
#885:松田聖子/SEIKO MEMORIES
#884:早見優/35周年ベスト
#883:ザ・リリーズ/小さな恋の…
#882:桜田淳子/Thanks 45
#881:松任谷由実/ユーミンからの…
#880:筒美京平自選作品集 50th Ann…
#879:中森明菜 アナログLP盤復刻
#878:石川ひとみ/MEMORIAL40
#877:中島みゆき オリジナルアルバム
#876:矢野顕子/長月 神無月
#875:エッセンシャル・ベスト 1200
#874:大瀧詠一作品集Vol.3 夢で逢えたら
#873:アン・ルイス 初期7タイトル復刻
#872:THE BEST of GOLDEN☆BEST
#871:ラジ/GOLDEN☆BEST
#870:岸田智史/武道館ライブ―軌跡
#869:ザ・リリーズ/恋に木枯し
#868:チェッカーズ/オールシングルズ…
#867:松田聖子/sweet days
#866:鹿取洋子/LIBRA +10
#865:荻野目洋子/ダンシング・ヒーロー
#864:渡辺真知子/私はわすれない~…
#863:松田聖子/We Love SEIKO D…
#862:ザ・リリーズ/Kiss Me
#861:矢野顕子/いろはにこんぺいとう
#860:「翼をください」を作った男たち
#859:阿久悠メモリアル・ソングス
#858:西城秀樹/HIDEKI NHK Collection
#857:時代を創った名曲たち~瀬尾一三…
#856:井上鑑 ~Works of Akira Inoue…
#855:9番目の音を探して~大江千里…
#854:マリーン クロスオーヴァー&…
#853:石川セリ/ブリッジ再発3タイトル
#852:ハイ・ファイ・セット Light Mell…
#851:ハイ・ファイ・セット/THE DIARY
#850:いしだあゆみ/いしだあゆみ