ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#898
柏原芳恵 SHM-CD/紙ジャケット・シリーズ 前期9タイトル
How To Love +2UPCY-9811)・Lovely Songs +2UPCY-9812)・ハロー・グッバイ +1UPCY-9813)・サマー・センセイション +4UPCY-9814セブンティーン +6UPCY-9815)・春なのに +2UPCY-9816)・夢模様 +1UPCY-9817)・タイニー・メモリー +5UPCY-9818)・LUSTER +2UPCY-9819
2018.8.29発売、各¥2,315+税、SHM-CD

オリアル18作が2カ月連続で紙ジャケ単品復刻!

 ファンタにビタミンCが入った時ぐらいの大ニュース!
 ちょっと大物、80年の夏をひとりじめにしたNo.1ギャル、柏原よしえ(芳恵)さんがデビューして38年。なんと80年代に発表したスタジオ録音のオリジナルアルバム全18枚が、2カ月連続で紙ジャケット仕様のSHM-CDとして一挙復刻されることになったというのです!
 
 よしえちゃんのオリアル復刻は、2005年、満25周年のアルバムBOX「25th Anniversary Complete Album Collection」以来ですから13年ぶり。
 しかも今回はバラ売り、紙ジャケット仕様のSHM-CDでボーナストラック付き、オリジナル・アナログテープからの2018年最新リマスター音源となっておりますからね。うれしさもひとしおであります。
 
 ちなみに、前期は発売順に「 How To Love+2(紙ジャケット仕様) 」「 Lovely Songs+2(紙ジャケット仕様) 」「 ハロー・グッバイ+1(紙ジャケット仕様) 」「 サマー・センセイション+4(紙ジャケット仕様) 」「 セブンティーン+6(紙ジャケット仕様) 」「 春なのに+2(紙ジャケット仕様) 」「 夢模様+1(紙ジャケット仕様) 」「 タイニー・メモリー+5(紙ジャケット仕様) 」「 LUSTER+2(紙ジャケット仕様) 」という9タイトル。
 Q盤で復刻されていた「春なのに」、2 for 1企画( こちらで紹介)で「春なのに」とカップリングで復刻された「ハロー・グッバイ」、そしてオリジナル発売時にCD化済みの「LUSTER」以外は単品復刻は初となりますので、アルバムBOXを買い逃したのみならず、お目当ての単品再発を望んでいた人などなど、喜んでいる人は多そう。
 たぶん当時からベストセラーを続けていた中島みゆき作品集「春なのに」と、筒美京平作品集として評価の高い「LUSTER」がツートップのような気がしますが、なんたって芳恵ちゃんは昭和最後の歌謡曲歌手ですからね。それ以外もオススメはたくさんあります。
 
 前期の9タイトルを簡単に紹介しますと、まず80年12月発売のファーストアルバム「 How To Love+2(紙ジャケット仕様) 」は、デビューシングル「No.1/何でもない何でもない」、第2弾「毎日がバレンタイン/100%のかなしみ」、第3弾「㐧二章・くちづけ/レディ直前」を含む12曲。
 阿久さんの休筆宣言明けの鳴り物入りデビューで、デビュー曲は都倉俊一さんとのピンク・レディーコンビ。第2弾は川口真さんとの新沼謙治コンビ、第3弾は大野克夫さんとのジュリーコンビというように、初期は阿久さんのバックアップを受けておりました。
 これは「スター誕生!」第1号の森昌子以来、阿久さんと関係の深い所属事務所・ゴールデンミュージック社長との縁もあったのだと思います。事実、スタ誕のデビューコーナーでは、タモリを交えた振り付けレッスンなどもあり、大プッシュされていましたね。
 でも、アルバムにはシングル曲以外阿久さんの書き下ろしはなく、バラエティーに富んだ選曲。ショパンの曲をモチーフにした「ひだまり」や、キャンディーズコンビの千家和也+穂口雄右による70年代正統派アイドルポップスも出色ですが、特筆すべきはホリプロから分かれたゴールデンミュージック所属ならでは、佐々木勉作品の「スプリング ハズ カム」でしょう。テレビでは第4弾シングルのような扱いで披露されたこともありますが、よしえちゃんの方向性の一つとして検討されたであろう榊原郁恵路線はとてもハマっております。
 ちなみに、ボーナストラックには、よしえファンを公言していた近田春夫さん作の第4弾「乙女心何色?/チャンスは急に」。ジューシィ・フルーツやザ・ぼんちでノリにノっていた近田さんのイジリにも負けない逸材感が漂っております。
 
