聖子ボーカルを際立たせた、大村雅朗作品集！

　夭折から20年が経った昨夏に発刊され、大きな話題を呼んだ「 作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997 」。
 
　思い返せば、１度聴いて即買いした八神純子さんのシングルレコード「みずいろの雨」で初めて大村さんに触れ（実際は南沙織さんの現役ラストのシングルB面「さよならにかえて」でしたが…）、太田裕美さんの「青空の翳り」でその名前をハッキリと意識したワタクシです。
　日本の音楽シーンに遺した偉大な功績もさることながら、錚々たるアーティストから絶大な信頼を置かれていたことも含め、大村雅朗という稀代の作編曲家がこうしてきっちり形として遺されたことに、ファンの1人としても大いに感激したことでしたが、このたび、彼の影響を強く受けたアーティストとして知られる松田聖子さんによる作品集「 SEIKO MEMORIES ~Masaaki Omura Works~ 」が編まれることになりました。
 
　聖子の作曲家別作品集といえば、85年のユーミン提供曲集「Seiko-Train」や、2000年に出たBOX「SEIKO SUITE」を思い出しますが、アレンジメインだった大村さんの場合、「SEIKO SUITE」では他の人との寄せ集めディスクに振り分けられてしまっていたので、今回の企画はまさに待望という感じです。
 
　しかも、聖子にとっての大村さんといえば、ブレイクシングル「青い珊瑚礁」のアレンジを皮切りに、松本隆さんより早く80年代黄金の聖子プロジェクトに参加した、聖子サウンドには欠かせない最重要人物。
　アレンジャーメインなので、どうしても地味な存在にならざるを得ないのですが、聖子が不動の地位を築くのに一役買ったのはもとより、エバーグリーンな聖子ソングの立役者として活躍した存在です。松本さんが、聖子の曲は大村さんと「2人して作ったようなもの」と語っていることからも分かるように、サウンドプロデュースだけでなく、作曲家としても聖子の未知の魅力を開花させた人でもあります。
 
　それを象徴するのが、数多ある聖子ソングの名曲の中でも最も有名で、老若男女世代を超えて愛されるスタンダードナンバー「SWEET MEMORIES」。
　それまでの聖子のイメージにないジャジーでアダルトなこの曲は、当初は覆面CMソングとしてシングルのB面にひっそりと収められていました。
　それを楽曲の力で、聖子ファン層以外をも魅了し両A面扱いに昇格させただけでなく、セールスのピークを過ぎたシングルを再びヒットさせ、ついには再びの首位獲得まで実現させるたのですからね。
　聖子史上でも類を見ない実績を残したこの事実は、80年年代の聖子の偉業が再評価されるにつけ、もっと語られていいのではないかと思っております。
 
　余談ついでに言えば、特に近年の風街界隈では、A面の「ガラスの林檎」がまるで記憶が塗り替えられたように大ヒットしたようにもてはやされ（確かに名曲ではありますが）、80年代の聖子シングルセールスNo.1を記録したシングルとしてクローズアップされておりますが、当時のパンピーの感覚としては「ガラスの林檎」は難解な曲として評判は決して良くはなく、アーティストパワーでなんとかオリコン1位を1週だけ獲れたという感じでした。
 
　であるからして、メディアがいろんな思惑や事情で歴史を改竄したとしても、「ガラスの林檎」のシングルが80年代の聖子セールスNo.1を記録したのは「SWEET MEMORIES」の存在があってこそ。
　歳月が流れ人々の記憶が塗り替えられても、それだけは紛れもない事実ですし、今日聖子がジャズシンガーとしての取り組みに力を入れているのも、大村さん作曲のこの曲が根底にあったからにほかならないと思います。
 
　と前置きが長くなりましたが、今回の作品集には80年の「青い珊瑚礁」から89年の「Forever Love」まで、大村さんが携わった聖子作品の中から45曲を厳選。
　ベスト盤のみに収録されていた「WITH YOU」「とんがり屋根の花屋さん」や企画盤の「ジングルベルも聞こえない」、映画サントラの「パシフィック」「Caribbean Wind」「Musical Life」「雪のファンタジー」など、聖子の既発のベストにはなかなか入らなかった珍しいナンバーや貴重音源も多く選曲されています。
 
　個人的には、大村さんの口利きもあって採用になったという大江千里作品「雛菊の地平線」のチョイスがうれしいです。この曲を聖子が気に入り「Pearl-White Eve」につながり、千里さんの古い「雨のブルックリン」が「凍った息」となって日の目を見たワケですからね。
 
　なお、ボーナストラックとして、99年に松本さんとの再会アルバム「永遠の少女」に、松本さんの配慮でサプライズ収録された遺作「櫻の園」が、なんとマッキーこと槇原敬之さんのリアレンジして収録されるというのですから驚き。この1曲だけのために購買を決める人も多いような気がします。
 
　音質に関しても今年のデジタルリマスタリングでブルスペ2ということですし、これまでの音源を全部持っているというファンも入手したくなりますよね。
　先月出たゴールデン☆アイドルのような「Seiko Matsuda sweet days」（ こちらで紹介、オリコン23位をマークしたとか）も音が抜群に良かったことですしね。
 
　また、ブックレットには、聖子をはじめ、松本さんやマッキーからの特別寄稿に加え、作品リストも収録、ジャケットも「SWEET MEMORIES」がシングル両Ａ面になった際の別カットということで文句なし。
　2カ月連続発売ということでベスト濫発と言う人も多そうですが、こんなベストなら大歓迎ですよね。