ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#903
柏原芳恵 SHM-CD/紙ジャケット・シリーズ 後期9タイトル
最愛 +4(UPCY-9822)・待ちくたびれてヨコハマ +2(UPCY-9823)・し・の・び・愛 +3(UPCY-9824)・二十才のスーブニール +1(UPCY-9825※)・ハイヒールを脱ぎ捨てた女 +2(UPCY-9826)・A・r・i・e・s(UPCY-9827)・愛愁(UPCY-9828)・Lover's sunset +2(UPCY-9829)・YES, I LOVE YOU~運命を超えて~ +2(UPCY-9830)
*2018.9.26発売、各¥2,315+税(※のみ¥1,852+税)、SHM-CD 

オリアル18作が2カ月連続で紙ジャケ単品復刻!

 柏原芳恵さんが1980年代に発表したスタジオ録音のオリジナルアルバム全18枚が、2カ月連続で紙ジャケット仕様のSHM-CDとして一挙復刻!
 そのニュースは こちらで紹介した通りですが、前期9タイトルに続いて、後期9タイトル「 最愛 +4」「 待ちくたびれてヨコハマ +2」「 し・の・び・愛 +3」「 二十才のスーブニール +1」「 ハイヒールを脱ぎ捨てた女 +2」「 A・r・i・e・s」「 愛愁」「 Lover's sunset +2」「 YES, I LOVE YOU~運命を超えて~ +2」のリリース日も決定しました!
 
 80年にフィリップスレコード(日本フォノグラム)からデビューし、87年に東芝EMIへと移籍した芳恵ちゃん。今じゃユニバーサルがそのどちらも有するレコード会社になったがゆえ、今回の一挙復刻が実現した次第ですが、2005年のオリアル復刻BOXの時は、EMIはユニバーサル傘下ではありませんでしたので、今回の9タイトルのうち87年からの5作は初復刻となるんですよね。
 オリジナルリリース時以来、30年ぶりのCD化ですから、待ちに待っていた人も少なくないのではないでしょうか。
 
 せっかくですので、今回の9タイトルを簡単に紹介いたしましょう。
 まずは、84年10月リリースの「 最愛+4(紙ジャケット仕様) 」。「春なのに」「カム・フラージュ」に続く中島みゆき書き下ろしシングルとなったタイトル曲をフィーチャー。A面がカバーを含むみゆき作品集、B面がヤマハ名曲のカバー集となっていて、みゆきサンの書き下ろし新曲はないけれどその代わりにヤマハが色々見繕いました、とでもいうべきノリ。
 みゆき作品は、「カム・フラージュ/雪」「最愛/やさしい女」という既発シングル2枚を入れ、新録は「アザミ嬢のララバイ」のみというちょっと物足りない構成ではありますが、みゆきサンに同類項と認められた芳恵ちゃんならでは、自分の世界でちゃんと消化しきっています。そういえば「最愛」はみゆきファンにも好評を博しましたもんね。
 一方、ヤマハ系は、後に大江千里のバックコーラス、フレッシュシスターズでも活躍した豊広純子の「たわむれの恋のままに」、地区大会の隠れた名曲「ラスト・ステーション」といったポプコン入賞曲に加え、じゅん&ネネのネネ作による「オー・マイ・ラブ」や、みゆきサンに次ぐヤマハの稼ぎ頭・谷山浩子作の「六月の花嫁」というディープさ。後の2曲に至っては、アグネス・チャンの不在中に香港からやってきたロウィナ・コルテスのアルバム曲のカバーですからね。
 中森明菜もお気に入り、中尾ミエのカバーで知られる「片想い」が最も知名度が高いと思いますが、これも元々は合歓ポピュラーフェスティバルで槇みちるが歌ったもので、れっきとしたヤマハ系です。
 なお、ボーナストラックは、中島みゆき書き下ろしと高田みづえのカバーをカップリングにした次作シングル「ロンリー・カナリア/乳白色のプリズム」と、84年のベスト「モニュメント」にのみ収録されていた筒美京平作品「木旺日の秋」「いったりきたりセレナーデ」の4曲。いずれにしても、今回ではコレが突出したセールスになるように思います。
 
 続く「 待ちくたびれてヨコハマ+2(紙ジャケット仕様) 」は85年6月リリース。
 先行シングルにして名作歌謡曲といわれる「待ちくたびれてヨコハマ/時間を下さい」を収録。楽曲制作はこの曲を手がけテレサ・テンでヒットも飛ばしていた荒木とよひさ+三木たかしコンビを中心に、芳恵ちゃんのブレイクシングルを手がけた小泉まさみらも担当していますが、ニューミュージック色は後退し、フォーク歌謡といいますか、ソフトなポップス演歌も範疇にした歌謡曲歌手としての新たなスタートという印象です。
 柏原芳恵という素材の将来を考えてのテレサ・テン路線へのシフトチェンジという気もしますが、高田みづえフォロワーとしてデビューさせた秋川淳子以来、そもそもの事務所の志向という解釈が正解のようにも思えますね。
 それにしても、同期の松田聖子や河合奈保子と同列のアイドルとして芳恵ちゃんを応援していたファンにはかなり違和感があったのは確かで、ポップス志向のファンには苦行だったように思いますが、指向性にぴったりで楽曲的にハマっていたのも事実でした。
 ボーナストラックは、次のシングル「太陽は知っている/Gm (マイナー)のバラード」とのことです。
 
