キラキラハウス系! 千秋監修、聖子のシーズンカバー第1弾!
いよいよ2010年の年の瀬も押し迫ってまいりました。相も変わらずCD不況と呼ばれた1年ではありますが、パッケージ愛好層がしっかと支える復刻市場は紙ジャケ、ボックス、ベストなどなど、驚愕や苦肉のタイトルも含め多数のリリースが続きました。今年もまた感謝の1年で締めくくることができて、旧譜ファンにとっては幸せな1年になったことだと思います。
とはいえ断捨離などのシンプルライフが叫ばれる昨今。モノよりココロ的な考えの割にココロが狭い人が増えているのか、モノを持っている人への風当たりが強くなってしまう状況では、肩身の狭い思いをしている旧譜ファンは多いんじゃないかと思います。
決してコレクターとは呼べないワタシも、CDのみならず買わずに後悔するより買って後悔したいというタイプですし、狭小な部屋にいますもんで、周りの人々からは「時代に逆行している!」と言われたり、ドン引きされたりすることも多々あります。
そんな時は聴いている音楽自体「逆行してるんだもんね!」と開き直るしかなかったりして。これでも再発の際は手持ちのもの必ず下取りに出していますし、けっこう整理してはいるんですけどね。
と、そんなこんなの1年ですが、今年このコーナーでご紹介した中で最も登場回数が多かったアーティストは誰だと思います? まあ当然と言えば当然、30周年というアニバーサリーイヤーを迎えた松田聖子なのでした。
古巣のソニーからはシングルBOX(こちらで紹介)やサントラBOX(こちらで紹介)、B面名ベストの続編やDVD編ダイアモンド・バイブル(こちらで紹介)、いま在籍するユニバーサルからは前回在籍時のオリアル紙ジャケ復刻(こちらで紹介)と、とにかく大量のリリースが続きました。
昨年の30周年突入時にはオリアルのブルスペ復刻やダイアモンド・バイブル(こちらで紹介)や、ライブDVDのブルーレイ化にクリスマスベストも出ていますし、コレにニューシングルやニューアルバム、コンサートツアーやカウントダウンライブのDVDなど、発売ソフトを全部追ってしまうと、まさに身上つぶしちゃうほどではないかと思います。
ホント、30年を経た今でも多くの人々に愛され、頂点に立ち続けるスーパーアイドル。それは、このリリース数だけで十二分に実証できますよね。まるで、伝説や神話にならずとも崇められる生き神様のオーラさえ漂っているようです。
ずっと第一線にいて新作もコンスタントにリリースし続けている聖子ですが、多くの人が“神曲”と讃えるのはやっぱり80年代。中でも松本隆さんが中心になった一連の名作群は、一生ものの魅力ですよね。
かくいうワタシも、新譜も出るたびに義務として購入してはいますが、中にはスキップしまくりで1枚通して聴いたことのないアルバムも結構あったりして。
というワケで、結局は80年代の聖子ばかり聴いてしまうことになるんですが、80年代の聖子はもう新曲を出してくれないし、お蔵入りしていたナンバーも出る気配がないし、あのキラキラした名曲群が増えることももうないのか…と思っていましたら、この年末、とびきりステキな1枚にめぐり逢うことができました。
それが、聖子ファンで知られる千秋が選曲・監修したオフィシャルカバーアルバム第1弾「 MemorieS~Songs for the Season of White~ 」なのです。
タワレコで平積みにされるなど大プッシュされていましたし、ヴィレッジヴァンガードでは、今回ボーカリストとしても参加したシンガー・ソングライティング・アニメーターのフレネシ書き下ろし“聖子ちゃんカットネシ子”のイラストスリーブの限定特典付きで大々的に販売されたりしていたので、師走のショッピングの際、思わず手に取った方も多いことでしょう。2千円ポッキリのリーズナブルなプライスですしね。
これまでにも、往年の80年代を中心にした聖子トリビュートアルバムやクラブ・リミックスアルバムは結構出ていますが、ワタシの場合、近年の聖子のアルバムみたくリピートしなかったほど(英語カバーや、カラベリや三枝さんのインスト盤は愛聴しております)なので、今回もスルーしておったのです。
ところが、聖子ファンでも何でもないはずの若い森ガール系のコから、「コレ、いいですよ」と聴かせてもらって仰天。
クリスマスもずーっとリピートしたほどハマってしまったことですし、復刻盤ではありませんが、2010年最後にご紹介するタイトルとして取り上げさせていただくことにしました。
これは、シーズンごとにリリースされる予定のカバーアルバム第1弾となる冬編。
セカンドアルバム収録の「白い恋人」から、「真冬の恋人たち」「マンハッタンでブレックファスト」「ハートのイアリング」「時間旅行」「雨のコニー・アイランド」「抱いて…」「Pearl-White Eve」まで、千秋がこだわって選んだ10曲を、クラブシーンやカフェシーンで活躍中のアーティスト10組がそれぞれボーカリストをフューチャーして完成させたものです。
千秋ってば、古くはゆうゆ、最近ではしょこたんとか、聖子を“ネ申”と讃えんばかりのアーティストの1人みたいに思われることが多いようですし、スペースシャワーTVに出てた頃からそんな感じでしたけど、並々ならぬボーカルの才能がありますし、とにかくセンスがずば抜けていますよね。