 デビュー1年目は今ひとつ抜けきれず、新人賞レースでも埋もれた感のあったよしえちゃんですが、81年の初夏、B面で起用していた網倉一也をA面に昇格させた第5弾「ガラスの夏」で上昇気流に乗ります。
 陰陽兼ね備えたよしえフィーリングにぴったりの楽曲を手に入れ、まるで男物のYシャツを羽織るがごとくビッグサイズのシャツワンピをまとったよしえちゃんは、デビュー時のぎこちなさが消え、15歳とは思えないほどのセクシーさが炸裂。それまでのアンバランスさといいますか、素材はいいのにどっちつかずだったルックスや楽曲のイメージが合致し、「ザ・トップテン」ではトップ10入りを果たすなど、ファン層をぐんと拡大させるのですね。
 
 そんなモニュメント的スマッシュヒット「ガラスの夏/フィフティーン・ラブ」を含むセカンドが「 Lovely Songs+2(紙ジャケット仕様) 」。
それまで、同期の河合奈保子と同じカテゴリーだった70年代的歌謡ポップス枠から抜け出し、岩崎良美や松田聖子が展開していたナウな80年代アイドルポップスへと近づいていくムードが漂っています。
 なお、ボートラは、再び阿久さんを起用した6枚目のシングル「めらんこりい白書/抱きしめる、という感じ」。余談ですが、この時、陰なA面より、船山基紀アレンジも素晴らしい陽のB面を推した方がブレイクが早まったのではないかと当時から思っておりますデス。
 
 結局、よしえのブレイクシングルとなったのは、臨発っぽくもありながら必然的だった「ハロー・グッバイ」。ご存じアグネス・チャン、讃岐裕子へと歌い継がれてきたナンバーのカバーでしたが、この曲こそが西城秀樹「眠れぬ夜」が火をつけ、岩崎宏美「すみれ色の涙」、石川ひとみ「まちぶせ」へと広がったリバイバルブームを決定的なものにし、廃盤ブームをマニアから一般大衆へ、世代を超えて浸透させていく役割を果たしたように思います。
 
 というワケで、81年12月発売のアルバム「 ハロー・グッバイ+1(紙ジャケット仕様) 」はシングルのイメージを広げていったのでしょう。前作より一歩後退した感じの古い歌謡ポップス。でも、それこそが唯一無二のよしえ路線ではないかと思います。
 レコード大賞ではヨシリンに競り勝つ感じで、トシちゃんや聖子、奈保子と並んでゴールデン・アイドル賞を受賞。トップアイドルへの階段を上り始めたのでした。
 ちなみにボートラは次作シングルのB面「ロンリー・バースデイ」です。
 
 そして連続ヒット達成で人気アイドルとして定着した「恋人たちのキャフェテラス」を収録し、カーリーヘアに変身した82年6月発売の「 サマー・センセイション+4(紙ジャケット仕様) 」。
 3種類のジャケットで話題を呼んだシングル「渚のシンデレラ」はSE入り。オールデイズのエッセンスあり、ベンチャーズ風のテケテケギターも目立っておりますが、こういうセンスがいかにもよしえちゃんっぽい。正直、再評価されるほどのクオリティとは言えませんが、ツッパリに沸いた82年の夏らしい感じがありますよネ。
 ボートラは「渚のシンデレラ/ロマンチックにI love you」のシングル・バージョン、A面はかの細野晴臣作の臨発企画シングル「しあわせ音頭/恋人よ帰れ」となっています。
 