 ということで、制作サイドにもバランスが崩れた感があったのか、85年10月にリリースされた次作「 し・の・び・愛+3(紙ジャケット仕様) 」では、またまた歌謡曲とニューミュージックの間を行ったり来たりする芳恵ちゃん。
 70年代チックなフォーク歌謡がベースにあるものの、安井かずみ+加藤和彦コンビによる「恋のD-day」や「ショック・かくして・大人する」、芸能界を生き抜いてきた芳恵ちゃんのホンネがのぞくような自作詞に小森田実(コモリタミノル)が曲をつけたちょっと下世話な人気作「人生GAME」、小坂明子作曲の「一人七色」など、魅力のツボを押さえたナンバーが多く、聴きどころ満載の佳作に仕上がっています。
 シングル曲は「太陽は知っている」とアルフィーの高見沢さん作詞作曲による「し・の・び・愛」ですが、タイトル曲は高見知佳の79年のナンバーをカバーしたものでアルバムにはニュー・バージョンで収録されています。そういえば前年、まさかの紅白落選で豪華衣装を無駄にしたという芳恵ちゃん、この曲でカムバックした紅白では衣装に一段と気合いが入っていましたよね。
 ちなみに、ボートラは、ニューミュージックといいながら歌謡曲寄り、最後のトップ10ヒットとなった五輪真弓サン提供のシングル「春ごころ/二杯目からのはじまり」です。
 
 そして86年7月の企画盤「 二十才のスーブニール+1(紙ジャケット仕様) 」はデビュー7周年を記念した7曲入りのミニアルバム。プライスは当時のLPやカセットと同じ2000円、今期のタイトルでは単品初CD化となりますでしょうか。
 美麗ジャケットにうっとりすると同時に、ここまで濃ゆいのにまだ20才という芳恵ちゃんに驚きですが、デビューは14才でしたからね。
 “スーブニール”という表記をはじめ、80年代半ばにかのなかにし礼さんの世界観を表現できた20才は芳恵ちゃんだけだったのではないでしょうか。歌謡界を支えた井上大輔、平尾昌晃両先生のナンバーもぴったりです。
 平尾先生だけに初期の小柳ルミ子路線を思わせるシングル「花嫁になる朝/古都の恋めぐり」を発展させた世界観ですが、「花嫁になる朝」はアルバムバージョンのため、シングルバージョンはボートラ収録され、全8曲となっています。
 
 86年10月の「 ハイヒールを脱ぎ捨てた女+2(紙ジャケット仕様) 」は、まずアバンギャルドなジャケットにビックリ。それもそのはず、A面は実験作といいますか、コンセプチュアルな構成になっていて、作詞をコピーライターの田口道明さんが担当。「クレヨンで描けない昼と夜の物語」「しなやかな夜をはさんだビスケット」「アンティックな女(マスコット)」などなど、感覚的で装飾過多な80年代コピーが時代を映しております。サウンドもそれに合わせて攻めた感じです。
 B面は従来から続くオーソドックスな芳恵ワールドで、筒美京平作品にしてドラマ主題歌になったシングル「女ともだち/イチヂクは木の下で」のほかは、シンガー・ソングライターの国安わたる作品でまとめられています。相性は二重マルですよね。
 ちなみにボーナストラックは、音つばめの花岡優平作品のいかにもフォーク歌謡なシングル「途中下車/かすみ草」を収録。
 皇太子さま御用達、ロイヤルアイドルとして注目を集めたのに、いきなりセールスが落ちたことに驚いたものですが、結局これにてフィリップスレコード時代はピリオドを打ちます。
 
 ということで東芝EMI移籍第1弾は、87年7月リリースの「 A・r・i・e・s(紙ジャケット仕様) 」。ナンノ主演の大映ドラマ主題歌になった先行シングルにして「A・r・i・e・s/私のすべて」は鳴り物入りで大プッシュ。ジュディ・オングもビックリの衣装をはじめ、何もかも力が入っていたことを思い出しますが、なんといってもデビューを手がけた阿久悠さんの復活でしょう。
 阿久さんとゴールデンミュージックの社長が昵懇なのはよく知られていますが、ホリプロ時代の森昌子以来の縁で、後の松居直美、香田晋、島崎和歌子まで、肝心な時に発注するようなイメージがありますが、この時もそんな感じでした。
 で、このアルバムは全編阿久さんが作詞を手がけ、構成までを練ったコンセプトアルバム。80年代後半の阿久さんは時代を創った70年代とは打って変わって、その感覚のズレが陳腐なムードすら醸していましたが、ここでは林哲司、萩田光雄、船山基紀という手練手管が光る諸氏による安定感抜群のメロディーやきらびやかなサウンドのパワーもあって、ひと皮むけた感じの歌謡ポップスに昇華。
 阿久さん一流の虚構さ加減すら、芳恵ちゃん特有の茫洋なムードに同化しているみたいで、むしろ初期の早熟な等身大路線よりも成功しているのではないかと思えてきます。
 
