40周年企画完結、初期総決算の5th！

　竹内まりやデビュー40周年記念企画として、5カ月連続のリリースが行われている初期RCA時代のアルバムの記念リマスタリング盤。
　秘蔵ライブ音源などのボートラ付きで、ブックレットにはノージ祐子さんによるRCA時代を振り返るインタビュー掲載と、過去のリイシューにはなかった充実した内容にもかかわらず2,000円ポッキリというリーズナブルなプライス。既発盤を持っている人も買い増し、買い換え必至ということで、達郎・まりや夫妻のファンを中心に話題を呼んでおりますが、個人的にも初期RCA時代はいろんな意味でオススメしたい内容ですので、未聴だった人こそ要チェックではないかと思っております。
 
　さて、11月のファースト「BEGINNING」（ こちらで紹介）から始まったこの企画も、12月のセカンド「UNIVERSITY STREET」（ こちらで紹介）、1月のサード「LOVE SONGS」（ こちらで紹介）、2月の4th「MISS M」（ こちらで紹介）と来まして、ついに3月の5th「 PORTRAIT 」で完結することになりました。
 
　この「PORTRAIT」は、デビューから丸3年になろうとした矢先の81年10月21日、歌手休業宣言の直後というタイミングで発表されたもの。当時は山下達郎さんとの結婚を控えた事実上の引退宣言というとらえ方もされており、引退記念のラストアルバムという印象だったのは確かです。
　レコード会社の方でもその流れのプロモーションという感じで、それは“みつめてほしい私の素顔／ソングライター竹内まりやのすべてをかけた青春のメモリアル!!”という帯コピーでも明らかでしょう。
 
　実際、本人出演の花王リーゼのCMソングに起用され、リカットされた英語曲「Natalie」は、芸能界での自らの心境を映したようなナンバーであり、メディアからもラストシングル的な扱いをされていましたから、当時は歌手としてのカムバックはないような見方がほとんどだったような気がします。
　内容の方もこれまでの集大成というか、作家陣も含め初期の総決算という感じで、ご本人的にはソングライターとしての未来はあっても、自身が歌手として表に出る活動からは退くつもりだったのかもしれません。事実、復帰後も今日に至るまでアルバム発表がメインで、ライブも含め当時のような芸能活動的なことはほとんど行っていませんからね。
 
　というワケで、ある意味ラストアルバムといっても過言ではないこのアルバムは、「イチゴの誘惑／悲しきNight ＆ Day」「Special Delivery～特別航空便～／Crying All Night Long」という2枚の先行シングルと、ラストシングルとしてリカットされる「Natalie」を含む全12曲を収録。
 
　オールデイズやウェストコースト、フォークロック、カントリーの要素を散りばめたアメリカンポップスをベースに、日本の歌謡曲のエッセンスも漂わせた作品群は、ぐんと増えた自作品に加え、山下達郎はもちろん、大貫妙子、伊藤銀次、松本隆＋林哲司コンビ、旧友の安部恭弘、センチメンタル・シティ・ロマンスという前述の総決算的布陣でハイクオリティ。
 
　親友のアン・ルイスに贈った「リンダ」のセルフカバーや伊藤銀次とのデュエット「Crying All Night Long」、ノスタルジックな素顔がのぞく「ポートレイト～ローレンスパークの想い出～」など、聴きどころ多数ですが、やっぱり「Natalie」の身につまされるメッセージに尽きます。
　ニューミュージックが歌謡界を席巻したせいで、シンガー・ソングライター志向といえどもアイドル的役割を果たさねばならなかった彼女の苦悩というか、虚像と実像の狭間で揺れる様子が、センチメンタル・シティ・ロマンスの優しいサウンドと相まって、リアルな彼女の本心と二重写しになって聞こえてくるんですよね。
　ちなみにセンチメンタル・シティ・ロマンスが2011年に発表したアルバム「 やっとかめ 」でまりやさんをコーラスに従えてカバーしていますので、興味がおありの方はそちらもお聴きください。
 
　何度も言っておりますが、個人的に彼女はソングライターより純然たるボーカリストとしての才能が卓越していると確信していますので、復帰後のアルバムがいかに売れようが、いかにいい曲が多いが、ここまでのアルバムを超えるようには思えないんですよね。ご夫妻のファンの方にはいつも否定されますけれど…。
　ということで、このアルバムをはじめRCA時代の5作は、これからもずっと愛聴していきたいと思っております。「ヴァラエティ」以降しか認めないという方にこそ、しつこくオススメしたいと思います。