松本＋筒美の未発表曲を含む、斬新な50周年BOX！

　コロナ禍で不安ばかりが渦巻き悶々としている世の中に颯爽と吹き抜ける風のごとく、とってもうれしいニュースが届きました！シンシアこと南沙織さんのデビュー50周年企画第1弾として、未発表曲1曲を含む全110曲収録の新CD-BOX「 南沙織 CYNTHIA ALIVE 」がオーダーメイドファクトリーの商品化候補に挙がったというのです！
 
　思えば、1971年6月のレコードデビューから今年でちょうど50年目に突入するシンシアですが、令和がスタートした昨年には、50周年を見据えたキャンペーン企画「Cynthia's Evergreen」が登場。2006年の紙ジャケBOX「Cynthia Premium」が再プレス（ こちらで紹介）され、「令和にも聴きたい、 あなたの南沙織の曲を大募集！」というテーマでリクエスト曲とメッセージが募られましたが、応募結果がアップされただけでストップしていたので、頓挫かと心配するファンも多かったんですよね。
 
　ご本人はといえば、一時復帰していた頃を含め以前から「南沙織という存在はいったん閉じたもの」という認識を硬く貫いていますし、どんな新企画の案が出されてもさほど乗り気ではなかったようですが、今回決定した企画はこれまでにないほど斬新！ 南沙織というかつての人気歌手の回顧録ではなく、古いファンには新しい発見をもたらし、新しいファンも開拓できる、まさに次代へと聴き継がれるにふさわしいBOXといえるでしょう。
 
　といいますのも、6枚のディスクの選曲を担当しているのがクリス松村さん。TOKYO MXでホストを務める「ミュージック・モア」でもおなじみ、ソニーミュージックではOTONANOとのコラボやコンピ盤（ こちらなどで紹介）で定評のある人物です。
　世間一般にはまだオネエタレントのイメージが根強いようですが、自らを音楽家（おんらくか）と称する通り、ジャンルを超えた音楽評論やアイドル評論はかなりのもの。その造詣の深さと膨大なコレクションは、かの山下達郎＆竹内まりや夫妻をはじめ各方面から一目置かれています。 
 
　であるからして、今回もかなりエッジの効いた才能を発揮。南沙織として活動した70年代からシンシアとしてカムバックした90年代までの全スタジオ音源を対象として、各ディスクに独自のテーマを設けて選曲。シングル曲やアルバム曲、非売品レコード音源、オリジナルやカバー、日本語詞や英語詞など、すべての垣根を取り払い、まったの新しい視点で109曲をセレクトしているのですね。
 
　これまでのシンシアというと、今日まで続くアイドルポップスの礎となったデビュー曲「17才」の印象が鮮烈すぎるのと、有馬三恵子＋筒美京平コンビによる成長物語のような作品群がハイクオリティすぎるせいで、どんなベスト盤を編んでも初期のヒット曲がクローズアップされる傾向にありましたよね。
　しかし、クリスさんいわく「名曲『17才』の呪縛があるとしたら、それを一度、解放してみてもいいのではないかという気持ちで、今回のボックスの内容を考えてみました」とのことで、年代に関係なく自由な発想で構成。レコード時代から擦り切れるほど聴いているコアなファンでさえ、新たな感動を覚えるほど新鮮なBOXを実現させています。
 
　内訳でいえば、まず非売品のCBS・ソニー創立10周年記念社歌「MUSIC MAKES OUR FUTURE」を含む全シングルA面34曲を収録。その他は全21枚のアルバムと、アルバム未収録のB面曲からの選曲となっていますが、特筆すべきは中期以降の作品が重きを占めていること。
 