 17歳のバースデイを機に、よしえから芳恵へ。谷村新司作品「花梨」から表記を漢字に改めた芳恵ちゃん。
 82年11月リリースの「 セブンティーン+6(紙ジャケット仕様) 」は文字通り等身大。Kとブルンネンのカバーにして歌謡曲歌手としての存在感を示した筒美シングル「あの場所から」、件の「花梨」ともにアルバムバージョンで収録。
 シングルB面の筒美作品「あした…恋」の名曲名唱ぶりもさることながら、ここでの注目はやっぱりチンペイさん書き下ろしの「君に捧げるアリア」でしょう。百恵ちゃんの「ラスト・ソング」や「This is my trial(私の試練)」に連なるチンペイバラードですが、同時期に芳恵ちゃんのスタ誕の後輩、ルー・フィン・チャウにデビュー曲として書き下ろした「スター誕生」の姉妹曲と言える仕上がりです。
 なお、ボーナストラックは、「あの場所から」と「花梨」のシングルバージョンに、コンパクト盤「よしえのクリスマス」に収録の「ジングル・ベル」「赤鼻のトナカイ」「サンタが町にやってくる」「きよしこの夜 (賛美歌)~よしえのクリスマスメッセージ」までを網羅しています。
 
 続く「 春なのに+2(紙ジャケット仕様) 」は83年2月発売、中島みゆき提供のタイトル曲で立ち位置を確立したみゆき作品集。昔から「曲を頼まれても同類項の人にしか書かない」と公言していたみゆきサンが、アイドルでは数少ない同類項として認めたのが芳恵ちゃん。まさに“柏原芳恵、中島みゆきを歌う”企画です。
 当時のみゆきファンはおそろしく攻撃的で排他的な方も多く、オープニングの「ボギーボビーの赤いバラ」のイントロやコーラスで早くも失笑されたり、淳子のみゆき作品集「20才になれば」同様に酷評されることが多かったのですが、17歳の少女が解釈する中島みゆきという点で言えば、イヤハヤこれが特筆すべき仕上がり。
 「私の声が聞こえますか」と「臨月」からの選曲が目立ちますが、前者からの「渚便り」「海よ」で見せる力量の追いつかなさを揺らぎの魅力に変えた無意識的技巧や、後者の「バス通り」「夜曲」で垣間見せる軽さゆえににじみ出た重みみたいな、歌謡曲歌手としての才能を証明する1枚、といえば言い過ぎでしょうかね。
 ボーナストラックは、阿木燿子+宇崎竜童による次のシングル「ちょっとなら媚薬/Blue Honeymoon」ですが、変身の面白さも含め百恵路線を狙っていたのは確かでしょう。
 
 次の「 夢模様+1(紙ジャケット仕様) 」は83年7月発売。
 フォーク・ニューミュージック路線へとさらなる歩みを進めたもので、シングルA面を初めて含まないというアルバムアーティストとしての意欲を感じる1枚。
 南こうせつ、伊勢正三、西島三重子、井上陽水(田所純一郎名義)、友部正人、オフコースの松尾一彦、ポプコン系の藤田久美子と豪華な作家陣。ですが、そこは歌謡曲歌手としての本領を発揮し、ネットリ、コッテリしたフォーク歌謡の世界を醸成しています。
 何せオープニングはまさかの芳恵テレホン。「野々村病院物語」などで演技にも挑戦していました芳恵ちゃんではありますが、ここまで延々と続くと…。でもそんなところもザ・柏原芳恵という感じですネ。
 なお、藤真利子が呉田軽穂に対抗して微美杏里というペンネームで書いた名作シングル「夏模様」は収録さていませんでしたが、今回はボーナストラックとして補完されています。B面の「坂道」もけだし名曲ですよね。
 