今回の選曲しかり。近年のカウントダウンでは久々に聖子も歌った初期の「白い恋人」以外は、すべて松本作品。詩心も大切にする千秋らしいセレクトらしいなと思いますし、曲は大村雅朗、松任谷由実、佐野元春、大沢誉志幸、大江千里、デビッド・フォスター、そして聖子自身と、色とりどりのナンバーが勢ぞろい。結婚後の作品が半数を占めているというのも、シブ好みの千秋所以でしょうか。
そしてサウンド。一言で言えばとっても聴きやすいキラキラハウス系で、ボーカルはイマドキのシュガーボイスやキャンディーボイスの百花繚乱状態。と書くと、オジさんやオバさんには…と二の足を踏む人も多いかもしれませんが、心配ご無用、まったく違和感なし。
得意の妄想ですけど、それは今日はびこるシュガーボイスやキャンディボイスなアーティスト、日本語のガーリーポップでもちゃんとボーカルが評価されている子たちって、とどのつまりみんなガーリーポップの革命者・聖子から派生している存在だからではないでしょうか。
前のトリビュートアルバムのメンツでいえばYUKIやCharaの歌声は幼少期の聖子体験をデフォルメしたのかもしれないし、今回の若い参加アーティストたちは隔世遺伝か母子感染という症状かもしれない。
すなわち聖子以降に登場したガーリーポップのアーティストはみんな聖子のDNAを受け継いでいて、聖子ソングを歌う時はそのDNAが覚醒し、聴く我々の血肉となり魂に刻み込まれた聖子の甘美な記憶を呼び覚まし、脳内に快楽物質を分泌する…だから違和感がないどころか、とっても心地良いんじゃないか、なーんて。
まあ、インディーズ系の人たちなどには、水森亜土ちゃん系列も多くいらっしゃるような気がしますが…。
さて、ゴタクが過ぎてしまいましたが、イチオシはやはり監修者。キャンディはキャンディでもミント味、クールな歌声の千秋です。
ここではnote native×千秋として、今回唯一のユーミン作品「瞳はダイアモンド」に挑戦。ユーミンにミヤコ蝶々に似ていると言われ、昔からかわいがられてた千秋。ポケビ時代にはコラボシングルやライブも行った仲ですから、ハマるハマる。
この曲の魅力を知り尽くした千秋ならでは、最初はビックリしたテンポとサビも聴くほどに快感になってきます。ユーミンもセルフカバーしていますが、千秋の前には頭を垂れる、という感じではないかと思っています。
そのほかも、ファン目線で見ても「オリジナルもいいけど、こっちもイイネ!」と思える仕上がりになっています。この先続くという春夏秋の3タイトルも楽しみですが、まずはこの冬編をお手元に。年末年始がウキウキ気分で過ごせるはずですよ。なお、 こちら では試聴もできますんで、ぜひお試しください。
ということで、今年も皆さまにご愛顧いただきましたナツメロ喫茶店、このへんで御用納めにいたしたいと存じます。皆さま、よいお年をお迎えください。そして、来る年もよろしくお願いいたします。
と、おしまいになるはずが、ボーナストラック気分で蛇足をば。
文中で触れた松田聖子という天性のボーカリストの普遍的な魅力について…あの声質と歌い方を言及していくと、実はあるお手本に行き着くのですね。むろん妄想ではありますが、それをちょこっとだけ書いておしまいにしたいと思います。
サンミュージックという老舗の芸能プロ出身ですから、歌だけでなく、発音や発声など基礎のレッスンはちゃんと積んでいた聖子。言葉を美しく正確に発声するのが一番と教えられた最後世代のような気がするんですが、よく伸びる正統派の歌唱をベースにしながらも語尾をしゃくり上げてみたり(小田裕一郎さん譲りらしいです)、発音の基本レッスンで必ず出てくる鼻濁音をあえて使わず(先輩の淳子があまりに鼻濁音過剰だったせいかもしれませんが)ローマ字っぽい発音にしたり。きっと洋楽っぽいエッセンスを出すことを狙ったのではないかと思うんですね。
そしてブリッコと呼ばれるに従って、次第に舌足らずさを強調して「る」を「どぅ」と発音してみたり、スタッカート気味に歌ったりしていったものでした。もちろんハードスケジュールによるノドの故障や、それをかばうための発声というのもあったでしょうが。
結局はそれが奇跡を呼んでいくのですが、それには実はお手本があったと思うのです。
デビュー前から、勉強のために同じCBS・ソニーの南沙織などポップス系のLPを聴かされていた聖子。シンシアの歌をデモで吹き込んだり、持ち歌が少なかった頃のコンサートで披露したりしましたが、彼女がコピーしようとしていたのが太田裕美でした。
舌っ足らずなところが似ていると言われたせいか、聖子はあの頃のアイドル必須のモノマネのレパートリーとして、太田裕美を取り入れたのですね。素人とガチ対決の「歌まね振りまねスターに挑戦!!」などでも「南風-SOUTH WIND-」とか「君と歩いた青春」を披露するなど(全然似てなかったけど)、ハードなスケジュールの中かなり練習していたのは確かです。そしてキャンディボイスを会得した…。
いかがでしょう? 松田聖子のキャンディボイスのルーツは太田裕美という説。松本隆の創作意欲をかき立てた2大巨頭という事実も、信憑性が高まる感じが出ると思うんですが…。ただでさえ気ぜわしい年の暮れにもかかわらず、バカみたいな戯言で失礼しました。
なおOMFの「太田裕美オール・ソングス・コレクション」、アンコールプレスのキャンセル分は3カ月ほど売れ残っていたようですが、先ごろ無事に完売した模様です。皆さま、ありがとうございました。(実はコレが言いたいがためのこじつけ蛇足だったりして…)
(2010.12.28)