　初期はバイリンガルならではの洋楽カバーやグルーブ感が絶賛されてきたシンシアですが、今回のBOXの核となっているアルバムは、75年のターニングポイントとなったグルーブ感満載のLA録音盤「シンシア・ストリート」、中期シンシアを支えた中里綴＋田山雅充によってフォーク系へとシフトした76年の「素顔のままで」、近年シティポップスの名盤として取り上げられることの多い78年の「I've been mellow／SaoriI」という3枚。いずれもアルバムの大半が選曲されていますが、中でも最後のヒット曲「春の予感-I've been mellow-」を軸にした「I've been mellow／SaoriI」はほぼ全曲がセレクトされているという特別扱い。
　一瞬、帰国子女で77年のお正月からアイドルのレコードを買い始めたというクリスさんならではの年代への思い入れなのかと思いましたが、75年のレコ大歌唱賞受賞後は実力派として評価されてきたシンシアなので、これは彼女のボーカリストとしての魅力にクローズアップしたと見るべきでしょう。
 
　そんな独自の選曲眼の凄さは、ディスク1の１曲目を「ファンレター －SO GOOD SO NICE－」（オリジナルではなくRemix versionを収録）にしたことだけで分かるというもの。何せ引退後に出たCDで「17才」から始まらないベストは25周年記念盤「Cynthia Best～Eternity」とSACDハイブリッド盤「THE BEST～Cynthia-ly」だけと皆無に等しかったのですからね。
　しかもこの曲は、NHK紅白歌合戦の再出場をきっかけに91年末に発表されたカムバック第1弾にして、現役時代から詞を書きたがっていた阿久悠さんと、往年のシンシアメロディーを構築した筒美京平先生が、シンシアらしいナチュラルでさりげないカムバックのため、渾身の力を振り絞り、それでいて力んだり奇をてらったりすることなく愛情たっぷりにしたためたナンバー。彼女自身が「17才」でデビューした南沙織という存在を俯瞰しながら、シンシアとして踏み出す新しい一歩を描いた、いわばオールタイム・シンシアを象徴する作品。それがBOXのオープニングなんて、練られた構成の証にほかならないでしょう。
　曲順もそうですが、スキップされがちだった中後期以降の作品もセレクトされているので、思わぬ隠れ名曲など、また新たな再評価のポイントもたくさん見つけられそうです。
 
　そして今回の大きな目玉となっているのが、クリスさんの選曲にプラスされた1曲。長らくお蔵入りになっていた未発表曲「苦いレモン」の収録です！
　楽曲制作は松本隆＋筒美京平コンビで、大村雅朗アレンジという豪華な布陣に驚きますが、そもそもは95年2月1日に発売予定だったアルバム「Close Your Eyes」の収録曲として94年の暮れにレコーディングされていたナンバーの模様。アルバムはご本人の体調不良とお子さんの受験が重なって歌入れがストップ、発売中止となってしまいましたから、まさに幻の作品なんですよね。
　この時の音源からは、これまでにも「ふたり」「あなたの胸で泣けるまで」など折に触れ蔵出しされてきましたが、これが最後のような気もしますし、この1曲のためだけに購入を決めても損はないと思います。
 
　盤はもちろんBlu-spec CD2で、マスタリングはグラミー賞受賞作品も手がけた世界的なエンジニア・GOH HOTODAさん。音質重視という点ではステレオサウンド発のSACDハイブリッド盤「南沙織／シングルコレクション」（ こちらで紹介）が今年1月に出たばかりですが、今回はご本人が「マジックのよう」と絶賛したそうですから、SACDには及ばないとしても期待大です。
 
　さらに、歌詞ブックにはフォトジェニックなシンシアの秘蔵写真も多数使用されるほか、クリスさんによるシンシアへの最新インタビューも掲載されるそうで、これまでのBOXを持っている人もやっぱり必携。
　まさに、50年経とうが、あの頃のままのみずみずしさで「私は今 生きている」と宣言するアイテムになりそうです。
 
　先着購入特典として、クリアファイルも用意されるとのことなので、ご予約はお早めに。オーダーメイドファクトリーの商品ですが、あっという間に達成できそうですし、来年の満50周年に向けてさらなる企画にも大いに期待したいものです。