 そうして絶妙なハマリ具合のフォーク歌謡路線は続き、83年11月リリースの「 タイニー・メモリー+5(紙ジャケット仕様) 」は“柏原芳恵、松山千春を歌う”。みゆきの次は千春というチョイスがうならせますが、シングル「タイニー・メモリー」の流れをくむ松山千春作品集です。
 千春のアルバム「君のために作った歌」から「大いなる愛よ夢よ」まで、わりとまんべんなく選曲されていて、千春もたいそう褒めていたような記憶があります。
 芳恵ちゃんのボーカルの湿度が千春の世界にじっとりと絡みつく感じで、ここでも千春を自分の世界に引き寄せていて、ホント希有な歌謡曲歌手だなと思うワケであります。芳恵ちゃん自身も大のお気に入りの「南風にのせて」が出色です。
 ボートラは、「タイニー・メモリー」のシングルバージョンや、次作の中島みゆき提供シングル「カム・フラージュ/雪」に加え、ベストアルバム「ギャラリー」のカセット初回盤にのみ収録されていた「キミだけの未発表ライブ“オー・シャンゼリゼ”」「芳恵のハラハラ・ドキドキ・インタビュー」と大サービス。
 
 そして前期最後となるのが、84年4月リリースの全曲を筒美京平先生が作曲した実験作「 LUSTER+2(紙ジャケット仕様) 」。
 アレンジは、LAで最先端のサウンドを仕入れてきた船山基紀さんが全曲を担当。先行シングル「ト・レ・モ・ロ」で度肝を抜いたように、最新鋭のデジタルシンセ・Fairlight CMIを使った斬新な打ち込みサウンドを展開しておりますが、これが芳恵ちゃんの生々しいボーカルと不思議にマッチしていて、とても良いのです。ボコーダーやボーカロイドの対極を行くような、これぞミスマッチの魅力というものでしょう。
 作詞家陣はシングルの松本隆さん以外は、秋元康、下田逸郎、銀色夏生とトレンディーかつ感覚的な諸氏が手がけていますが、群を抜くのが下田逸郎さん。
 筒美フリークの間ではアバのアグネタの元ネタが多いと評判で、ラストの「フィンガー」も「To Love」という曲にそっくりですが、下田さんのロストバージンをきっかけに自己解放していく姿を描いた歌詞と芳恵ちゃんのボーカルが逆にピュアな感じを際立たせていて、うっとりする仕上がりです。
 サビが中原理恵の「想い出ランデヴー」を焼き直した「エトランゼ」などもいいですが、芳恵ちゃんの筒美作品の真骨頂は、銀色夏生とのタッグとなった次作シングル「悪戯NIGHT DOLL/渚で瞳にアイ ラブ ユウ」ではないかと思っています。銀色作品は難解なため、芳恵ちゃんの得意とするねっとりとした情感を込めにくかったのが功を奏しており、特に「渚で瞳にアイ ラブ ユウ」はメロウな傑作。今回2曲ともボーナストラックで入っているので必携です。
 当時、LPとCDではジャケットの色目からして違っていましたが、今回は紙ジャケなのでLPの黄色でしょうね。
 
 と長くなりましたが、以上が芳恵ちゃんの紙ジャケ復刻前期。25周年と30周年のアニバーサリーイヤーにはそれぞれ2つのBOXが出ておりましたけど、今回は何もなかった35周年を穴埋めするがごとくの企画。フィリップスレコードも東芝EMIも同じユニバーサルとなったからこそできる大型企画なので、初再発を含む後期にも期待したいものです。
 
 なお、全タイトル購入者を対象にした特製グッズ・プレゼントキャンペーンも実施予定だそうで、やっぱりコンプするべきでしょうか。一気にそろえるとなると、1期だけで2万超えしますが、生産限定盤なのでお早めにネ!
 
 

(2018.6.10)
 
 
*柏原芳恵SHM-CD/紙ジャケット・シリーズ全18タイトル購入プレゼントは「ピクチャーレーベル両面コースター×6枚セット」とのことです。

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