ナツメロ喫茶店

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#913
松任谷由実 424曲 全曲配信<音楽配信>
全オリジナルアルバム38作・シングル41作・ベストアルバム7作・セルフカバーアルバム1作(計424曲)
*2018.9.24配信開始、すべて単曲購入可能(ダウンロード/ストリーミング)

ユーミン45年の424曲、ついに配信解禁!

 このほど、デビュー45周年記念ベストアルバム「ユーミンからの、恋のうた。」( こちらで紹介)を引っさげたアリーナツアー「Ghana presents松任谷由実TIME MACHINE TOUR Traveling through 45years」をスタートさせたユーミン。
 
 音楽というタイムマシーンを体感できる演出といいますか、「OLIVE」ツアーの象に乗った「THE DANCING SUN」ツアーの猛獣使いをはじめ、これまでのツアーの名シーンをフラッシュバックさせた演出が話題を呼んでいますが、そのツアーの初日に届けられたのがこのニュース! そう、荒井由実時代を含む全曲配信がスタートするというのです!
 
 対象となるのは1972年のデビューシングル「返事はいらない」から、件の最新ベストまで、45年の間に発表されたオリジナルアルバム38作、シングル41作、ベストアルバム7作、セルフカバーアルバム1作の収録楽曲で、しめて全424曲。
 ダウンロードでは amazon レコチョクiTunes など、ストリーミングでは Amazon Music Unlimited 音楽聴き放題 【レコチョク Best】などで聴けるとのことで、今回はすべてGOH HOTODA氏による最新リマスタリング音源。
 時代の空気はそのままに現在のサウンドに仕上げられているとのことですが、厳選したものだということで、先行シングルの別MIXなど細かなバージョン全部が対象というワケではなさそうです。
 
 個人的には、とりあえず荒井時代からの全シングルのオリジナルバージョンをCDでまとめてほしいと願っておりますし、配信ならハイレゾを望んでおりますので、今回はサブスクリプションで聴く以外はスルーを決め込むことにしようと思っておりますが、古くからのファンの1人としては、これも目標である“詠み人知らず”への不可欠な一歩だと感じ、応援させていただく次第です。
 
 ということでコピペではありますが、タイムマシーンのごとくユーミンの45年のアルバムを振り返りますと、まずは荒井時代。恐るべき自意識過剰な天才少女のデビューアルバム「 ひこうき雲 」(オリコン最高9位)から、無垢と老成というユーミンの本質が浮き彫りにされた「 MISSLIM 」(8位)、カラフルにポップに狙いを定めてブレイクを果たした「 COBALT HOUR 」(2位)、結婚引退ラストアルバムと考えていた集大成「 14番目の月 」(1位)という4枚は、バッキングからアートワークも含め、まさに奇跡的というべきエバーグリーンなマスターピース。
 
 松任谷姓になってからは、主婦の抑鬱を耽美な世界へと昇華させた復帰作「 紅雀 」(2位)から、ブランド性とオシャレ度が極まった「 流線形 '80 」(4位)、日本版ヴォーグを意識した「 OLIVE 」(5位)、耳ダンボでも奥手な美大生の私小説「 悲しいほどお天気 」(6位)、最も内省的で最高峰の大名作「 時のないホテル 」(3位)までが1センテンスと言えるでしょう。
 それにしてもこの時期の多作と品質保持の両立こそが、ユーミンの根底にあった強靱な精神力というか、女の意地ですよね。
 
 そして80年代を牽引するリゾートアルバム「 SURF & SNOW 」(7位)で吹っ切れて、45回転の由実的大東亜総括「 水の中のASIAへ 」(9位)を経て、第二次ユーミンブームが巻き起こります。
 今もやっくんと呼んで寵愛する薬師丸ひろ子×角川のメディアミックスによって火が付いたものですが、自信を回復したことがありありと分かる「 昨晩お会いしましょう 」(1位)、中高生に若返ったファン層にあえてオトナのOL的思想をぶつけた禅問答「 PEARL PIERCE 」(1位)は一つの到達点だったと思います。
 
 ここででありきたりな恋愛は卒業し、半田ゴテで脳内基盤に壮大なSFを構築した「 REINCARNATION 」(1位)や、ジュピターで時と宇宙をかけるYAジュブナイル「 VOYAGER 」(1位)でオカルト的な刺激を受け、ロス五輪からのスポーツの祭典「 NO SIDE 」(1位)でドーパミンを大量放出。
 このへんで時代の流れが変わると、より世の流れに敏感になっていったというか、日本最大の大量消費時代の絶頂期とともに、ユーミン・ブランドはどんどん肥大化。いよいよ第三次の国民的ブームに向けて離陸姿勢が整います。
 
 ただ、例えは悪いですけど、それまでの、ファンのルックスやセンスさえも審査される排他的会員制クラブみたいな要素が一気に薄まり、ディスコ前のコードチェックで落とされてきたような層が一気に進入してきたのも事実です。当時のユーミン風に言えば、紀ノ国屋や明治屋にもダイエーに行く便所スリッパで出かける、とでもいうような。
 この感じは一次、二次のブームの時がもっと辛辣だったようですが、王室の献上品がやがて下々にまで浸透していくという雰囲気も、ユーミンならではの普及形態であったように思います。
 