 続く「 愛愁(紙ジャケット仕様) 」は87年12月リリース。歌謡曲ファンの方はすわ、いしだあゆみのカバーかと思ってしまうでしょうが、残念ながらタイトルだけで同名曲は収録されておりません。
 一気に低迷してしまったシングル「冬の孔雀/他人」をフィーチャーしたアルバムで、歌謡曲を飛び越えたソフト演歌路線なんですよね。阿久悠+三木たかしのゴールデンコンビや、来生姉弟の作品も入っておりまして、シャンソン風あり、GS風あり、ボッサ歌謡あり、バラエティー豊かな構成。
 ただ、エンタテインメントの世界ではまさに不倫が文化という時代だっただけに、今聴くといろんな思いが渦巻きます。そういう意味では、情念いっぱいに力む歌唱より、珍しく英語のフレーズが印象的な「ベイエリア・ホテル」のようなメロウなバラードにホッとするのは、やっぱり淫靡なイメージとは裏腹、本質が生真面目で、清廉潔白に純粋培養された芳恵ちゃんだからこそでしょうか。
 
 88年7月リリースの「 Lover’s sunset+2(紙ジャケット仕様) 」は、従来通りのドメスティックな歌謡曲はあるものの、荒木とよひさ+堀内孝雄コンビ提供の爽やかなオールデイズタッチのシングル「黄昏のダイアリー/青春譜」や、リプライズも収録された「NA・GI・SA」など、メロウな芳恵流リゾートアルバムといっても過言ではない趣。ただし、夕陽が綺麗なカリブ海の渚やハワイのサンセットビーチを歌ったのだとしても、そこは日本海の羽合…という感じは否めません。
 とはいえトータル的には、メインアレンジを担当した倉田信雄さんのサウンド効果もあって、こじゃれた歌謡ポップスにまとめられています。
 ボーナストラックは、ハマクラナンバーに挑戦したシングル「愛しただけよ/ゆめいろクラブ」。カラオケブームも意識した企画盤っぽいイメージでしたけど、ロングヒットになりましたし、あの粘り気を帯びた軽さは芳恵ちゃんしか出せない独特の世界でした。
 
 そしてラストは89年5月リリース、バブルアイドル衣装のジャケットに違和感を抱いてしまう「 YES, I LOVE YOU~運命を超えて~+2(紙ジャケット仕様) 」。
 日テレ出身ならでは、火曜サスペンス劇場のテーマ曲に抜擢された筒美京平作品「化石の森」をオープニングにしてはいますが、中身はWINK作品で脚光を浴びるさなかの及川眠子や、DARLIN' としてデビューする石田正人ら新進の作家陣を迎え、きらめきの鷺巣詩郎サウンドで送るポップな新境地。そういえばピンキーパンチな魅力も漂っているような気もします。
 ただ、当時はバブルも相まっていろんな面での音楽業界革新もあり、世代交代といいますか、アイドルのみならず女性シンガーまで一部を除き80年代前半に活躍したほとんどのアーティストのセールスが落ち、リリースがなくなっていった時代。試行錯誤もさもありなんな様相だったのですよね。芳恵ちゃんも例に漏れず、活路を見いだしたはずの歌謡曲・演歌路線も成果が出ず方向性を見失うワケですが、それが逆にとっても魅惑的なのですよね。やっぱり芳恵ちゃんって、「No.1」以来ずっとそういう運命(さだめ)の人なのかもしれない。
 サウンドにしても、オリジナル盤ではなく今のマスタリングで聴いた方が再評価が高まりそうな予感もします。半分英語詩にも挑んだ「まどろみTwilight」や、ラストの「夜明けの迷路」「愛を信じて」の流れなんて、ちょっと感動的ですらあります。
 ボーナストラックは「化石の森」のB面「4月の手紙」と、カバーブームを受けて目標だったであろういしだあゆみのリメイクに挑戦したラストシングル「あなたならどうする」。
 方向性は間違っていなかったはずですが、これを最後に歌手活動からしばらく遠ざかることになります。
 
 と、またまた長くなりましたが、以上が芳恵ちゃんの紙ジャケ復刻後期。
 全タイトル購入者を対象にした特製グッズ・プレゼントキャンペーンも実施予定だそうですが、こうして振り返ったら、ハードルが高いような気もしてきました…。
 
 でも芳恵ちゃんにはハマると抜け出せないような中毒性の魅力があると思いますので、一人でも多くの方が芳恵ワールドの沼にハマることを願っております。歌謡曲歌手として、もうひと花もふた花も咲かせるべき実力のある存在なのですからね。
 
 

(2018.7.11)
 
 
*柏原芳恵SHM-CD/紙ジャケット・シリーズ全18タイトル購入プレゼントは「ピクチャーレーベル両面コースター×6枚セット」とのことです。
 

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