 そうしてバブルの萌芽「 DA・DI・DA (ダ・ディ・ダ) 」(1位)に「 ALARM à la mode 」(1位)で警告を出した後は、バブルだからこそお金で買えないモノたちを意識。技巧や才能でデコラティブな歌詞を追求した「 ダイアモンドダストが消えぬまに 」(1位)、あえて純愛にこだわった「 Delight Slight Light KISS 」(1位)、札束で頬をたたく輩に一撃を加えた任侠「 LOVE WARS 」(1位)と来て、イクのなら「 天国のドア 」(1位)の宇宙的エクスタシーで果てたいとばかりエスカレート。
 技術の進歩と経済の隆盛で神に近づいたような感覚というか、この頃、多くの人間が感じてしまった錯覚感さえ漂っているようです。
 
 やがて行き着いた後は、肉体としての死生観を感じさせる「 DAWN PURPLE 」(1位)で幽体離脱し、魂として第二の誕生を経験。「 TEARS AND REASONS 」(1位)で二度わらし、もとい少女がえりをしつつ、サイケな「 U-miz 」(1位)で実際に少女だった60年代末期から70年代初期を再体験。まるでドラッグでトリップしたかのようにチャネリングが始まり、「 THE DANCING SUN 」(1位)でハイの頂点へと達するのです。
 
 脳内曼荼羅で古代文明や聖地を巡礼し、スピリチュアルを突き進んだ末、ネパールの「 KATHMANDU 」(1位)、ネイティブアメリカンな「 Cowgirl Dreamin' 」(1位)、ハワイの「 スユアの波 」(2位)と各地の土着神へと回帰し、魑魅魍魎を飲み込んでいったユーミン。実際にシャングリラを体現して呪術は解け、14歳の無垢な少女へと戻った「 Frozen Roses 」(3位)という流れは、今振り返ると本当に必然だったように思えてなりません。
 自意識過剰で残酷。だからこそ繊細でエゴイスティックな少女性を映した荒井時代。時代を敏感にキャッチし、幾重にも張り巡らせたレトリックで世俗風刺を重ねてきた松任谷時代。亜流を駆逐する戦闘態勢とともに、それぞれのアルバムには、日本という国が辿ってきた道も記録されているような気がしますね。
 
 ミレニアムの2000年代からは、まさに輪廻転生。何度生まれ変わっても前世での歩みを繰り返してきた印象です。現在・過去・未来さまざまな要素の14曲も入った「 acacia [アケイシャ] 」(2位)しかり、サーフ&スノウpart2の脳内リゾート「 Wings of Winter, Shades of Summer 」(2位)しかり、一時は頑なに拒んできたセルフカバーアルバム「 Yuming Compositions: FACES 」(3位)しかり、映画的な「 VIVA! 6x7 」(5位)しかり。思えば、ずっと強気だったユーミンにしては珍しく苦悩や彷徨の時代が続いた印象があります。
 
 長いトンネルを抜けた「 A GIRL IN SUMMER 」(3位)「 そしてもう一度夢見るだろう 」(4位)「 Road Show 」(2位)はいずれも多作だった80年前後を彷彿とさせる力作で、往年のパワーや感性を取り戻したように思えます。
 しかし、音楽のみならずファッションもヘアスタイルも80年代のトレンドが蘇ったタイミングで息を吹き返したユーミンが観たものは、輝いた青春のアンチエイジングに執着する美魔女の姿ではなく、宇宙に泰然と浮かんだ自然の摂理。
 
 生命の実相を知り、輪廻転生の終焉を見据え、誕生から老い衰えまで生死すべてを受け入れた点描のような空間にたゆとう「 POP CLASSICO 」(2位)を経て生み出されたのは、人類の脳内記憶をすべて宇宙にクラウドさせ、古代からの人の営みを記録させた「 宇宙図書館 」(1位)。
 もはやジェンダーも含め、肉体や霊魂という従来の概念は過去の遺物であり、これからは宇宙と同化し半人半霊化した人間が自由自在に生きる時代である…。そんな近未来を預言しているかのような近年の表現には、常人の終着点を超えたといいますか、人間の存在を超越した感すらあります。
 
 というイミフなゴタクはさておき、今回の解禁を機に、45年を知らない世代へまでますます浸透しそうなユーミン。その名は宇宙のクラウドに刻み込まれ、詠み人知らずになることはないような気がしています。
 
 いずれにしても、今回の注目は89年の「Yuming Sweets」シリーズ以来となるシングル音源でしょうか。「 消灯飛行 」「 遠い旅路 」「 白日夢・DAY DREAM 」といったベストCDにも入っていないナンバーや、3年後のアルバムバージョンとは別モノの「 ESPER (single version) 」を未入手のファンは結構多いらしいので、持っていない人は要チェックですぞ。
 
 
 

(2018.9.24)

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